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日本で唯一 昼休みに生徒達が「漆塗り」をする中学校のお話

今日はタイトル通り、岐阜県の中学校で日本で唯一であろう素敵な光景を目にしたときのお話。

そもそも9000年以上も続いてきた日本の文化である"漆"が、なぜ学校教育で体験できるケースが少ないのか?

海外からは漆のことを"JAPAN"と呼び、日本の象徴的な文化であり、子どもたちが伝統文化を学ぶ上で欠かすことのできない存在であることは確かかと思います。
そしてそれ以上に、日本人の大切にしてきた"心"、精神的な意味での日本人のアイデンティティを学ぶ上でとても重要なものが漆だと思います。

多治見中学校授業風景

でも、やっぱり「漆はかぶれるから危ない」とか、「親からのクレームが...」など、漆の業界の人たちからさえこういった声が聞こえてくるほど、漆体験を授業で進めることが難しいのも確かなこと。

実際に、4年前ワークショップを始めた当初から、周りの同業者さんからのあらゆるご指摘の言葉は、こういったリスクが業界の中でもネックとしてあったからではないかと思います。

鈴木祥司先生

「言葉と体験を通して、子どもたちの心に火を灯す」
多治見中技術家庭科の鈴木祥司先生が大切にする素敵な言葉に、今回見た光景の答えが全て詰まっていました。
(2024年4月から県内の別の学校に転任されました。)

漆かぶれのリスク

手袋アームカバーは必須

そもそも教育現場で漆を使うと「漆かぶれのリスク」がつきまといます。皮膚に漆がつくと基本的には誰でもかぶれるのが漆。

子どもたちが30人以上いる教室で安易に漆塗りの体験をしようものなら、先生は注意を払わないといけないことだらけです。

例えば、不意に漆のついた手でマスクをさわる子や、メガネを治す子。頭を掻く子や、ふざけて友達を触る子。
結果、身体中がひどくかぶれて、親御さんからクレームが入れば、学校としては1発アウト、、これが教育現場のやるせない現実です。

小3のとき、興味本位で墨汁のついた筆を竹とんぼみたいにブルブルッと回転させてみたときの、予想を超える周囲への大きな被害と、その後数日間の女子からの冷たい目線を思い出すと、身の毛がよだつ思いになります。
#これが漆じゃなくてよかった
#セーラー服は墨汁の汚れがよく目立つことをまた一つ学んだ

こんなかんじ

教育現場で漆が普及しないもう一つ理由は、「そもそも漆を使える大人が少ない」ということ。
いくら学校の先生とはいえ、子どもたちに漆のことを教えたいと思っても、先生たちでさえ漆器を使ったことさえない方も少なくないのではないでしょうか。

そういった意味でも、キャンプ場やアウトドアショップでワークショップを続ける理由は、とにかく漆を身近に感じてもらえる人を増やすこと。
そして自分が大切に塗ったギアとウイスキーを片手に焚き火を囲みながら、日本人の心"分かち合いの精神"で語り合ってもらうことが、ヌーの活動の本質です。

小学一年生のうちの坊主が、一生懸命漆を塗ったえんぴつを学校に持っていき、意気揚々と先生に見せたところ、思い描いていたリアクションが得られず、その夜一人でブツブツ言いながらえんぴつを削ってたことを思い出しました。笑

#先生はわるくないよ
#元気出せ坊主

火を灯すという言葉の意味

2022年10月、多治見中学校の鈴木先生から「1年生に漆体験授業をしてほしい」というDMをいただいたことをきっかけに、授業をさせてもらった時のこと。

当日は先生の粋な計らいにより、合唱コンクールの練習を披露してもらったり、一緒に給食を食べさせてもらったり、昼休みにはドッジボールをしたりと子どもたちとのコミュニケーションの場をいただきました。

和んだ空気のまま、授業を開始。
漆の説明をただただするのでは面白くないし、ネットを調べればできる。自分にしかできない授業をしようと望み、「幼少期の家業と親との葛藤」を交えてお話をしました。

その日。一番驚いたことがありました。
それは、

子どもたちの、漆への興味が半端ないってこと...(なんで...?)

大人でさえなかなか興味をもつことが難しい漆。いったいなぜこの子達はこんなにキラキラした瞳をして漆を見ているのか。

授業開始早々。展示したキャンプギアに群がる生徒たち。

「触っていいですか!?」
「わーーツルツルで綺麗!」
「モルックにも漆が塗ってる!?」


と、まるでアイドルと化した漆と僕。ただただ驚くばかり。
その答えは先生の大切にされている理念にありました。

「言葉と体験を通して、子どもたちの心に火を灯す」

"火を灯す"という言葉には、比喩的に表現する場合、何かを始める、活動を促進する、または情熱や興奮を引き起こすという意味があります。
そもそも、灯す側に火が灯っていないと、灯される側に火が燃え移ることはないですよね。
だから僕の解釈では、火を灯すためには灯す側に燃え盛るような炎が必要だってこと。

授業をさせてもらったその日にはすでに、子どもたちの心には、火が灯っている状態で。
あとは僕の仕事は、燃えてる火に油を注ぐだけ。
#ちょっと意味が違うか

鈴木先生が毎日子どもたちに対して生き生きとした姿を体現し、心で語りかける。
そして授業では、漆ギアを見せたり、GNUのインスタ画面を見せたりした日々が想像できました。

授業中、僕の言葉ひとつひとつにうなずきながら必死に何かを感じ取ろうとする彼らの姿からは、心から感動しました。

話は逸れますが、イチロー選手が言ってた言葉で「チームにキャプテン(リーダー)って必要ですか?ってよく聞かれるけど、僕は必要ないと思う。それより大切なことは、何かを感じ取ろうとするやつがそのチームにどれくらいいるかってこと。リーダーがいたって、感じ取ろうとするやつがいなけりゃチームは強くならないでしょ。」

って。
燃え盛っている大人の言葉ひとつひとつを、感じ取る力。鈴木先生が日頃子どもたちに「生き方を教える」と言っておられることの一つのように感じました。

後日、鈴木先生と焚き火を囲む機会があったときのこと、
「僕は教育のプロ。中学の技術家庭科の教員として、ものづくりを通し子どもたちに"生き方"を教える立場です。いいモノやいい考え方に触れさせてあげて、子どもたちの心に火を灯したい。」


自分の子どもに、こんな先生のもとで学ばせてあげたい。って思いませんか?笑
僕は思います。

漆の授業が技術家庭科の通常授業に組み込まれた!?

あの授業をさせていただいたのが2022年11月。
その後の鈴木先生の働きかけにより、なんと次の年の4月からは多治見中学校の技術家庭科の時間に「漆塗り体験の授業」が組み込まれました!!

中学校...前代未聞の...日本初の...

漆塗りは一回塗れば終わりではなく、10回以上塗り重ねていきます。授業のあとも、先生が180個のキーホルダーの漆塗り。
生徒の希望者と一緒に昼休みに作業をされていたそうです。

実はこのプロジェクトでも鈴木先生と・・・

KINDI漆おもちゃプロジェクト

いくつか記事にはしましたが、NICU(新生児集中治療室)のスタッフさんと立ち上げた、病院の子どもたちに漆塗りの積み木を寄付するプロジェクト。
漆塗りを手伝ってくれる方々を呼びかけたときに、いち早く動いてくださった中の一人が鈴木先生でした。


まずは校内放送で、プロジェクトの目的の一つであるNICUで育った"リトルベビー"のことを子どもたちに周知。リトルベビーの理解が深まるよう丁寧に説明してくださいました。

それだけにはとどまらず学校内の至る所に、ヌーロゴと"KINDI漆おもちゃプロジェクト"の文字が。笑
どうやら昼休みに、生徒たちと一緒に積み木の漆塗りをしてくださるとのこと!?

職員室の扉には「今日の昼休み、漆塗りやります」と「今日はお休みです。」のOpen closeの看板。
喫茶店式、子どもたちへのアナログな通達方法が、なんだかほっこりしました。。

これを生徒たちは逐一確認。昼休みになると技術室に我先にと駆け込んで集まってくるわけです。
コレ、もちろん、自主的にです。笑

ここで驚きなのが、以前授業をした生徒たちを中心に、「漆の塗り方」を生徒たち同士で教え合っているということ!
漆塗りを...ですよ?
こんな光景、間違いなく日本全国探してもここだけしか見られませんよね。笑

かぶれちゃいましたと笑う生徒

真ん中の彼。笑

中には、目をぱんぱんに腫らしながら「かぶれちゃいました。笑」と苦笑いで僕のところに来てくれた生徒さんがいました。
それでも尚、昼休みになると当たり前のように漆を塗りにくる彼。笑

先述したリスクである「漆かぶれ」ですが、たしかに、かぶれるのは怖いと思う人も多いかもしれません。

でも、自転車だって転げて怪我することもあるし、体育のリレーで転倒することだってある。ノコギリを使ってたら指を切ることだってあります。
漆を塗っていて、手について痒くなることだってあると考えたら、別に大したリスクではなくて。
彼にとったら、膝に絆創膏を貼って帰りも当たり前のように自転車に乗って帰るみたいなもんだったのかもしれません。笑

それよりなにより、教える側の大人も、使う側の子どもたちも、漆をしっかりと理解し、学んだ上で使うことが何より大切で。理解していれば怖くはないんです。
もちろん、蕎麦アレルギーみたいなものなので、稀に酷くかぶれる人もいるから気をつけないといけませんが。それも理解していたら怖くありません。

数年前にクラウドファンディングが日本にやってきたとき。「銭ゲバだ、宗教だ」とニュースになったのは、知らないことへの恐怖から物事に蓋をしたわけで。
クラウドファンディングは今では当たり前の挑戦の手段になってますよね。

漆も近いうちにそうなればいいと思ってます。それが、GNUのプロジェクトです。

生徒たちがInstagramで漆文化を広めてくれている

最近ではポツポツと年齢層の若いアカウントが「漆チャレンジ」と題して、インスタで発信してくれることが増えてきました。
これはもちろん鈴木先生の生徒さん。

高校に進学し、お小遣いで買った漆を授業で使うボールペンや、友達とのBBQでつかうカトラリーなどに漆を塗ってくれています。
きっとその周りの友達たちも、そのうち漆を始める人が増えてくるんだろうなぁ。

僕の大切にする言葉。「漆と繋がる人を増やし、感動を分かち合う」こと。

この、"分かち合う"という言葉の裏には、Giveの心が含まれています。
喜びや幸せの感情や、感動的な経験などを他人と共有することで、幸せの感情が増幅したり、お互いに深い絆が生まれます。
これからもこういった動きが生まれるよう、多くのご縁からいろんなプロジェクトを進めていけたらと思います。


GNU urushi craft / 中川喜裕

GNU urushi craftは、「漆文化を広めよう」を合言葉に、様々な”漆の新たな可能性”を探り、5代目塗師中川喜裕が”ヌーの群れ”と共に、漆文化を広める挑戦を続けるプロジェクトであり、コミュニティーであり、アウトドアブランド。


tsumiki salon KINDI / ちひろ

「子育ては幸せなもの」という、自身の出産後に感じた辛い経験を経て積み木に救われた感動を伝えたいと2023年12月活動を開始。
保育士であり二児の母であるCHIHIROが、おもちゃコーディネーターの知識をもとに、積み木の魅力を発信。
「子ども漆器」の開発も手がける。
募集後即完売の積み木サロンも不定期開催。


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