木のぼり男爵

独身者のおだやかな日常

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飛行と浪漫 -Beautiful Japan 吉田初三郎の世界

吉田初三郎の展覧会を府中市美術館でみた。 吉田初三郎は、観光マップなどでおなじみの“鳥瞰図”を大正期から戦前にかけて数多く手がけた画家。 その独自の表現をとおして、いわば鳥観図を“発明”したといってもよい人物だ。 ふだん、初三郎の鳥瞰図をなにかの折に目にする機会はすくなくない。けれど、こうしてまとめてみると彼のこだわりというか、その独創性にあらためて気づかされる。 たとえば、鉄道会社から依頼された沿線図の場合。 風景ぜんたいはまるで魚眼レンズで覗いたように大きく歪ん

    • 自称“立食パーティーのプロ”が言うには

      近ごろめっきり、家では映画を観なくなってしまった。元来が気の散りやすい性分である。じっと2時間あまり画面を眺めているのがつらい。 理由はそれだけではなくて、おなじ時間をいまなら40分くらいずつ3つのことに使いたい。そういうモードなのだ。 とはいえ、観たい作品ならいくらでもある。新作ならば映画館に行けばよいが、どうしたって旧作は家で観るほかないではないか。 それならば、と思いついた。いっそ2時間あまりの映画を3日間にわけて観るというのはどうだろう? よいアイデアだと思う

      • ええい、ままよ

        ひとはいよいよ窮地に追い込まれたというそのとき、思わずこう口にする。 ええい、ままよ いや、本当か? いままでただの一度だってそんなふうに言ったおぼえはないし、身近な誰かがそう口にするのを聞いたこともない。 だいたいそんなふうに言うひとがいたら、誤って現代に迷い込んだ江戸の町人なのではないかと疑って頭にチョンマゲを探してしまいそうだ。 だが、しかし、思わず「ええい、ままよ」と叫びたくなるような心境ならばたしかによく経験する。 6月の初めに、あるイベントにコーヒーを

        • 古本として出回らないような本にこそ出会いたい

          打ち合わせを終えたその足で、新橋駅前の古本まつりに立ち寄った。一年ぶりくらいだろうか。 年に数回開催されるこの古本まつりでは、駅前の通称「SL広場」に30ちかい古本をあつかうテントが立ち並ぶ。 その眺めは、いきなり都心に巨大な古書店が出現したみたいでなかなか壮観なものがある。 とはいえ、本の数が多いからといって自分の欲しい本が見つかるかといえばそれはまた別の話だ。 新橋にかぎらず、こうした規模の大きな古本市を覗いていつも思うのは、その品揃えに共通の偏りがあるということ

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        • 独身者と余暇
          16本
        • 独身者の日常
          23本
        • ほんの立ち話くらいのこと
          3本
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          12本
        • 三行日記
          3本

        記事

          ほんの立ち話くらいのこと

          5月○日 不甲斐なさ 夜、ひさしぶりに会う知り合いと銀座で食事をし、別れた後しばらくひとりでぶらぶら散歩する。 暑くもなく寒くもなく、しかも湿度が低い。こんな夜、一年のうちにそう何回もあるものではない。最高。 午後9時を回れば、渋谷や新宿とちがって潮が引いたように街から人影が消えるのも銀座の好ましいところ。 “今夜の銀座、最高だよ。ちょっと出てこない?” ひとりでも、まあ、不満はないのだけれど、そんなふうにサクッと連絡ができお茶のひとつも(下戸なのでお茶でひとつよろ

          ほんの立ち話くらいのこと

          東京上空50フィートの未来 GINZA SKY WALK 2024

          GINZA SKY WALK 2024 ―――高速道路を歩いて、未来を感じる3日間。 そんなテーマのもと行われた《GINZA SKY WALK 2024》というイベントに参加した。 東京のまんなか、新橋から有楽町、銀座を抜けて京橋にいたる全長およそ2キロの高速道路「KK線」。 《GINZA SKY WALK》は、その「KK線」をゴールデンウィーク期間中の3日間限定で歩行者専用の道路として開放するというイベントだ。 子どもの頃から銀座が好きで、数えきれないほど足を運ん

          東京上空50フィートの未来 GINZA SKY WALK 2024

          氷出しコーヒーを仕込み中 出かけるまでに完成しそうな気配が…… ない笑

          氷出しコーヒーを仕込み中 出かけるまでに完成しそうな気配が…… ない笑

          ほんの立ち話くらいのこと

          4月○日 気づいたらそんな仕事ばかり選んでいた いよいよゴールデンウィークらしい。 なんだか他人事のようだが、じっさいのところまったくもって他人事である。 ふりかえれば、これまでいくつか仕事を変えているがゴールデンウィークに休んだという記憶がない。 ひとが楽しく時間をすごすための仕事ばかり好んで選んできたのだからそれも仕方のないことだ。とうの昔にあきらめている。 仕事は面倒くさいこともある、というか大半は面倒くさいことばかりだけど、それでも笑顔の人びとを見ると救われ

          ほんの立ち話くらいのこと

          本とサンドイッチ、それにコーヒーを携えて隅田川まで来てみたものの、残念ながら外で本を読む季節ではもはやなかった。退散します泣

          本とサンドイッチ、それにコーヒーを携えて隅田川まで来てみたものの、残念ながら外で本を読む季節ではもはやなかった。退散します泣

          ほんの立ち話くらいのこと

          4月◯日 あらやだ! 新宿のSOMPO美術館で『北欧の神秘』展を観た。   あまりなじみのないノルウェーやスウェーデン、それにフィンランドの画家たちの作品ばかりあつめた展覧会だが、自然や神話といったテーマごとにまとめて展示されているので予備知識がなくても十分楽しめる。 個人的に楽しみにしていたのは、スウェーデンのアウグスト・ストリンドバリの《街》という作品。   去年の夏、国立西洋美術館の常設展で《地獄/インフェルノ》という作品を観て圧倒されたのだが、今回の展示リスト

          ほんの立ち話くらいのこと

          東京にあてた恋文

          最近、『追憶の東京~異国の時を旅する』(早川書房)という本を手にした。 著者のアンナ・シャーマンは2000年代のはじめ、10年あまりを東京で暮らした経験をもつアメリカの作家。 この『追憶の東京~異国の時を旅する』は、そんな著者による異色の日本滞在記である。 かつて江戸の市中には、町民に時刻を知らせるための鐘、いわゆる「時の鐘」が点在していた。 その響きに魅入られた著者は、すでに存在しないものもふくめ「時の鐘」があったとされる場所を片っ端からたずね歩き、ゆかりのある人び

          東京にあてた恋文

          葉桜のころ

          日曜日。東京駅からぶらぶらと、日本橋方面を散歩してすごした。 常盤橋を渡って、街路にソメイヨシノの植わった日本銀行の脇道へ。 初夏の陽気。桜はもうすっかり葉桜だ。 葉桜、か。 あまりかんがえたことがなかったけれど、あらためて「葉桜」とはよく言ったものだなあ。 辞書的に言えば、さしずめ花が散って若葉が出始める頃といったところだろうが、それとはべつに、花が散ってなおそこに満開の桜の残像を見ているような、名残惜しむかのような情趣がある。 花よりだいぶ葉のほうが目立ってき

          「シュルレアリスムと日本」覚え書き

          シュルレアリスムはむずかしい シュルレアリスムはむずかしい。 東京の板橋区立美術館で開催中の展覧会「シュルレアリスムと日本」をみての感想です。 むずかしいと言っても、それはかならずしも難解といった意味ではありません。そうではなく、意識をもって無意識の領域を描こうとすることに本来つきまとう困難さ、とでも言えばよいでしょうか。 シュルレアリスムは、アンドレ・ブルトンの《シュルレアリスム宣言 溶ける魚~シュルレアリスムとはなにか?》とともにはじまりました。いまからちょうど百

          「シュルレアリスムと日本」覚え書き

          立ち話くらいのこと

          4月◯日 なぜなんだ スーパーで並んだ列の、前にいるひとがトラブりがち。  4月◯日 匂いの通り道 知り合いがBlueskyで紹介しているのを見て『自炊者になるための26週』という本を読んでみた。 そのなかで、香りを感じ取る経路にはふたつの道筋があるという話があった。 鼻先で感じ取る第一の道筋をオルソネーザル、呼吸とともに時間差で感じ取られる第二の道筋をレトロネーザルといい、そのふたつが組み合わさることでより豊かな香り体験になるといった話だった。 ぼくはコーヒー好

          立ち話くらいのこと

          どうにも気になってしまい映画『異人たちとの夏』をみた

          前回、ん? 前々回の浅草の話からの、これは続きである。 * けっきょく小説だけでは飽き足らず、山田太一の小説を市川森一が脚色し大林宣彦が監督した映画版『異人たちとの夏』まで観てしまった。 主演を風間杜夫が、両親役をそれぞれ片岡鶴太郎と秋吉久美子が演じている。 この映画はすいぶんむかし、たしか十数年前にいちど観た記憶がある。 なんだかへんちくりんな映画だなあと思ったきり忘れていたのだが、今回原作を読んだことであらためて観てみたくなった。 では、2度目に観た感想はとい

          どうにも気になってしまい映画『異人たちとの夏』をみた

          銀座で手紙を書く

          3月〇日 「異人たちとの夏」とすき焼き屋の晩餐 遅読にしてはめずらしく、図書館で借りてきた文庫本を一気読みした。山田太一の『異人たちの夏』という小説である。 ところで、浅草に行った話はこのあいだ書いた。 浅草は「塔の町」であり、「塔の町」というのはなにかしらひとを過去へと連れ戻すようなところがある、とそこには書いたのだった。 その浅草が、この『異人たちとの夏』の舞台である。しかも、主人公の男は子供のころに死別した両親とそこで〝再会〟するのだ。 荒唐無稽にはちがいない

          銀座で手紙を書く