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ドイツパン修行録~習うより慣れろ編~

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6ヶ月に渡る製パンマイスター資格への挑戦を終えた男が、ドイツの小さな街角にたつパン屋で働きながら実践の中で知識を深めていく物語。
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記事一覧

*30 バジル

 早速買った黒の額縁に行儀良く納められたマイスターブリーフが見つめる先に座る私は、さぞ元…

*29 マイスターブリーフ

 今週は片時も休まず心をそわそわとさせながら過ごした。厳密に言えば週の頭頃はまだそれほど…

*28 ハンディキャップ/作者挨拶とお知らせ

 先週欠いていた二人も工房に復帰した。其々に症状を訊いてみたところ、其々に異なっていた。…

*27 筆走る

 まるで歯切れの悪い一週間であった。月曜日に目が覚めてから土曜日に仕事を終える迄、野垂り…

*26 イースター/クラスター

 ドイツのイースターはパン屋にとってクリスマスに次ぐ繁忙期である。クリスマスにはシュトレ…

*25 殷鑑遠からず

 凡そ二年と続いたマスクの着用義務が到頭無くなった。吉凶どちらに転ぼうとも歴史的な週であ…

*24 オールドタイマー

 スキャットマン・ジョンという名を聞けば誰しもの脳内にビーバッパッパラッポが漏れなく流れるものだとばかり思いこんでいた私であったから、アンドレの「知らない」という返答にはどうにも肩を沈めざるを得なかった。私が幾ら英語の発音に忠実にスキャットマン・ジョンと言ってみても、彼の方ではカットマンジョーだのカッタンチョーだの皆目見当が付かない様子であった。話を聞けば殆ど音楽を聴かないんだと言っていた。  私は私で藪から棒に旧い歌手の名前など出して不思議であるが、先日仕事中にラジオから

*23 春麗-ハルウララ-

 春分の日があった。一年前を思い返すと私はマイスター学校へ通い始める直前とあって落ち着か…

*22 陰影に富む

 例えば懐中電灯である。手元でほんの僅かでも角度を変えてやれば、全く異なる光の筋を伸ばし…

*21 熱帯びて浪漫

 約一年半振りの有給休暇の始まりに三度目のワクチン接種をしに少し遠くのショッピングセンタ…

*20 トライ&エラー

 一日のファッシングで三月は幕を開けた。それに伴うように以前魔法使いの如く現れたフェアリ…

*19 アン・ビリーバブル

 先週胸の内に飼った怒りがどう作用したんだか、私の心は随分と楽な様相で今週を迎えた。楽と…

*18 群青の炎

 先週の私は幾つかの喜ばしい出来事に恵まれていた。亦先々週の私は気を弱らせるような出来事…

*17 メルヘン

 先週の末に早速チーズケーキを作った。人生で最初のチーズケーキである。パン職人と名乗っておきながらどういう風の吹き回しだと理解に窮されてしまいそうではあるが、製パンと製菓の境目など明確であり且つ曖昧である。また私がまだ日本にいた頃に見ていたパンやケーキと、今私がドイツで触れるパンやケーキとでは似て非なる部分があるというのも大きな理由である。食文化の相違から歴史的背景までここで一思いに綴ろうとすれば優に読者諸兄姉を退屈がらせてしまいかねないのでここで一度自粛するが、兎に角私が先