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ドイツパン修行録~アイム(・ノット)・ア・ストレンジャー編~

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8年半のドイツでの修行を経て製パンマイスターとなった男が、日本へ帰国しドイツパン職人として新たなスタートを踏み出した物語。
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記事一覧

*37 ギャンブラー

 織田信長は新しい物好きであったという逸話を耳にした事があった。鉄砲もカステラも、南蛮か…

*36 グリス

 パンの起源を追い掛け、古代エジプトの世界を一頻り駆け巡った後、現代と古代とを繋ぐ扉であ…

*35 アーティザンシップ

 故郷の味と郷土料理とでは同じ地点を指していたとしても思い当たる物に違いが出る。私の生ま…

*34 キャロットケーキ

 水の張られた田圃に陽の光が弾み煌々と輝く様がなかなか見応えのある美しさだと思った時、こ…

*33 裏方

 日本に帰って来たら、一先ず日本の四季を味わわねば話にならない、と念頭に置き、秋を見て、…

*32 実を粉にして

 仕事を仕事と思えぬ悪癖は初めて社会へ出た時からあった。いつでも労働という意識の代わりに…

*31 ミスフィット

 エドガー・ドガの「カフェにて(アブサン)」という作品を知ったのは大凡七年前である。その絵でアブサンという酒を知った。そうするとエドゥアール・マネの「アブサンを飲む男」という作品に行き着いた。いずれの作品にも不穏な空気が漂う。  悪魔の酒と呼ばれるほど中毒性のあったアブサンは数々の芸術家を破滅へ追いやったと聞いた時、ドガの絵に描かれた紳士淑女も、マネの絵に描かれたシルクハットの怪しげな男も、或いはその作者であるドガやマネが、まさに悪魔に飲み込まれんとしている様でぞっとした

*30 今なんて所詮未来の過去回想

 ルーヴル美術館でカメラを持った大勢の人間に包囲されたモナ・リザを見た時、セピアの肖像で…

*29 クレッシェンド

 着々と春は進む。みるみる内に草葉を碧らせ、花を芽吹かせる。動物の活力を蘇らせ、人間の希…

*28 カフェ

 カフェと聞けば私はすぐにゴッホの絵を思い出す。「夜のカフェ」と題されたその絵はビリヤー…

*27 エチュード

 すっかり春の気候である。冬の間に春以降の作戦を練ろう、準備をしておこうと言っていたのも…

*26 ハーミット

 ドイツでのみパンを学んできた私は、何時しかパンという物を農作物の類として数えるようにな…

*25 もあ

 ドイツを飛び発って、日本に降り立って半年が経った。これで漸く半年か、と思った。毎度の節…

*24 獣道

 マイスター学校に通っていた時分、経営学の科目には一際苦戦した。経営学の授業など日本語で受けてもある程度難しい筈だのに、基礎の無い私がそれをドイツ語で受けるんだからその齷齪とした悪戦苦闘ぶりは想像に難くないだろう。借方と貸方の代わりにSOLLENとHABENで学んだ簿記も、ドイツ式と日本式を一々照らし合わせる確認作業の分、クラスメートの倍の時間が必要になった。それで必死に食らいついて、どうにか経営科目のマイスター試験も合格出来たから御の字であったが、矢ッ張り試験の為の勉強とし