マガジンのカバー画像

ドイツパン修行録~E.W.J編~

37
ヨーロッパ・ドイツに移り住み製パン修行、そして製パンマイスター取得を果たした8年に渡るドイツ生活をいよいよ終わりにしようと決めた男の在独9年目、最後の日々の物語。
運営しているクリエイター

記事一覧

*37 The ending of a wonderful journey

 自転車を漕いで緑の中を颯ける。私が通勤用に使っていた安価な物と同じ総称の元にあるとは思…

*36 暮らした町、残る足跡

 誕生日の当日に町を濡らした雨は些か心地良かった。心地良かったと言っても我が身迄濡らす用…

*35 最後の日

 先日から職場に一人の日本人が加わった。ドイツに越して来て未だ数カ月、偶然にも日本人であ…

*34 プレイヤー

 帰国前に片付けなければならない作業を七カ月前くらいから羅列して今日に至るわけであるが、…

*33 手は離れるも天は晴れ

 先週の金曜日の事である。掃除を進める終業間際の工房に一人見知らぬ男の訪問があった。見知…

*32 継続と有終の美

 イタリアのパンを地域別に写真付きで紹介している章に好奇心が掻き立てられ、イタリア語を読…

*31 病は気から

 病は気から、と言う言葉は屡「気の所為」というニュアンスで用いられる。私はそれに対して「いやいや体を病んでそれが気にも影響を及ぼすんだ」と、気は病からの方が正しいのではないかという持論を温めて来たが、この週まさに病を患ったのを機に、私は、病は気からの真意に辿り着いた気持ちになった。要するに病は気から、と言うのは気を滅入らせてそれが病を引き起こすという事であろう。  先週ウィーンを堪能した私は、堪能すると同時に未来人生におけるウィーンと私との距離が今よりずっと離れてしまう事

*30 最後のイタリア、最後のウィーン

イタリア・ミラノへの旅 一人、荷物を絡げて部屋を出た私を太陽光が容赦なく焼く。所謂猛暑日…

*29 世界は自動で動いている

 すっかり気温が夏めいて来たが、日本やイタリアと比較しては大した事の無いドイツで余り気温…

*28 尊ばれし命、交わり、すれ違い

 私は大変に堕落しない。図法螺である。散らかった書物机をよし一思いに片付けてみても十五分…

*27 道

 一年の内で最も好きな時期は年末年始、詳しくは年越の瞬間である。精神の浄化、とは稍訝しく…

*26 地に足を

 友人との会話に花を咲かし、己の情熱に薪をくべた週末を経て幕を開けた今週、私は威勢よく仕…

*25 背筋を伸ばして

 週の始めの月曜日、最も信頼のおける友人とテレビ電話をした。御互いの近況報告をしたいとい…

*24 運ばれている

 八年前、ドイツのパン屋で働き始めた時、職場には既に一人日本人の先輩がいた。名も性別も伏せ単にXと呼び話を進めるが、そのXは私よりも二年先にドイツへ来ていたからドイツ語も同僚とのコミュニケーションも当然私よりずっと優れていた。おまけに日本で既に製パン業に携わっていたという年上のXであったから、ドイツ語も製パン知識もからっきしの私からすれば大変立派な先輩であり、またXから見た私もまるで世話の焼き甲斐のある後輩であったに違いなかった。  そこに俄かに亀裂が見え隠れし始めたのは