ふみなるのnote

キリスト新聞のライター。カルト化したキリスト教会に約20年いました。吃音症がなかなかし…

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キリスト新聞のライター。カルト化したキリスト教会に約20年いました。吃音症がなかなかしんどい。映画やドラマやアニメの批評もします。

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  • 賛美を取り返したい

    教会で賛美を歌えなくなってから、また歌えるようになるまで

記事一覧

【映画評】そのマイノリティ表象は熟考されたものか 『ぼくのお日さま』 

 夏は野球クラブ、冬はホッケークラブで漫然と練習していたタクヤはある冬、フィギュアスケートの魅力に取り憑かれる。たまたま知り合ったコーチの荒川が指導してくれるこ…

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【映画評】『エイリアン:ロムルス』(ネタバレなし)

 『エイリアン:ロムルス』を見た。  時系列は『エイリアン』と『エイリアン2』の間に位置する。前者のノストロモ号の残骸や、某キャラが再登場するのが懐かしい。他に…

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何をしているのか自分でわからない信仰者

 日本のキリスト教界の保守系教派はいまだに同性愛者差別を続けており、「LGBTQ」という大きな括りに対しても「反対」の姿勢を貫いている。自分の狭い観測範囲においても…

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【映画評】環境破壊の警鐘、あるいは環境支配の宣言『ツイスターズ』

 オクラホマで大型竜巻が頻発し、調査研究のためにニューヨークで働くケイトが招かれる。渋々同行する彼女には大学時代、竜巻研究中に友人たちを亡くした過去がある。同じ…

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【映画評】飛行機の中でサメに襲われる 『エア・ロック 海底緊急避難所』

 飛行機の中でサメに襲われる映画を試写した。  『エア・ロック 海底緊急避難所』だ。  メキシコに向かうイギリスの飛行機がバードストライクに遭って墜落し、海底に沈…

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【映画評】マルチバースに物申す 『デッドプール&ウルヴァリン』

 『デッドプール&ウルヴァリン』は『デッドプール』シリーズ3作目にしてMCUに本格的に合流した作品。2017年の『ローガン』でウルヴァリン役を引退したヒュー・ジャックマ…

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【映画評】可視化される理不尽な暴力 『ニューノーマル』

 一人暮らしのヒョンジョン(チェ・ジウ)の部屋に、予定外の点検業者が訪れる。街では女性を狙った連続殺人が発生している最中だ。不安を隠せないヒョンジョン。だが彼女…

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2024年パリ五輪の開会式に向けられたキリスト教保守派の「敵意」の正体

 2024年パリ五輪の開会式でマリー・アントワネットの生首が歌い、血しぶきが飛び散り、ヘヴィ・メタルバンドがシャウトし、ドラァグたちが舞い踊り、金の雄牛が掲げられた…

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【映画評】『バッドボーイズ RIDE OR DIE』

 『バッドボーイズ RIDE OR DIE』を劇場鑑賞した。  シリーズ4作目にしてウィル・スミスの復活作。前作と直接繋がっており、マイクの息子やAMMOのメンバーが再登場する…

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「悪魔」に会ったことでもあるの?

 聖霊派系の教会にいるとよく「悪魔」の話を聞く。  「悪魔」は狡猾にクリスチャンを堕落させようとしてくるらしい。そして信者でない人がクリスチャンになるのを全力で…

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セクシャル・マイノリティの声を聞く

 2024年6月16日(日)、ジュンク堂池袋本店で『いちばんやさしいアロマンティックやアセクシャルのこと』と『トランスジェンダーQ&A 素朴な疑問が浮かんだら』の出版記念…

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【映画評】『オールド・フォックス 11歳の選択』

 試写会で『オールド・フォックス 11歳の選択』を見た。  一般庶民が株の売買に沸く1990年前後の台湾。タイライとリャオジエの父子は、そんな時流に乗ることなく慎まし…

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【映画評】すぐ隣の「違国」 『違国日記』

 試写会で『違国日記』を見た。  同名の人気漫画の実写版。共生することになった伯母(新垣結衣)と姪(早瀬憩)の、すれ違いと歩み寄りの日々を丁寧に描く。  当然な…

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理想のクリスチャン家庭像に殺される

 「クリスチャンどうし導かれて祝福のうちに結婚し、子を授かり、家族で教会に仕え、こうして笑顔に満ちた幸いなクリスチャン家庭が立て上げられていくのです」  という…

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『関心領域』に向けるべき関心とは

 映画『関心領域』を見た。  アウシュビッツ強制収容所の隣に住むナチス将校と家族の、一見平凡な暮らしを延々と描く。合間に聞こえる悲鳴、立ち上る煙、銃声のような音…

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教会に入ってくる海外情報の罠

 「シナイ山でノアの方舟と思われる巨大建造物が発見された!」  「まだ公開されていないが、契約の箱がイスラエル某所で発見され、研究されている!」  「板門店(北朝…

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【映画評】そのマイノリティ表象は熟考されたものか 『ぼくのお日さま』 

【映画評】そのマイノリティ表象は熟考されたものか 『ぼくのお日さま』 

 夏は野球クラブ、冬はホッケークラブで漫然と練習していたタクヤはある冬、フィギュアスケートの魅力に取り憑かれる。たまたま知り合ったコーチの荒川が指導してくれることになり、その教え子のさくらと共にアイスダンスの大会を目指すことになる。

 『ぼくのお日さま』は雪が降る田舎町を舞台にした、一冬の青春物語。綺麗な画が多い。監督が言う通り、フィギュアスケートを題材にした珍しい作品だ。公開前の現段階では好意

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【映画評】『エイリアン:ロムルス』(ネタバレなし)

【映画評】『エイリアン:ロムルス』(ネタバレなし)

 『エイリアン:ロムルス』を見た。

 時系列は『エイリアン』と『エイリアン2』の間に位置する。前者のノストロモ号の残骸や、某キャラが再登場するのが懐かしい。他にもシリーズ4作をオマージュしたシーンが豊富にあるので、鑑賞前に復習するとより面白いかもしれない。

 特に1作目の『エイリアン』との繋がりが、ストーリー的にもビジュアル的にも強い。『プロメテウス』や『エイリアン:コヴェナント』の時のような

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何をしているのか自分でわからない信仰者

何をしているのか自分でわからない信仰者

 日本のキリスト教界の保守系教派はいまだに同性愛者差別を続けており、「LGBTQ」という大きな括りに対しても「反対」の姿勢を貫いている。自分の狭い観測範囲においてもこれは既に数十年継続している。呆れるし憤りを覚える。

 しかし世界的に見ると2018年頃から、性的少数者をめぐる言説は大きく様変わりしている(特にここ数年は加速が著しい)。世界各国で次々と同性婚が法制化されたことで、同性愛者が政治的攻

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【映画評】環境破壊の警鐘、あるいは環境支配の宣言『ツイスターズ』

【映画評】環境破壊の警鐘、あるいは環境支配の宣言『ツイスターズ』

 オクラホマで大型竜巻が頻発し、調査研究のためにニューヨークで働くケイトが招かれる。渋々同行する彼女には大学時代、竜巻研究中に友人たちを亡くした過去がある。同じ頃、無謀な竜巻撮影で有名な映像クリエイターのタイラーたちも現地入りしていた。

 『ツイスターズ』は1996年の『ツイスター』の28年ぶりの続編。前作で命懸けで設置した「ドロシー」を冒頭で学生たちが易々と設置していて、あの苦労は何だったのか

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【映画評】飛行機の中でサメに襲われる 『エア・ロック 海底緊急避難所』

【映画評】飛行機の中でサメに襲われる 『エア・ロック 海底緊急避難所』

 飛行機の中でサメに襲われる映画を試写した。
 『エア・ロック 海底緊急避難所』だ。

 メキシコに向かうイギリスの飛行機がバードストライクに遭って墜落し、海底に沈む。幸いコクピット側が前傾したため、尾翼側に空気が溜まってエア・ロック状態になる。生存者は7人。酸素が持つ数時間の内に救助が来るだろう、と一時は楽観するものの、機体の亀裂からサメが侵入し、決死の脱出を余儀なくされる。

 91分と短尺な

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【映画評】マルチバースに物申す 『デッドプール&ウルヴァリン』

【映画評】マルチバースに物申す 『デッドプール&ウルヴァリン』

 『デッドプール&ウルヴァリン』は『デッドプール』シリーズ3作目にしてMCUに本格的に合流した作品。2017年の『ローガン』でウルヴァリン役を引退したヒュー・ジャックマンの同役復帰も話題になった。他にも多くのサプライズ登場がある他、MCUが突入したマルチバースに物申す面もあり、何重にも見応えのある出来になっている。

 マルチバース(多元宇宙)はMCUに続いてDCEUも導入した注目の概念だ。様々な

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【映画評】可視化される理不尽な暴力 『ニューノーマル』

【映画評】可視化される理不尽な暴力 『ニューノーマル』

 一人暮らしのヒョンジョン(チェ・ジウ)の部屋に、予定外の点検業者が訪れる。街では女性を狙った連続殺人が発生している最中だ。不安を隠せないヒョンジョン。だが彼女の不安は、まったく別のところにあった。

 『ニューノーマル』は6つのエピソードからなるオムニバス映画。それぞれの登場人物が別のエピソードにも顔を出し、緩やかな繋がりを見せる。4日間の出来事が、バラバラの時系列で描かれるスタイルは先行作『パ

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2024年パリ五輪の開会式に向けられたキリスト教保守派の「敵意」の正体

2024年パリ五輪の開会式に向けられたキリスト教保守派の「敵意」の正体

 2024年パリ五輪の開会式でマリー・アントワネットの生首が歌い、血しぶきが飛び散り、ヘヴィ・メタルバンドがシャウトし、ドラァグたちが舞い踊り、金の雄牛が掲げられた。強いインパクトを残したのは間違いない。テーマは「自由」とのこと。

 それに対して「悪魔崇拝だ」「偶像崇拝だ」とキリスト教保守派が声を上げている。「ドラァグたちが気持ち悪い」という分かりやすい差別発言もあった(「これは信仰の表明であっ

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【映画評】『バッドボーイズ RIDE OR DIE』

【映画評】『バッドボーイズ RIDE OR DIE』

 『バッドボーイズ RIDE OR DIE』を劇場鑑賞した。

 シリーズ4作目にしてウィル・スミスの復活作。前作と直接繋がっており、マイクの息子やAMMOのメンバーが再登場する。シリーズ初となるスカイ・アクション、FPS感覚の戦闘場面、臨死体験を経てスピリチュアルに目覚めるマーカス、家族ができてパニック発作に襲われるようになったマイクなど、見所が多い。それぞれのキャラのサイドストーリーも豊富で、

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「悪魔」に会ったことでもあるの?

「悪魔」に会ったことでもあるの?

 聖霊派系の教会にいるとよく「悪魔」の話を聞く。
 「悪魔」は狡猾にクリスチャンを堕落させようとしてくるらしい。そして信者でない人がクリスチャンになるのを全力で阻止してくるらしい。他にもこんな言説を聞いた。

 「悪魔は自分の存在を隠す」
 「悪魔など存在しないと人間に思わせようとする」
 「稀代の嘘つき」
 「聖書の言葉を巧妙に使って罠を仕掛ける」
 「悪魔の攻撃は霊的であって物理的ではない」

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セクシャル・マイノリティの声を聞く

セクシャル・マイノリティの声を聞く

 2024年6月16日(日)、ジュンク堂池袋本店で『いちばんやさしいアロマンティックやアセクシャルのこと』と『トランスジェンダーQ&A 素朴な疑問が浮かんだら』の出版記念トークイベントに参加した。充実の1時間半だった。書籍だけでは感じ取りにくい、リアルな声やニュアンスに触れることができたと思う。印象に残った点と、そこから考えたことを以下にまとめておく。

※本稿はイベント内容を網羅したものではない

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【映画評】『オールド・フォックス 11歳の選択』

【映画評】『オールド・フォックス 11歳の選択』

 試写会で『オールド・フォックス 11歳の選択』を見た。

 一般庶民が株の売買に沸く1990年前後の台湾。タイライとリャオジエの父子は、そんな時流に乗ることなく慎ましい倹約と貯金で家を買おうとしていた。けれど物価上昇の煽りを受けて目標を断念せざるを得ない。そんなとき知り合った事業家のシャに「他人を思いやるな」とアドバイスされ、父と正反対の生き方に触れた11歳のリャオジエは、大いに葛藤する。彼はど

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【映画評】すぐ隣の「違国」 『違国日記』

【映画評】すぐ隣の「違国」 『違国日記』

 試写会で『違国日記』を見た。

 同名の人気漫画の実写版。共生することになった伯母(新垣結衣)と姪(早瀬憩)の、すれ違いと歩み寄りの日々を丁寧に描く。

 当然ながら30代の新垣結衣でも10代少女に戸惑ってばかりで、互いに明らかに「違国」の存在。使う言葉が微妙に違うし、互いに予想外の反応をする。少し前に話題になった50代男性と20代女性の恋愛など、これを見るとやはり現実的でないし一般的でもないと

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理想のクリスチャン家庭像に殺される

理想のクリスチャン家庭像に殺される

 「クリスチャンどうし導かれて祝福のうちに結婚し、子を授かり、家族で教会に仕え、こうして笑顔に満ちた幸いなクリスチャン家庭が立て上げられていくのです」

 という理想が当然のように語られる割に、その「幸い」を体現する夫婦や家庭がごく稀なのがキリスト教会の現実ではないか。牧師家庭からして、元気そうに見えないケースが少なくない。

 むしろ子どもが病んでしまうとか、妻が病んでしまうとか、表面的には楽し

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『関心領域』に向けるべき関心とは

『関心領域』に向けるべき関心とは

 映画『関心領域』を見た。

 アウシュビッツ強制収容所の隣に住むナチス将校と家族の、一見平凡な暮らしを延々と描く。合間に聞こえる悲鳴、立ち上る煙、銃声のような音。それらが今まさに行われている虐殺のしるしだと観客は知っている。将校と家族も知っている。しかし誰も何も言わない。「すぐ隣で起きている大虐殺に全く無関心でいられる人々」を描くのが本作の肝だからだ。タイトルの『関心領域』に違和感を覚えた。『無

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教会に入ってくる海外情報の罠

教会に入ってくる海外情報の罠

 「シナイ山でノアの方舟と思われる巨大建造物が発見された!」
 「まだ公開されていないが、契約の箱がイスラエル某所で発見され、研究されている!」
 「板門店(北朝鮮と韓国の軍事境界線)付近で和解の祈りが捧げられ、政府関係者の動きが変わった。国境が開く日は近い!」

 それらの情報に私たちの教会は歓喜した。方舟発見は聖書の記述が正しいことを意味するし、祈りによって朝鮮半島が統一されれば「神の国」の実

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