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AIの民主化は"消費者"に何をもたらすのか?

「Midjourney」「Stable Diffusion」といった人間のような絵を描けるAIが大きな話題となっています。私も使ってみましたが、驚くべきクオリティだと感じました。

画像生成AIで“1億人いらすとやさん”に!? 著作権の行方は? 「AIが作ったことを隠す人が出てくる」懸念も|ABEMA TIMES
同上

「すごすぎる!」「これで誰でもアーティストになれる!」

SNSでは、そんなポジティブな反応を多く目にしましたが、アーティストにとっては気が気じゃない出来事のようです。

ある絵画コンテストでは、人工知能(AI)を使って制作した絵画が優勝作品に選ばれたことで、大きな議論が巻き起こりました。

AI作品が絵画コンテストで優勝、アーティストから不満噴出|CNN

アーティストの仕事がなくなるかもしれない。かわいそうだ。

たしかにそうかもしれませんが、マーケティングに携わる方々ならば、それ以上に「創作できるAI」を誰もが手軽に使えること(=AIの民主化)で起こるだろう消費者の変化を見落とすわけにはいけません。

私はコンバージョン最適化の「Sprocket(スプロケット)」を提供する会社を経営していますが、長くデジタルマーケティングに関わる立場から見ても、その影響は大きいと思いました。

今回は「AIの民主化が"消費者"に何をもたらすのか」について、簡単にnoteにまとめます。

①ホンモノとニセモノの見分けがつかなくなる

人間のような絵を描けるAIの登場で、ある絵を見て「人間が描いたものかどうか」を見分けることが困難になっていくでしょう。

「人間が描いたもの=ホンモノ」だとするならば、ホンモノとニセモノの区別がつかなくなっていくのかもしれません。

AIを使って巧妙な偽の動画を作る「ディープフェイク」は、以前から大きな問題となっています。ウクライナ危機では、ディープフェイクが情報戦の一つとして展開されたことは有名な話です。

【解説動画】ウクライナ情勢 拡散する「ディープフェイク」|NHK NEWS WEB

また、コロナ以降にリモートワークが定着しましたが、ディープフェイク技術を用いて就職のオンライン面接で別人になりすますというケースが増えているそうです。

そもそも、デジタル上では「ホンモノとニセモノの区別がつかない」という話は、実はAIが民主化される以前からあった問題です。

最も有名なのは、レビューの"サクラ(やらせ)"問題です。

アマゾンで買い物するときに、レビューを参考にする消費者が多いかと思いますが、ニセモノのレビューが増えているようです。

アマゾンは創業間もない1995年に消費者の購買判断を手助けする仕組みとして商品レビューを導入した。現在の投稿数は週3000万件を超え、アマゾンの競争力の源泉になっている。一方で「五つ星」の評価を集める商品は検索でも上位に表示されやすく、偽レビューの仲介業者を使ってでも高い評価を得ようとする出品者が後を絶たない状況が生じていた

Amazon、偽レビュー業者を提訴 「詐欺師の責任追及」|日本経済新聞

実際のやらせの相場までが明らかにされている、偽レビュー業者の生々しいレポート記事もあります。

料金は口コミ1件で8000円から。50件では32万円、200件では80万円。投稿期間は半年~1年に分散させるとする。

「やらせ口コミ」業者の正体 事務所にスマホ60台...1件8000円~で虚偽レビュー|J-CASTニュース

なぜ不正レビューはなくならないのか? 識者は、構造的な問題だと指摘しています。

プラットフォーム運営者にとって、システム構築や膨大な書き込みのチェックには多大なコストがかかる。残念なことだが、レビューの健全性を重視しようとシステム改良や監視を行うサイトとそのままにしているサイトは、ユーザーから区別はつかない

「食べログ」だけではない ネットでやらせがはびこる理由|日本経済新聞

これまでのレビューのやらせ問題に加えて、さらにAIの民主化がやってきたことで、いよいよホンモノとニセモノの区別がつかないデジタル空間が広がりつつあるといえます。

②ユーザーに「ホンモノかを見分けるコスト」がかかる

デジタル空間で「ホンモノとニセモノの区別がつかない」ようになってくると、ユーザーが大変です。

「これ偽レビューかもしれない」「この画像はAIで加工されているのでは?」など、いちいち疑わなくてはならず、検索するなど正しい情報かどうかを調べるのに時間がかかることになってしまいます。

つまり、ユーザーに「ホンモノかを見分けるコスト」がかかるのです。

前回、「TikTok売れ」を考察しましたが、実は"衝動買い"の背景には、こうしたホンモノかを見分けるコストの上昇があるのではないかと思います。

つまり、Google検索やAmazonレビューで一生懸命に調べても"買い物の正解"にたどり着くのが大変だということです。

③わかりやすい「ホンモノ」が大切だからUGC

そこで登場したのが、UGC(User Generated Contents=ユーザー生成コンテンツ)の再評価です。

フレッシュドッグフードの定期購入サービス「ココグルメ」は、うまくUGCをマーケティングに取り込むことで、20年6月~21年5月は前年同期比で販売数が434%に伸びました。

同じく、ミツカン子会社はコンバージョン数を35倍に伸ばしました。SNSに投稿された「ファンの声」をうまく活かした形です。

有名インフルエンサーの発信よりも、無名のファンの声のほうが「ホンモノ」であることがわかりやすい。

これは日本だけの話ではなく、米国でも同じです。以下は、米国のビジネス誌「Fast Company」の翻訳記事からの引用です。

インフルエンサー経済が今、地殻変動の瀬戸際にある。動画アプリ「TikTok」の人気、およびクリエーターよりもコンテンツの種類を優先するTikTokのアルゴリズムに触発され、ブランドマーケターとデジタル広告代理店が次第にソーシャルメディア内での予算配分を変え、無名なクリエーターのUGC(ユーザー生成コンテンツ)を増やす一方、インターネットセレブとの大型契約を減らしている

インフルエンサーはもう下火、これからはオーセンティシティー|日経クロストレンド

こういった流れを受けてか、最近「オーセンティシティ(Authenticity)」というキーワードを目にする機会が改めて増えているように感じます。

マーケティングに「オーセンティシティ」が必要な理由

オーセンティシティは「信頼がおけること。確実性。真実性。信憑 (しんぴょう) 性。真正性。」(デジタル大辞泉)という意味です。

noteプロデューサーの徳力基彦さんも、オーセンティシティについて書いていらっしゃいました(太字は筆者)。

このキーワードが米国で最初に注目されたのってもう10年ぐらい前だったと思うんですよね。日本でも「ほんもの」というタイトルで翻訳本が出てましたけど。(中略)個人的には、ウソをついたり、無理に背伸びをしてもバレる時代だから、等身大の自分をそのまま出していくという姿勢をイメージして頂くのが良いのではないかなと思っていたりします。

アメリカではインフルエンサーマーケから「オーセンティシティ」に重心が移り始めているらしい|note

私も長くマーケティング業界にいますが「オーセンティシティって昔から言われてるし、なぜ今?」と、ひさびさに耳にしたときは徳力さんと同じ感想でした。

しかし、今回「①ホンモノとニセモノの見分けがつかなくなる」「②ユーザーにホンモノかを見分けるコストがかかる」「③わかりやすい「ホンモノ」が大切だからUGC」という3つのポイントを書き出してみて、はじめて10年前とは異なるコンテキスト(文脈)に気づきました。

つまり「SNSがあるとウソはすぐバレるから、等身大でいよう」という話だけではなく、ユーザーは自分がデジタル上で得た情報が「ホンモノかどうか」に非常に敏感になっているということです。それゆえに「最初から"ホンモノであること"がより重要になってきている」という背景があるのだと思います。

マーケティングはユーザーや消費者との接点をつくる仕事です。だからこそ、絵を描くAIなど「AIの民主化」がもたらす変化を予測したほうがいい。そして、これからあらためて「オーセンティシティ」の重要性が上がっていくことをマーケターは認識しなければいけないのだと思います。

あとがき

オーセンティシティとは何か、企業はどうあるべきか、マーケターがどうすべきかについては、とても長くなりそうなので別のnoteを書こうと思います。

あらためまして、私はユーザーの行動からコンバージョンを最適化するサービス「Sprocket(スプロケット)」を提供する会社を経営しています。

普段からデジタルマーケティングやCVR最適化の最新情報を追っていますが、今回のnoteのようにユーザーや消費者のインサイトをきちんと言葉にして、noteにまとめるように心がけています。

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ここまでお読みいただき大変にありがとうございました!

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