記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

【ネタバレ感想】『カモン カモン』は誰に贈られた言葉か

『カモン カモン』鑑賞。ジャーナリストのジョニー(ホアキン・フェニックス)がやむを得ない事情から9歳の甥ジェシー(ウディ・ノーマン)を預かることになる。これだけを切り取ればハートウォーミングな物語になると思いきや、曲者のような作品である。

やむを得ない事情というのはジェシーの父親が精神を病み(はっきりと言及されないが双極性障害:躁うつ病のようである)、母親ヴィヴ(ギャビー・ホフマン)が入院にしばし付き合わなくてはならなくなったため。事情が事情からか母親は疎遠だった兄ジョニーにジェシーを託すことになる。

普段は子どもへのインタビューをライフワークとしているジョニー。だが大人びている所もあり、かつ繊細で年相応に子どもらしいジェシーにジョニーは振り回される。ジェシーは音楽家で繊細な父親によく似ているようだ。

しかしジェシーが炙り出すのは図らずもジョニーの同様に繊細かつ稚気のある性格だ。ジェシー相手に学者のような問答をぶったり、何か拘りありげな雰囲気(ほとんど同じ服装であることなど)を端々に見せる。ジョニーの同僚がジェシーを見て「ミニ・ジョニーだ」というのはあながち冗談ではないのだろう。

そもそもジョニーとヴィヴが仲違いをしたのは終末期医療を経て亡くなった母親を巡ってだ。死の間際に幻覚を見て外出しようとする母親に付き合うべきと主張するジョニーと、いちいち付き合っていたら身がもたないと言うヴィヴ。

ヴィヴは母親を看取り、精神的に不安定な夫を抱えながらジェシーを育てていた。娘、妻、母親という社会的役割に押し潰されそうだったヴィヴ。一方(古い表現だが)ボヘミアン的で教育などに興味はありながらもどこか子ども達と距離のあったジョニーの姿が対比される。

ジェシーはそんな大人たちを冷徹に見つめている。ヴィヴのありのままの姿(時に苛立ちながらも愛情をもって自分に接する)をジョニーに伝えるジェシー。やがてジェシーの父親の病は寛解し、ジョニーはジェシーが戻ったヴィヴと和解する。

ジョニーがジェシーと別れる時、「感情を出せ」と促し自らも叫んでみせる。「カモン カモン」とは「前へ、前へ」という意味。これは劇中でも描かれたように紛れもなくジェシーがジョニーに贈った言葉なのだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?