フラットネスをかき混ぜる🌪(2)二次元平面と三次元空間とが現象として立ち上がらないパターンを示す「写真」🌫 文:水野勝仁

連載一覧
(1)二次元平面でも三次元空間でもないフラットネス🚥
(3)次元が膨張収縮する現象的フラットネスをつくるAR体験📖🔁📱

ルーカス・ブレイロックはPhotoshopで加工した痕跡をあからさまに残す作品を制作している。それらの作品は、彼が所属するギャラリーのrodolphe janssenのウェブでまとめてみることができる。(*1) また、ブレイロックが作品制作に用いているPhotoshopのツールの使い方を説明してくれる映像もYouTubeにアップされている。(*2)

連載「フラットネスをかき混ぜる 」の2回目は、写真家・ライターのTaylor Dafoeがブレイロックに行ったインタビューを手掛かりにして、ブレイロックの写真を「幾何学的要素を持たないピクセル」を操作するものとして考察していく。ブレイロックの写真はPhotoshopでの加工に注目がいってしまうけれど、その加工は写真を色情報が集積したフラットネス=「情報源」と見なすことから生じるピクセルの選択と色情報の操作から生まれたもので、平面や空間といった幾何学的要素を基本としてきた写真に対する考えでは捉えがたい表現であることを示していきたい。


コピースタンプツールを撮影しているような感覚

Taylor Dafoeは2016年にウェブマガジン「BOMB Magazine」で、ブレイロックにインタビューを行なっている。そのなかで、Dafoeはブレイロックの写真を奇妙な仕方で評し、ブレイロックはその評価に感謝しつつ、写真そのものへの興味深い考察を話す部分がある。それが以下である。

TD:写真をコピースタンプツールで操作しているのではなく、コピースタンプツールを撮影しているような感覚があります。理にかなっているとすればですが。
LB:ありがとうございます!これは私が探究しているものです。今、写真について考えてみると、写真の表面の背後には、写真の空間であり続けてきた物質的な空間と非常に可塑的な仮想空間とを共有している二つのリアリティがあるような気がします。人々は写真をイメージとして平面的に扱いたがるが、私はそれよりも絵画的な空間、写真がどのような空間を内包するかということに興味があるのです。
(*3)

ルーカス・ブレイロックの写真が持つ奇妙な感じは、彼自身が述べているように平面と空間との葛藤にあると言えるだろう。しかし、前回引用したアルヴィ・レイ・スミスの「ピクセルには幾何学的要素がない」ということから考えると (*4) 、デジタル写真には平面や空間といった幾何学的要素は入り込めず、位置情報とともにある色情報が集積した「フラットネス」があるのみとなるだろう。ブレイロックのテキストから私が取ってきた「フラットネス」も「二次元平面」を連想させる言葉ではあるのだが、この言葉には「単調さ」という意味もある。私が「フラットネス」という言葉を使うときに、そこには情報しか存在せず、平面や空間といった幾何学的要素を含まない何かを想定している。情報の集積が「単調さ」を示すのかどうかはわからないけれど、位置情報と色情報を示す数値の羅列を見続けるのは、家やコップなどを表している画像を見るよりは単調かもしれない。

単調な「フラットネス」からブレイロックの写真を考えるために、彼にインタビューをしているDafoeの「写真をコピースタンプツールで操作しているのではなく、コピースタンプツールを撮影しているような感覚があります」という言葉を取り上げたい。ブレイロックの写真は確かにコピースタンプツールで操作されていて、それが平面と空間とのバランスをうまく崩し、彼の作品を興味深いものにしていると言える。しかし、Dafoeはブレイロックの作品について、コピースタンプでの操作を取り上げるのではなく、コピースタンプツールそのものを撮影していると評している。そして、ブレイロックも彼のDafoeの言葉に感謝を示し、「私が探求しているもの」と応えている。

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