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【804回】安部公房「カンガルー・ノート」

僕が大好きな漫画に、ジョジョの奇妙な冒険がある。
合計120巻を超えるストーリーの壮大さ。そのような中で、生物の体に植物が関わってくる場面も登場する。
第4部の猫は、植物と同一化する。
第6部の主人公は、体から植物が生えてくる。

そういえば、手塚治虫「ブラックジャック」でも、体から芽が吹き出してくる少年の物語があったな。

何にせよ、体から植物が生えてくるという表現は異質である。恐怖がある。
それなのに、安部公房が選んだ表現は、「脛からかいわれ大根が生える」であるから、一瞬混乱する。
スネ毛をかいわれ大根に変換?
どういうことなの?

これどうなるの?


開いてみたら、今度はどこまでも主人公を乗せていく動くベッドの登場だ。
ベッドが動くといえば、乗り物と化したベッドはロマンあふれる様相がある。
この物語には全くない。ベッドから離れてもベッドが追いかけてくるように。
ベッドが行き着く先は、賽の河原、三途の川、あれま…。死がまとわりつく。

物語は勢いで読み終える。しかし、具体的に何が起こったのかはよくわからない。
死についての物語なのだろうか。
もしや死に向かう過程を描いている作品なのだろうか。

主人公のそばにいる、ある登場人物がつぶやく。

「人間って、一度死んだら、二度と死ねないんだ」

(p217)

死に切る前に、生き返れば、まだ死ねる。
死にきってしまったら、もう死ねない。
僕は数日かけて、人の死を物語でなぞっていたらしい。


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