大宮エリー
夢は楽しい夢であったからよかったんだけど、夢とは裏腹に、昨日の現実、仕事関係で、嫌味だなって思うことを言われてね、そのときは耐えたんだけど、人もいたし。大人気ないこと言うな、傷つくなと思ったけれど、言わなかった。わかって言ってるのかわからないで言っているのか。きっと強いひとならば、ばーん、と「それ、失礼じゃないですか?」って言えるんだろうけれど、私はあんまり言えないタイプ。あと、言わない。わざと言ってるのだろうから、それに対して言ってもね、、、。なんかその土俵におりたくない。
水辺にいます こころにさざなみがたつと この水辺に来ます 波のない 鏡のようにおだやかな水辺に立ち こころの雑音を浸して 沈ませていく びーびーぎゃーぎゃーいっていた雑音が静まり うまくいかない! と かんしゃくをおこしていた 小鬼が ぽろっとあたしから飛びでて 湖の底の まあるい石を取りに もぐっていった さよなら あたしは足をひたして 冷たい感触のなか 小魚が 指先の感覚をつつく くすぐったいな さよなら ハープの音 どこからか そうよ 水辺とハープはなかよしだったね 遠
過去に『Oggi(小学館)』にて連載されていたものです。 最近、舞台女優のお仕事をした。女優なんて恐れ多くて口にもしたくないけれど、でもそういうことになっちゃった。酔っていたときに誘われたせいもあったけれど、一度、出演者側も経験しておけば役者さんの気持ちも分かって、もっといい脚本が書けたり、演出ができたりするよ、という殺し文句で、まんまと術中にはまってしまった。だけれど、学生時代も演劇部だったわけでもないまったくの素人の私が、35歳にしてはじめて舞台に立つというのはとて
冬の木にふれてごらん、すごいよ ぱちぱちしてる どくどくしてる 春へ向かうエネルギーがそこに しまってある その奥に、夏へ向かうエネルギーも、あるよ その奥の奥に、秋へ向かうエネルギーも、あるよ でも冬の木は、しゃべらない じっとだまって、曇り空を見ている 寒そうに なすすべもなく 立っている でもぼくは知っている このあとのめくるめく変化を 春になり 枝がはえ めぶき 夏になり 葉が おいしげり 秋になり その葉を色づかせる そしてまた、このいま目の前のあなたになる 孤独
過去に『Oggi(小学館)』にて連載されていたものです。 遠い親戚に厳格な税理士先生がいる。つい最近から見てもらうことになった。実はずっと前に、そんな話もでていたが、その頃、すごく余裕がなかったのと、今にも増してお金のことが苦手で嫌いだったので見てもらうのを敬遠していた。 でも、私ももう35歳、お金のこと、税のこと、きちんと分からないと!社会のことから、経済から逃げないぞ!ということで税理士先生のもとを訪ねた。 「やっとその気になりましたか。きっとできますからね。丁寧に
山はしゃべっている まあるい山はとくにしゃべっている それにとなりの山も加わって うしろの山も加わって 井戸端かいぎ 井戸端かいぎは 井戸のまわりだから 山端かいぎ 山のまわりで山がしゃべる 「むかし むかし あるところに」 知ってる話をわあわあしゃべる 「あるところに おじいさんとおばあさんがおった」 昔の話を忘れないように山々はしゃべる 今日という日の山端かいぎを終えると 山と山は 遠くの空におじぎをする すると夕日が沈むことになり からすがかあと鳴いて 山と山のあいだに
過去に『Oggi(小学館)』にて連載されていたものです。 ある日、夕方に雑誌の取材をうけるのをうっかり忘れていた。いや、覚えていたんだけど、その雑誌がオシャレ雑誌で、しかも私の撮影がある、ってことの自覚が足りなかった。 「やばい。この髪型ではまずいでしょ」 私の髪の毛は、ぼさぼさで、そして奥の方に毛玉ができていた。 ま、外からは見えないんだけどね。 そんなわけで、事務所に戻り今度は住所をいれ、パソコンで美容院検索をしてみた。 「この名前、なんか見たことあるなぁ」
たまに ごくたまに きみだったらどうするのかな と考えます お元気ですか たまに ごくたまに きみだったらなんて言うかな と考えます どうやって笑わせてくれるのかな どんな奇想天外なことを 言いだすのかな どんな悲しい顔をして どんなひどいことを言って どんなやさしいことばを かけてくれるでしょう はたまたどんな歌を歌いだすでしょうか どこへドライブに行くでしょうか もう わからない わからないくらい わたしたちのあいだに じかんが通り過ぎました では どうぞお元気で わたし
過去に『Oggi(小学館)』にて連載されていたものです。 Kさんとはメールのやりとりから始まった。Kさんは、とある大会社の社長秘書なのである。 【社長のTが『下記メンバーで一度、打合せを兼ねて、京都でお食事などどうですか?』ともうしております。『新幹線でお弁当を食べながら、遠足みたいにわいわい話しながら移動し、京都でミーティングしたい』と張り切っております。ご都合お聞かせいただけると幸いです。念のため御同席いただく方々の…】 そのあとにどういう会社のどういう方が行かれる
宇宙を落ちてゆくゆめを見た たしかにわたしは手をつないで あのひとと落ちてきた まっくらな宇宙空間を 星がちいさく瞬くなか わたしとあなたは モモンガみたいに 両手両足をひろげて 手と手をとりあって どんどん どんどん 落ちていく 眼下には 地球という おおきな惑星が見えた もう時間はない でもスローモーションのように 星がちいさく瞬くのを 「きれい」 「きれいだね」 わたしたちはロマンチックに見つめあう ぎゅっと手をにぎりあって 宇宙を落ちていく 「ねぇ、わたしたち、地球に
過去に『Oggi(小学館)』にて連載されていたものです。 #Chapter6「あははの編集者」 Kさんはきれいな長い黒髪の持ち主。女性誌の副編集長さんなのである。目が大きくて眉が細くないから、落ちついた和服の似合いそうな美人さん。 いつも、黒いスリムなパンツに上品な淡い色のジャケットで、デキるって感じなのに女性らしい穏やかさがある。 でも、なんといってもKさんの特徴はよく笑うところ。笑うのが楽しくて生きているという感じすらうけるのだ。しかもその笑い方が、豪快。文字通り、
アダムとイブは 禁断の果実を食べて 無垢を失った 怒りを知った 悲しみを知った 嫉妬や孤独 あらゆる感情を知った 神の子だったアダムとイブは 神の怒りを買い 楽園を追放され 限りある命の人間になった 私たちはその子孫だ でも私たちは神様にいつも感謝している 太陽の光が気持ちいい あなたを感じます 風が気持ちいい 空に吸い込まれそうになります 無垢な存在で生まれてくる神の子 その笑顔を見ていると この笑顔のまま 育ったら どんな人生になるのだろうと思います でも人間が育てて 人
過去に『Oggi(小学館)』にて連載されていたものです。 #Chapter5「ワインバーのふわふわ女子店員」 行きつけのワインバーにSちゃんがいる。 Sちゃんは松嶋菜々子とモデルのはなちゃんを二で割った感じに似ている。 でも彼女は料理をする人で、狭いカウンターの右端の調理器具のあるところにすっぽりおさまっているので、割とその美人度合いが分かられていないように思う。それから、白いコック帽に白い割烹着を着ているため、彼女のふわふわの長い髪や、趣味のいいセーターなど皆は知らな
自尊心を持ちなさい 金木犀は言った 自分を傷つけてはなりません 金木犀の花ことばは 気高さ いいですか、お嬢さん 我慢していてはいけません プライドをお持ちになって これ以上 自分を傷つけることはいけません 誰かのための人生ではない みんなの期待にこたえたり 愛するひとを守りたかったり わかります でもそのなかに含まれていますか あなたの心を守ること あなたは尊いひとです あなたはあなたしかいません 他の誰でもない 凛として いきましょう 金木犀の花ことばは 謙虚 傲慢はいけ
過去に『Oggi(小学館)』にて連載されていたものです。 #Chapter4 「スズランのような大和撫子」 とある食品メーカーでNさんに出会った。Nさんはアラフォーの熟練の人なのに、ものすごく腰が低い。それは媚びへつらうとか営業的なそれとかとは全然違って、もう生まれながらに謙遜という名の下に生まれた感じなのだ。謙遜オブ・ザ・イヤーを毎年とりつづけてる感じなのだ。そんな賞ないけど。 その謙遜具合はとても香しく、お花で言うとスズランとスイトピーを足して2で割ったような人。
マティスとゴッホはおしゃべりをした 熱いコーヒーを しろくてまあるいテーブルで飲みながら みどりのお庭でおしゃべりをした なぜ絵をかくのか それは世界が美しいから 感動してかきたくなるんだ じゃあ聞こう まるで絵のように美しい って言葉はどういうこと? 世界の美しさより 絵のほうが美しくなってはいない? うーむとふたりは考えた 世界が美しいから 絵をかくのに 絵のほうが世界より美しくなっているという 絵は エゴ なんじゃないだろうか 自分都合の絵 マティスもゴッホもおちこんだ