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医書編集者のためのブックレビュー:雑誌『総合診療』Vol.32 No.1

これは医書編集者である不肖わたしくが編集という職能の視点から、好き勝手に書く超ニッチなブックレビューです。

今回のブックレビューするのはコチラ!

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(クリアPP加工の表紙、写真だと反射しがち)

雑誌『総合診療』です。『総合診療』といえば業界の雄として医学雑誌界を牽引する、レジェンドな存在です。
そして、本誌最新号の2022年1月号は我らが國松淳和先生が特集企画をしている号でもあります。

特集タイトル
実地医家が楽しく学ぶ「熱」「炎症」、そして「免疫」


あの、すみません。確認ですが『総合診療』ってジェネラルな臨床誌ですよね? 
そんな一抹の不安を抱きつつ、さっそく目次をみてみます(下記)。

ちょっと…なんかこう……言葉を選んで言っても、変態的ですよね。読者へのハードル設定がすごい。やっぱり、そんな気がしていました。でも、これが王たるゆえんです。
准タイトルは「実地医家が楽しく学ぶ」。自誌へのハードルの上げ方も尋常じゃない。
あと「そして免疫」は、たぶんドラクエです。

はたして楽しく学べるのか!?(と突っ込んだものの)実際、そのハードルを超えられるような仕掛けが本号にはふんだんにあるんですが、このブックレビューではそんな中身の話はやめましょう。

さて、まずは誌面デザインから見ていきましょう。

『総合診療』といえば……そう、本文フォントですよね。
誌面は大々的にお見せできないので、いますぐに購入してお手元にどうぞ。

本文フォントはなんとゴシック!! これは医学雑誌では画期的だったでしょう。
フォーマットは13Q・24Hです。うむ。24Hっていうのはけっこう大胆な取り方ではないか。
本文13Qなら、まあオーソドックスに22Hくらいにしたいところじゃないか。2段組ならなおさらに。

2022.1.12追記
正しくは12.5Q・24.5Hとのこと。お詫びして訂正します。
確かにQ数表を当てると微妙にずれていたので、下記には「(くらい)」と書いていたのですが。まさか0.5で刻んでいるとは……。
変態度を増してどうする!

『総合診療』ではそこを思い切って24H(くらい)とってるんです。
これ数字だけ聞くと、かなりルーズなレイアウトになるんでは……と心配になるかと思いきや、実際これ相当読みやすい。このフォーマット、1段組だとか本文明朝だと成立しにくいと思うんですよね。
あくまで「2段組+ゴシック+歯送り広め」っていうセットがあって、しっくりきています。ここにきて新スタイル確立。この攻めの姿勢、見習いたい。

ただし、この「2段組+ゴシック+歯送り広め」に当てはまればオールオッケーというわけではなく、使用している筑紫ゴシックと、このフォーマットの相性のよさ、もあるかもしれません。

余談ですが、筑紫シリーズはいまや出版業界のトレンドですよね。 やはり編集者たるもの流行は積極的に取り入れていきたいところ。その点からみても、本誌はさすがですよね。
小塚明朝に微妙な平体かけてチマチマ演出してた時代が懐かしいよ。

それから見出しのカーニングがめちゃくちゃうまいです。
特にタイトル周り。あるあるですが、特に編集から指定しないと「なんでこれ2行になった?」とか、詰まり過ぎて「もうつべこ言わず級数下げんかい!」的な処理に往々にしてなりがちで、もう入れば何でもいいや……な気持ちになりますが、本誌はタイトル・見出しの処理はビシッと決まってます。特にp28のタイトル(ここだけ出していいかな……)。

(総合診療 32(1);2022:28)

特にこのカタカナの処理、紙一重のレベルで、すごい決まってますよね。秀逸です。デザイン的に優れているだけでなく、おさまりもいい、というね。

これ実は「Keyword」の部分がガッツリとノド側で断ち落としになっていて、ぶっちゃけ文字を食っちゃうギリギリなんです。が、何というかこの手の「Keyword」って「読む」より「見る」ものなので、何か全然問題ないんですね。

またタイトルだけでなくて小見出しに至るまで、細かい調整がされていてたまらないです。見出しだけで二合半いける。

こうしたディテールにこだわるテクニックによって、限られた誌面でもタイトルや見出しを大きく、バランスよく魅せることができるんですね。
勉強になります。

編集面で注目したいのは医学雑誌に珍しく(?)「参照ページ」を使っているところです。
雑誌は執筆者も多く、内容もオムニバス的な要素が大きいので「参照」ってなかなかつけないでよね。ぶっちゃけ参照ページって入れること自体けっこう大変だし。

だからこそ! ここは編集の手腕が光ります。
なかでも一番度肝抜かれたのはコチラ。

巻頭の忽那先生・國松先生・佐田先生による座談会『快談! 「発熱診療」の過去・現在・未来 inコロナ禍、ここだけの話』の中、p4-5です。

國松 結局、われわれが少し前まで啓発を行ってきたはずの「風邪診療」(p.135)と同じことが……(以下略)

総合診療 32(1);2022:4-5

さて、この「p.135」どこを参照させているか、というと……


(2月号も激アツじゃねーか)


次号予告!!!
巻頭からいきなり最終ページにとんじゃったよ! 手品かよ。

でも、これって雑誌の内容が一本ちゃんと筋が通ってて、かつそれを編集サイドがきちんと把握していないとできない芸当です。御見それしました。

またそれぞれの項目末の参考文献にPMIDが併記されています。
クール!これめちゃくちゃ便利なんですよね。
しかもPMIDのみに特色を配色していてしっかり目立つ。ユーザー目線!
参照作業って地味に大変なんですよね……。こういう努力はちゃんとみせていきたい。

ちなみにこの文献PMID併記方式は医書編集領域では、もはやスタンダードになりつつあります。

さらにさらに、今後のトレンドとしては「参考文献に、一口コメントをつける」が来そうな予感がしています。

1)NEJM 〇;×:12-30
この論文はとにかくFig2だけ見ればヨシ!
2)Lancet〇;×:1225-7
この疾患を俯瞰したいならとにかく最初はこれを読みましょう

みたいな感じです。これは絶対流行るぜ!

それから本誌では、実は特集の項目間で「です・ます」「である」の文体をまったく統一していません。当然これはもちろん、あえて、と思われます。というより、おそらくそこに編集の力点を置いてないんですね。実際に読んでいても違和感は特にありません。
著者の個性を活かす編集です。文体統一とか言っていた時代はもう終わったのだ。

それから構成面でいえば特集だけでなく連載も豊富で、かつそのひとつひとつのクオリティが非常に高いことが本誌の特色です。
配分としてはだいたい誌幅の半分くらいを連載が占めていて、それらのデザインも(いい意味で)版面やタイトル・本文フォーマットにしばられていません。

お馴染み國松先生の連載『後悔しない医者』は縦組で逆ページからはじまるし。なぜかレイアウトもきちんと収まっているという。どういう芸当やねん。

それ以外にも「19番目のカルテ」コラボとか、なんかこれはもうコンテンツ力がもう桁外れで、誰もマネできない。ただただ圧倒。

こうして参照ページや文献処理などの全体の一体感・ユーザビリティとは別に、どこを切ってもいい=面白い「雑誌っぽさ」が絶妙に両立しているところが、この『総合診療』の相対的なボリューム・豊かさを演出しているんではないでしょうか。

私はいまは書籍編集をしていますが、今回とても勉強になりました。
ぜひみなさんも雑誌研究してみてはいかがでしょうか。

それでは!