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加速する「グルメサイト離れ」、飲食店のマーケティングはどこへ向かうのか

飲食店探しにおける検索トレンドの変化

グルメサイトは、電話番号や住所など店舗の基本情報に加え、メニュー、評価・レビューの情報、さらには、予約やクーポンの機能まで備えている、飲食店を探すときにとても便利なメディアです。

しかし近年では、ユーザーの「グルメサイト離れ」が進んでいるという話も、よく耳にするようになってきました。

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上のグラフは、「居酒屋」「食べログ」「ぐるなび」の3つのキーワードのGoogle検索ボリュームの推移です。
2011年頃を境に、まずグルメサイトへアクセスしてからその中でお店を探すよりも、最初からダイレクトに『渋谷 居酒屋』のように検索してお店を探す方が主流になっている、というトレンドの変化が読み取れます。


本当に「グルメサイト離れ」は進んでいるのか

ただし、先ほどのグラフはあくまでもWEB検索トレンドの変化であって、各グルメサイトへの流入数とイコールではないという点には注意が必要です。

例えば、下の図は「ぐるなび」の2020年3月期 第2四半期決算・中期事業方針説明資料からの引用ですが、一概にグルメサイトの利用が減少しているとは言い切れないようです(アクティブユーザー数やサイト滞在時間の推移などを見てみないことには「増えている」とも言い難いですが)。

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一方、クックビズ社の調査では、「食べログ」「ぐるなび」を利用する飲食店が減少しているのに対し、「グーグル地図検索」や「Retty」の利用割合が大きくなってきていることが示されています。
さらに、今後のグルメサイト利用について、「積極的に利用する」と回答した飲食店は、2017年では13%だったのに対し、20年には3.9%と大きく減少しています。

また、TableCheck社の調査では、4分の1以上のユーザーがグルメサイトの評価や表示順位を「信頼していない」と回答、半数以上が「信頼はしているが、あくまでも情報源の1つである」と回答しています。

どちらの調査でも、「食べログ」「ぐるなび」「ホットペッパーグルメ」のシェアは依然として大きく、飲食店探しにおいて最も重要なポジションにあるという点は変わっていません。
とはいえ、メディア・ツールの多様化の傾向は明らかで、相対的な信頼度の低下による「脱グルメサイト」「グルメサイト離れ」が進行しているというのは事実のようです。


WEB検索と地図アプリの思想

冒頭で、WEB検索からダイレクトにお店を検索するのが主流になっていると書きましたが、Googleが設立間もない頃から掲げる企業哲学「10の事実」の中に、次のような一文があります。

Google は、ユーザーの貴重な時間を無駄にせず、必要とする情報をウェブ検索で瞬時に提供したいと考えています。

ユーザーがWEBで検索したときに、少しでもはやく求められている情報を返すというのがGoogleの目指す世界観のひとつだということです。

これまで私たちがWEBで情報を探すときには、検索窓にキーワードを入力し、検索エンジンが選び出した大量のページリストの海の中から適切なサイトを選び、ときには、そこからさらにページの深いところへと潜っていく必要がありました。
しかも、その情報が「正しい」かどうかを自分で見極めながら、です。

ところが近年では、Googleで『渋谷 居酒屋』のように「エリア名+業態名」で検索すれば、最上部に地図といくつかの店舗の情報が表示され、それらが画面のほとんどを占有します。
そこにはお店の写真・営業時間・メニュー・レビュー等の情報がほぼ揃っているため、その画面だけでお店選びが完結することも珍しくはありません。

もはや大量のWEBサイトの海に深く潜っていく必要はなくなりつつあるのです。

近くですぐに行けるお店を探すなら、地図アプリを開いて行きたいお店のジャンルを入力する方が早いこともあるでしょう。
あるいは、アプリすら開かずとも、AI音声アシスタントに話しかけるだけで十分かもしれません。
ただそれだけで、必要な情報を返してくれるのですから。


そもそもグルメサイトの役割とは

さてここで、改めてグルメサイトの役割を考えてみましょう。
ユーザーがグルメサイトに対して求めている要素を簡単に整理すると、以下のようになります。

①基本情報(住所・電話番号・営業時間・メニュー 等)
②第三者による客観的な評価
③空席確認・予約機能
④クーポン・ポイント機能
⑤その他お店のこだわり 等

グルメサイトによって、これらのどの要素に重きを置いているかはそれぞれ異なりますが、ユーザーに利用されるためには、基本的にこれらの「情報量」「正確さ・信頼度」「見やすさ・使いやすさ」の3点が特に重要となります。

最終的には、利用シーンに合った良いお店を見つけて、そのお店に行くことが目的なので、そのために、より信頼できる情報が分かりやすくたくさん載っているメディアを利用します。
さらに言えば、それは必ずしもグルメサイトでなければいけないわけではありません。

元々は、自店でホームページを持っている飲食店が稀だった時代に、インターネットを通じてお店の情報を発信するための手段として、グルメサイトが登場しました。
ところが今では、お店ごとにホームページやSNS、noteなどを活用して情報を発信することが容易にできるようになっています。
結果として、他に情報を発信する手段がなかった時代と比べてグルメサイトの存在意義は薄れてきているのです。

SNSやブログで評価の高い飲食店を探しても、最終的に予約をするときだけはグルメサイト経由、というフローは多いですが、ついにはInstagramから予約や事前決済ができるようにもなっているようです。
こうなると、ユーザーと飲食店がグルメサイトの外に流れていくのを食い止めるのは、そう簡単なことではないでしょう。


飲食店におけるこれからのマーケティング

最後に、これからの時代に飲食店はどのようにマーケティング活動を行っていけばよいのかについて考えてみます。

インターネットを活用したデジタルマーケティングで集客するには、その世界を支配するプラットフォーマーの思想には逆らわず、確実にその流れに乗る必要があります
そのためには、Google マイビジネスYextを活用して、ユーザーがWEBで検索したときに瞬時にAIに見つけてもらえるよう、お店の情報を管理することが重要です。

また、多くのグルメサイトの主な収益源は飲食店から受け取る掲載費やネット予約の手数料ですから、より多額の費用を支払うお店を優先的に表示することに対するインセンティブがありました。
実際のところ、グルメサイトにお金を払うお店ほど集客に有利になる構造も、確かに一部にはあるのです。
そういった事情をユーザーも薄っすらと感じていることが、「グルメサイト離れ」の一因かもしれません。

一方で、グルメサイトを主戦場としないことを選ぶのなら、(当たり前ですが)これまで以上に「お客様に求められるお店」を目指さなければなりません。
検索エンジンは、あくまでも「ユーザーが求めている飲食店の情報」を優先的にピックアップするからです。
飲食店からお金を取っていないGoogleには、飲食店側に忖度する理由がないのです。

もちろん、グルメサイトもこうしたトレンドの変化を理解していますし、Googleをはじめとするプラットフォーマーの進化に適応しようとする動きも見られます。
ブロックチェーン等の新しいテクノロジーを活用した、独自の強みを持つグルメサイトも台頭してきています。

おそらく今後も、それが飲食店にとって最も手軽な集客手段のひとつであることに変わりはないでしょう。
いくつかのグルメサイトは近い将来に淘汰されてしまうかもしれませんが、とはいえ、グルメサイトが完全なくなるとも考えにくいです。

である以上、「脱グルメサイト」の流れを、その分「競争相手が減る」と捉え、あえてもっとグルメサイトによる集客を強化するというのもひとつの選択肢かもしれません。

はたまた別の選択肢としては、外観と店前看板だけで集客できるお店を目指したり、常連客とその紹介で十分成り立つお店を目指したりするのも一手でしょう。
そのためには立地が最も重要になりますが、いくらITが進歩しようとも、全てのお店がデジタルに頼らなければならないということはありません。

いずれにしても、同時に取り組めるマーケティング手法の数は限られているので、時代の変化を読みながら、エリアや業態ごとに最適な集客方法を模索することが大切だといえます。

[著]Makoto Otsubo


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