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【映画】もう限界だ! 許さん!! 世間への怒りが爆発するアブない映画・11選【改訂再掲版】

「ふざけるな!」
「もうゆるさん!!」
「ブッぽろしてやる!!!」


 そういう気分になること、ありますよね。一日80回くらい。
 けどそんな気分になってプッツンして手近にあったごついガラスの灰皿で嫌なヤツを殴ったりすると、これはダメ。犯罪です。捕まります。
 さらに特定の誰かにではなく、社会や世界、政府などに対する怒り、どうしようもない憤激にとらわれるともっと困りものです。
 でもそこで怒りにまかせて政治家にハムを投げたりすると、これもダメ。ハムでも犯罪です。捕まります。薄く切ったやつでもダメ。

 ちくしょう。このやろう。一体どうしてくれようか…………!

 …………大丈夫!! 我々にはフィクションが、創作の世界があります。

 今回はそんなやるかたない怒りを抱えた人たちに、「世間への苛立ちや怒りが爆発する映画」をご紹介したいと思います。これを観て、手は出さずになんとか怒りをやり過ごしてもらえれば幸いです。


☆よい子も極悪人も、真似しないでね!!☆

 


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①フォーリング・ダウン(93年) 118分
監督:ジョエル・シュマッカー
出演:マイケル・ダグラス、ロバート・デュバル

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 トップバッターは、舞台は夏だけどオールシーズン通用するこの一本。
 ロサンゼルスの道路。うだるような暑さ。進まぬ渋滞。そのど真ん中で何かがキレちゃったある男。「家に帰る」と言い残し車を放置して街へと消える。
 横柄で傲慢な個人経営の雑貨店でキレて暴れてバットをゲット。そこからはじまる男の暴力わらしべ長者物語

「このハンバーガー、写真と違ってペシャンコじゃないか!」
「こんな所にゴルフ場なんか作りやがって! 金持ちめ!」
「この道路工事は予算を使いきるためだろう! 邪魔なんだよ!」

 などなど、世の中の不正や理不尽に(バットからはじまって色々あってロケットランチャーとかで)どんどん正しく怒りをぶつけていく男に「そうだ! やってやれ!!」と共感しつつ、彼を追う定年前日の窓際老刑事のガマンに「大変ですね……ご苦労様です……」と感情移入もできるバランスのとれた物語。

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(「このハンバーガー、写真と全然違うぞ?」)


 名も無き男がジャスティスを行使していく裏側で、彼の背景と“目的”が少しずつ明らかになっていく作劇も見事であります。こんなろくでもねぇ時代だからこそ見返したい。







②マッドボンバー(72年) 91分
監督:バート・I・ゴードン
出演:チャック・コナーズ、ネヴィル・ブランド、ヴィンセント・エドワーズ

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 こちらもメガネのおじさんがジャスティスを行使していく映画。ただし『フォーリング・ダウン』とは違い、男は最初からプッツンしていて、巻き添えになる無辜の市民が出る。メッチャ出る。

 道にゴミをポイ捨てしたおじさんに
「今ゴミを捨てたな」
「拾いたまえ」
「お前のような奴が世界を汚しているんだぞ、この豚め
「ほら、ちゃんと捨てればスッキリするだろう?」
 と詰め寄る冒頭からして危険な香り。

 こちらのメガネのおじさん、とある因縁のある場所に爆弾を仕掛ける。でも“場所”に仕掛けるので、何の罪もない人がすごく死ぬ。無差別に死ぬ。
 爆弾で世間に仕返ししてる合間にも街中でカチンとくればとにかく怒りまくるという大変ヤバい正義の人で、顔のインパクトもあって大変怖い。



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(顔のインパクト)



 そんな彼が爆弾の設置された建物にいるのを目撃したオッサンがいた。さぁ彼が証言してくれれば爆弾事件は止められる! よかった! と喜んでいたら、このオッサンこともあろうに連続婦女子暴行犯。
 警察に暴行未遂で捕まっても「オレ名前しか名乗らねぇからよォ~ッ。黙秘するぜェ~?」とふてぶてしい態度。負けず劣らず腐れ外道。顔のインパクトもあって義憤の爆弾おじさんよりこっちの方に腹が立ってくる。



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(顔のインパクト)



 爆弾魔と暴行犯が対決! とかそういう派手なことは起きない……というか全体にかなりユルめの出来だけど、LAの街にはびこる悪徳とそこで起きる爆発の蠱惑的な快感にじんわり熱せされるような映画です。ラストの衝撃!!






③オカルト(08年) 110分
監督:白石晃士
出演:宇野祥平、白石晃士

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 爆弾と言えばまぁこれですよ。しかも邦画であります。観光地で起きた不可思議な通り魔事件を追う一本。
 犯人によりマークめいた謎の傷を負わされた被害者のひとり(ネカフェ難民の派遣社員)の生活に密着していると、とてつもないことになっていく異色のフェイク・ドキュメンタリー。
 監督は『貞子vs伽椰子』『コワすぎ!』等でおなじみ、白石晃士。当時メジャー作品を数本撮った彼が、「俺の撮りたい映画はこういうんじゃないッ。これが俺だという映画を作りたいッ」と低予算を引き換えにすごく自由に作った作品である。



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(彼が主人公です)



 鬱屈した派遣社員のキャラ造形には、若い頃クサっていた時期の監督の心境がかなり反映されているそう。
 カップ焼きそばばかりだと野菜がとれないでしょ?と言われて「入ってますよ、ホラ」と小指の先くらいの量のキャベツを指し示すなど、ダメ人間の描写もゾッとするほどリアル。
 その派遣社員氏を演じるのは今や売れっ子脇役となった宇野祥平。
 映画やドラマはもちろん『ウルトラマンギンガ』『仮面ライダーエグゼイド』にも出演した彼のこの、何ていうか、オーラのなさが素晴らしい。先の内容はヒミツにしておきますが、何かあったら発禁になる可能性もあるアブない逸品です。







④狂い咲きサンダーロード(80年) 98分
監督:石井聰亙(現 石井岳龍)
出演:山田辰夫、小林稔侍

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 その白石晃士監督がこよなく愛する映画がこちら。卒業製作として作られたのが評判を呼び劇場公開、今や伝説の映画のひとつ。
 締め付けが厳しくなるってんで暴走族すら丸くなっていく近未来。そんな時代に「俺たちゃ俺たちでツッパっていくからよォーッ」と破壊と暴力を繰り返していく魔墓呂死(まぼろし)の走り屋特攻隊長・ジンの真っ直ぐにイカれた反抗心が狂い咲く。 
 社会にも組織にも仲間にも背を向けて、とにかく自分のやりたいようにやっていく刹那的な生き様が画面に満ち溢れてミシミシと音が鳴る。 
 仲間がどんどん脱落していく中、潰れた声で世界に対峙し続けるジン(山田辰夫 09年没)のツッパりっぷりが儚くもあまりにかっこよい。途中組織に属さないといけなくなるけどやっぱドロップアウトしちゃうのもいい。彼はどこにも属せないのだ。



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(DIYフルアーマー)



 満身創痍にアーマー着込み、「全員ブッ殺してやる!」と殴り込みをかけるクライマックスからラストまでは世界一のアガりっぷり。邦画でありながらこの銃撃、クラッシュ、高揚感。「愛される暴走族」「スーパー右翼」などパンチの聞いた言語感覚、音楽も素晴らしい。究極のアウトサイダー映画でありましょう。







⑤丑三つの村(83年) 106分
監督:田中登
出演:古尾谷雅人、田中美佐子、夏八木勲

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 一方、飛び出すんじゃなく周りの奴らにのけ者にされてアウトサイダーになっちゃう人もいる。村八分というやつである。村八分も下手したらこういうことになる。実際に起きた事件をモチーフに作り上げた大量殺人映画。
 戦時中、頭のよさから将来を期待されつつも兵隊になろうとしていた青年。しかし徴兵検査で結核と判明した途端、村人ほぼ全員に邪険に扱われ、煮立った頭が導き出したのが……
 村八分から殺戮計画へと至るイライラの段階がイマイチとか村社会のつらみがいまいち出てないとか文句はつけられようが、やはりいざコトが始まってしまうと主人公と共にウォーッウワーッとなってしまう。



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(ゆるさん!)



 背が高くヌラッとした存在感の古尾谷雅人が、村を見下ろしながらタガのゆるんだ様子で「皆様がたよ、今に見ておれでございますよ!」と呟くその顔。コトが始まってからの前のめりでありつつどこか醒めたようなその顔。元がいかにもウブでマジメそうなのでギャップが映える。
 優しいバーチャンがいても、好意を寄せ合う相手がいても、追い詰められた人間はこういうこともやる……気をつけろよ! おい社会! 俺を雑に扱うとお前! …………ハッ! 失礼しました……取り乱しました…………







⑥八つ墓村(77年) 151分
監督:野村芳太郎
出演:萩原健一、渥美清、山崎努、小川真由美

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『丑三つの村』と同じ大量殺人事件を原作に取り入れた、横溝正史の同名小説の映画化。実際の事件をモチーフにとはなんてことを。昭和には倫理観がないのか。ない。ないね。
 落ち武者を殺して財を成したという「八つ墓村」、当主の血を引いているとして都会から呼ばれた青年の前で起きるおぞましい連続殺人。51年版と96年版もあるけど今回はこちらの77年版。なぜなら山崎努が走ってくるから。
 落ちのびた8人の武者たちを映し出す冒頭、そして一人目の被害者(いつ見てもおじいちゃん役な加藤嘉)の死に方からしてなんかもう禍々しき匂いが鼻を打つ。
 血で血を洗う落ち武者殺しや、突如として「グブゥッ!」と苦しみだし泡を吹いて絶命する被害者たち(毒殺)の怖さに「こ、これちゃんとミステリとしてオチがつくの?」と不安に思っていると……山崎努が走ってくる。



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 映画の中盤に置かれたこのシーン。落ち武者殺しの首謀者である多治見家、その後代の当主・多治見要蔵が起こした三十二人(八つ墓の 8× 死の 4)殺しのこのシーンは、邦画の歴史に残るレベルであまりにすごい。 
「拉致監禁していた女が逃げたので八つ当たり」という1ミリとて同情も共感もできない大殺戮劇なのだが、監督の野村芳太郎と音楽の芥川也寸志はここを神々しいまでに恐ろしい場面に作り上げた。
 夜桜を背景に女物の着物を着て顔面蒼白、日本刀に猟銃を装備してまっすぐ走ってくる山崎努(陸上選手のフォームを研究したそうです)のモノスゴさ。慈悲も躊躇もない虐殺、そのブチギレっぷり……まぁ、ご覧くださいとしか言いようがない。
「世間への怒り」って題名からは外れるんじゃね?と思いきや、脚本の橋本忍は明るく終わる原作を「すべては……落ち武者たちの怨念だったんだよ!!」と改変してしまっているのでギリギリセーフ。たぶん。ミステリとしてオチは半ば放棄されてる。怨念だよ怨念。しょーがねぇよ怨念なんだから。ホラーだよこれは。





⑦オーディション(2000年) 115分
監督:三池崇史
出演:石橋凌、椎名英姫(現・しいなえいひ)、國村隼

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 橋本忍と言えば、虐げられた女たちの怒りが時空を越えて繋がる『幻の湖』があまりにも有名ですが、女の恨みと欲望が爆発する映画としてはこちらの『オーディション』を紹介したい。なぜ『幻の湖』を紹介しないのかは、察して下さい。
 妻を亡くして張り合いのない生活を送る中年の男が、芸能事務所に勤める知人のツテで、女優オーディションに乗っかる形で恋人探しを慣行。
 普通に恋愛すりゃいいものを主人公、実に軽薄な気持ちで「女の品定め」をしやがる。とんだ中年オヤジである。その結果とんでもない女性に惹かれてしまってそれはもうとんでもない目に遭う物語。
 サイコホラーとしてはもちろん、「女の品定めをしていたら超絶に反逆される」という側面から、海外では一種のフェミニズム映画としても評価されております。
 ハマった時の爆発力がすさまじい三池崇史の、これは大ハマり大爆発な作品。重たい不穏な映像、厭な雰囲気、男たちが無自覚に女を軽く扱う感じ、そんな中にヌッと入ってくる怪女・麻美さんがとてもステキである。



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(キリキリキリキリ~)



 好色な目線に晒され続け男に縛られ続ける「女」たち。その怨念が凝り固まった存在としての必殺男仕置人の麻美さんに喝采を送る女性も多い、かも。なお海外の映画祭ではグロすぎて退席者が続出。
「そりゃ男もよくないけどさぁ、針とか……足をそんなことするほどでは……」と男は言うけどね! 世間に怒っているのは男だけじゃない! 女も怒っている! やってやれ!! 女がブッキレる映画、もっとやってやれ!!







⑧人魚伝説(1984年) 110分
監督:池田敏春
出演:白戸真理、江藤潤、清水健太郎

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 おう!! やったろうやんけ!! とエントリしたのは海女さんだ! 舐めてた相手が殺人海女!!
 ここはひなびた港町、不器用そうだけど優しい夫と共に海女として暮らしていた主人公だったが、夫が夜の海でボートの爆発を目撃したことから陰謀と邪悪の蜘蛛の巣に絡め取られていく……というのがあらすじ。
 幸せな暮らし、愛する夫、平和な人生、女としての尊厳、人としての尊厳……主人公がそれらを1つずつ奪われていく様は見ていてつらい。主人公も夫も悪いことなど何もしていないのに。
 並みの邦画となればだいたいこの流れだと静かに嘆きながら死んでしまうか、せいぜいが悪い奴を1人か2人殺して終わるであろう。ヤクザ映画だって悪党を殺したあとは逮捕されたり自首したりする。しかもこちらはかよわい女性……もうどうしたって……悲しい話にしか着地しないのだ…………



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(嵐を起こして 全てを壊すの)



 そのはずが、本作は後半から怒濤の追い上げを見せる。詳細は伏せるが「画面の中で起きていることが予想を越えてすさまじすぎて身も心も全部呑み込まれる」ような感覚に襲われて脳がウォーーーッってなる。ウォーーーッって。あなたの想像の倍を越えるすごいことが起きる。
 そしてそこからさらにとんでもないことになるに至って私たちは知る。ああ、これは「神話」なのだと。これは神の怒りの伝説譚なのだ。だってタイトルが『人魚伝説』なのだから。
 いささか危うい言い方をするが、「女性にしか到達できない怒りの極限」をスクリーンいっぱいに叩きつける、神的暴力爆裂映画。あんたァーーーーーッ!!!!!!!





⑨タクシーハンター(93年) 89分
監督:ハーマン・ヤオ
出演:アンソニー・ウォン

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 怒っているのは西洋人や日本人だけじゃねぇ! 日本の外のアジアでも怒りの炎が! 乱暴なタクシー運転手に妻とお腹の子供を殺されたごく普通の会社員の男 in 香港。「悪いタクシー運転手、許すまじ!!」と憤怒にとりつかれ、世直しを実行するのであった。
 とは言えこの男、基本はいい人。品行方正な運転手に出会うと感激してお金をあげたり、勘違いでケガをさせたら素直に謝ったりと無差別にやっていくタイプではないのである意味安心して見ていられる。でも素人なので殺しの場面でちょくちょくオタオタしちゃうのでそこは安心できない。
 アンソニー・ウォンが小市民的タクシービジランテを好演していて、なんだか応援したくなっちゃう。人殺しだけど、まぁそれはそれとしてな。なお香港のタクシーは本当にかなり横暴だそうであります。



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(非道タクシー許すまじ!)



 監督ハーマン・ヤオ×主演アンソニー・ウォンのコンビは他にも、抗体を持ったエボラ患者のヤクザが暴れまわるひどい映画『エボラ・シンドローム』、タイトル通りの本当にひどい映画『八仙飯店之人肉饅頭』を撮っており、本作と併せて香港ヤケクソ三部作として名高い。一番穏当な『タクシーハンター』を挙げましたが、先の2作はさらにぶっ壊れてるので、もしよろしければ……







⑩ジョーカー(2019年) 122分
監督:トッド・フィリップス
出演:ホアキン・フェニックス、サジ・ビーツ、ロバート・デ・ニーロ

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 優しい男のオタオタ殺人繋がりで、社会現象になったこれを紹介。『アクアマン』『シャザム!』とご機嫌にスマッシュヒットを飛ばしてきたDCコミック×ワーナーのタッグが限界中年男性プッツン&成り上がり物語をぶちかましてきた。
 紋切り型表現ではなくてマジで混迷している現代世界(※2021年も継続中)に降り立った嘆きと怒りの使者、あるいは弱者たちの「切り札」、それがこいつだホアキンジョーカー。
 心身共にハンディキャップを持ちながら、オンボロアパートで身体の悪い母親と暮らしつつコメディアンを目指す男、アーサー。
 治安の悪い街ゴッサムシティでいぢめられながら息も絶え絶え生きてきたが、偶然が重なってある日、とんでもないことをやらかしてしまう。しかしそれが……
 箱庭世界のギャング、正体不明の狂人、若き尖ったギャングスタ、と様々な造形で出現してきたバットマンの永遠のライバル、ジョーカー。本作はジョーカーの誕生秘話(仮)でありつつ、彼を地に足のついた「悪」として描き、その経緯でもって現代、いや過去も未来も存在する「弱き者」の憤激を静かに語り尽くした。



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(アカデミー賞を獲りました)



 前述の9本のようにブッ飛んでみたりド外れて狂ってみたりはしない。優しく気弱で頑ななアーサーの心はじっくり段階を踏んで悪に染まってゆく。しかしこれは、純粋に彼が選んだ道ではないだろうと観ている者は思う。こうなれば、こうなってもおかしくない。彼がプツプツ、プッツンするのは全くの必然のようにさえ思われる。ということは、私たちも似たような状況に追い込まれれば……

「存在していないも同然だった。でも今は違う」
「大丈夫かって? 大丈夫じゃないに決まってるだろ?」
「君は僕をバカにして笑うんだな?」

 彼に自分の過去や現在を重ねる人は世界中にいるだろう。日本では消費税が10%に上がった4日後、デモが加熱する香港においては「街中で覆面やマスクをするのは禁止」とのおふれが出たその日に公開されるという冗談のような偶然が重なった、よくも悪くも2019年を代表する映画となってしまった。これ日本でも大ヒットしちゃったんですよ。笑えるよな。ハハハ。お前も笑えよ。ハハハハハハ。なんだそのしかめっ面は。







 …………さて、ここまで10本やってきました、が…………





 そもそも人類は「虐げられた者の怒り爆発」が好きである。いちいち例は挙げない。何故なら貴方も好きだからである。
 おくゆかしい日本だって、その昔は時代劇とか、悪いヤクザをよいヤクザ(高倉健とか)が殺しにいく任侠モノとか、スカッとジャパンとかが好き。
 しかし時代劇は主に偉い人がやっつけるんだし、高倉健は敵地に殴り込み悪い奴を仕留めてもどこか悲しい。勝ちきれない哀しき空気が残る。
 スカッとジャパンだって実際ああいうことがあったら、なんか周囲から「なんかさぁ……やりこめて超ドヤ顔してるよね……」とか噂されるに決まっている。
 上に挙げた10本も、怒りに駆られた奴らは社会の厚い厚い壁にぶち当たったり抵抗されたりしてやられちゃうのだ。1本だけそうでないやつがあるけど、あれも異世界(?)に到達しちゃうし。



 …………なんだそれは? おい!! 結局世間が勝つのか!? 世界は温存されたままか!? どういうことだ! 世間に怒る奴が完全勝利して逃げおおせる映画はないのか!
 アッそうだ、スコセッシ監督、デニーロ主演の『タクシードライバー』(76年)はどうだ。いやあれはあれで違う。とどのつまりは社会が強いことになる……
 もっとこうさぁ! 世間をギャッと言わせて、無責任に破壊の限りを尽くして大勝利、みたいな、そういう映画はないのか……ないのか……!! ないんですか!!!







あります!!!!









⑪ザ・テロリスト(09年) 85分
監督:ウーヴェ・ボル
出演:ブレンダン・フレッチャー

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 映画界の悪童、撮る映画はあらかたボコボコに叩かれるおじさん、ウーヴェ・ボルが作ったこれを紹介してシメとさせていただきます。
「地球には人間が多すぎる! 俺が率先して減らしてやんよ!」と動画でアジる青年が、手作りのアーマーを装着して火器を持ち、街の人々を完全無差別に大量殺傷、銀行を襲い金を奪い、全ての罪を友人におっかぶせて自分は逃げおおせる、これがこの映画の全貌である。おうよ、ネタバレよ。しかしこの程度でつまらなくなる映画ではない。
 安い正義、ストレス、苛立ちと怒り、無差別殺戮、無双状態、DIYアーマーなどなど先に挙げた10本のいいとこ(※よくない)どりを思わせる。しかし彼は何一つとして代償を支払わない。完全無欠の大勝利である。



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(絶対に真似しないでください)



 怖いなぁ~と思うのはウーヴェ・ボルさん、おそらく深いことはなんにも考えずに作ったであろうこと。氏の撮って出しな作風から考えて批判精神やアイロニーなど毛頭なく、「なんか、ムカつくよな! 世間!! みんな死ねばいいのに!!」くらいの思いつきで作ったと想像される。
 狂気、権力、社会、矜持、義憤、復讐……どんな暴力映画も忘れなかった、何かしらのエクスキューズや思想性がここにはない。ブレーキのない無邪気さが85分に結実して「ただただ人を殺して無傷で勝って終わり」「やったぜざまぁみろ、バーカ!」な、あまりにも無邪気であまりにも危ない映画となってしまった。ここまでいってしまうと逆に「映画とは言え、そこまでやっていいんでしょうか……」と心配になる。

 なおこちらは三部作となっており、『ザ・テロリスト 合衆国陥落』ではテレビ局でマスコミを殺戮、商売の都合から邦題が変わった『ボーダーランド』ではついにアメリカの大統領の暗殺に成功してしまう。
 ただしこの2作では人として血が通ったドラマや描写が増えているため、「危険な英雄」としての主人公なら『ザ・テロリスト』だけ観ておけばOK。
『ボーダーランド』の最後では、主人公が本当に、それこそ地球レベルの「危険な英雄」の最高位へと至る。でもやっぱりウーヴェ・ボルは何も考えてないと思う。
 あとボルさん、「金持ち、ムカつくよな! 許せねぇな! やっちゃえ!」精神で作られたとおぼしき金融街無差別狙撃映画『ウォールストリート・ダウン』なんてのも撮っている。こういうモンを映画製作補助金制度を利用して作ったボルさんが一番ヤバい人なのかもしれない。引退撤回して戻ってきてほしい。



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 …………いかがでしたか。 暑苦しい夏も、切なくなってくる秋も、心寒い冬も、脳のタガがゆるむ春も、こらへんの映画を観てなんとかやっていっていただきたいと思います。


 …………これらを観てもガマンできなくても、実際にやってしまってはいけませんよ。
 抗議や批難、怒りの表明=言論レベルならOKでも、暴力や予告などはやはりちょっと、アレです。日本刀と猟銃を握った山崎努が走ってきた時など状況にもよるでしょうから、暴力や実力行使を完全に否定することはできませんが……

 



 しかし、くれぐれも気をつけてくださいね……もしかすると、「12本目」としてここに並ぶのは……………………




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(おわり)




☆善良な人もド外道も、マネしないでね!!☆


※本記事は2年前にブログに載せた記事を改訂したものです。2021年、まぁ本当にいろいろとね!! なんかもう!! ありますけど!! マジで腹立たしいことばかりですが!! みなさん、ご安全に!!


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