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善き読者でありたい。素敵な本の素敵なところを綴る「読書感想」をアップしています(この頃は月5-10本、朝の更新が多め)。「発達障害のある我が子をより愛するために読む」というテーマでも読書しています。完全な趣味、非営利。お問い合わせはプロフィール欄からお願い致します。

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  • 読書熊録

    素敵な本に出会って得た学び、喜びを文章にまとめています

  • 読書ノート

    読んでいる本、読んだ本、読みたい本についてつれづれ書いている日記のようなもの

  • 発達障害の我が子をより愛するために読む

    発達障害のある我が子を今以上に愛するため、読み進めている本を記録します。ASDやADHDなど発達障害の他、身体・知的障害、難病、福祉、幅広い分野を学んでいきます。

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この本に出会えてよかった2023

今年、強く感じたことは「読むことは光になる」ということでした。 冬が終わる前、幼い我が子に発達障害がある可能性が分かりました。人生で味わった過去の戸惑いとは、比べようもないほどの戸惑い、「この先どうなるのか」と、まさに光を失うような状態が続きました。そこから、一冊二冊。障害や、当事者家族の本を開くごとに、足元が照らされていきました。再び歩み出せました。 本を読む目が変わりました。病や困難に直面した人の語りが身に沁みる。あらゆる物語に、我が子の姿や、我が子の人生のヒントにな

    • 優しさが息苦しい世界で息をする方法ー再読『ハーモニー』

      伊藤計劃さん『ハーモニー』(ハヤカワ文庫、新版は2014年、旧版は2008年)を再読しました。優しさ正しさが敷き詰められた世界は、息苦しくなる。そのことを予見した本作は、きちんと「息苦しい世界で息をする方法」も提示していたんだと気付かされました。 世界規模の核紛争を経験し、人命がどんな価値よりも優先されるようになった社会。政府は「生府」に生まれ変わり、構成員の健康管理に積極的に(ほとんど過度に)介入するようになる。初読時は、この世界観の洗練さに圧倒されたものでした。人命が尊

      • 自閉の本質とは何か?ーミニ読書感想『自閉症スペクトラムの精神病理ー星をつぐ人たちのために』(内海健さん)

        精神科医・内海健さんの『自閉症スペクトラムの精神病理ー星をつぐ人たちのために』(医学書院、2015年11月15日初版発行)は、ASD(自閉スペクトラム症)当事者、あるいはASDの子を育てる親に全力で薦められる一冊です。自閉とは何を意味するのか?その本質を考える上で、橋頭堡となってくれる本です。これを読んだからといって障害を治せるわけではない。でも「いまこんなことに困ってるのかもしれない」と想像できるスコープを得られる。 自閉と聞くとイメージするのは「自分の殻に閉じこもる」と

        • 密室を開く「ノイズ」ーミニ読書感想『娘が母を殺すには?』(三宅香帆さん)

          書評家・三宅香帆さんの『娘が母を殺すには?』(PLANETS、2024年5月15日初版発行)が面白かったです。文学作品などでたびたび描かれる「父殺し」ならぬ、娘の「母殺し」。ジェンダー上女性の方が身に迫るテーマかと思いますが、男性・息子・父親の読者にとっても「密室的な関係・コミュニティから抜け出す方法」として読めます。 また、最近話題沸騰の、同じく三宅さんの著書『なぜ働いているのと本が読めなくなるのか』とつなげて読むのも面白い。なぜなら本書は、読書を困難にする「全身社会」の

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        この本に出会えてよかった2023

        • 優しさが息苦しい世界で息をする方法ー再読『ハーモニー』

        • 自閉の本質とは何か?ーミニ読書感想『自閉症スペクトラムの精神病理ー星をつぐ人たちのために』(内海健さん)

        • 密室を開く「ノイズ」ーミニ読書感想『娘が母を殺すには?』(三宅香帆さん)

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          余白とピン留めー余録『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』

          谷川嘉浩さんの『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』(ちくまプリマー新書、2024年4月10日初版発行)の素晴らしさについては別の記事に書きましたが、そこでは書ききれなかったことがありました。それは「細部にこそ重要な何かがある」という話です。 この本は「衝動」とは何かを考える本で、上記引用部分のインタビューとは、衝動を探究するための「セルフインタビュー」という手法について語った部分です。メインの読書感想では、衝動の「幽霊性」に着目したので、セルフインタビューについてはあま

          余白とピン留めー余録『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』

          ケアとは物語の上書きーミニ読書感想『利他・ケア・傷の倫理学』(近内悠太さん)

          近内悠太さんの『利他・ケア・傷の倫理学』(晶文社、2024年3月30日初版発行)を、興味深く読みました。利他とケアと傷。この三つの言葉のうち「ケアとは何なのだろう」と考えたくて読みました。それは、物語を上書きすること。踊り疲れた人がそれでも舞台を降りないでいいよう、包摂の物語を紡ぐことだと教わりました。 本書の冒頭で提示されるケアの定義は、「他者が大切にするものを大切にする」というもの。これを出発点に、どこまで遠くまで行けるか、という試みとして読めます。読み進めていくと、定

          ケアとは物語の上書きーミニ読書感想『利他・ケア・傷の倫理学』(近内悠太さん)

          隙間を埋めるスキーマーミニ読書感想『学びとは何か』(今井むつみさん)

          言語心理学者・今井むつみさんの『学びとは何か』(岩波新書、2016年3月18日初版発行)が学びになりました。話題になった『言語の本質』より前に出版されたものですが、物事の習得・熟達はどのように進むのか、「生きた知識」とはどういうものを指すのかといったテーマはこちらの方が深められる気がします。今井言説のキーとなる「スキーマ」の概念も、本書の解説が分かりやすかったです。 ダジャレのようなタイトルにしてしまいましたが、スキーマとは何か?と聞かれればこう答えればいいんだと(自分なり

          隙間を埋めるスキーマーミニ読書感想『学びとは何か』(今井むつみさん)

          改革者でも弱者でもないーミニ読書感想『他者といる技法』(奥村隆さん)

          社会学者・奥村隆さんがもう30年ほど前に書かれたという『他者といる技法』(ちくま学芸文庫、2024年2月10日初版発行)が面白かったです。平易な言葉だけで、社会の複雑さを解きほぐす。複雑さとは、社会はそこに生きる私たちにとって善い面と悪い面の両方を含むこと。「当たり前じゃないか」と思ってしまう結論を、「言われてみればそうだな」という道筋で考えさせてくれる。 社会は複雑である。他者は時に、不気味である。そのことを平易な言葉だけで伝えてくれる本書は、さまざまなモチーフを使う。例

          改革者でも弱者でもないーミニ読書感想『他者といる技法』(奥村隆さん)

          言葉の接地とメンタルモデルーミニ読書感想『ことば、身体、学び』(為末大さん&今井むつみさん)

          為末大さん&今井むつみさんの『ことば、身体、学び』(扶桑社新書、2023年9月1日初版発行)が学びになりました。タイトルの3要素の関係を追求する本。つまり「言葉のメタファーで身体動作がやりやすくなるのはなぜか」「言葉が分かることと、身体動作ができることにつながりはあるのか」といった問いを考える本でした。 メモしておきたいと思ったのは「接地」と「メンタルモデル」という二つの概念。これは、ASD(自閉スペクトラム症)の子を育てる上で、言語発達遅滞やこだわりによる困り事を減らすヒ

          言葉の接地とメンタルモデルーミニ読書感想『ことば、身体、学び』(為末大さん&今井むつみさん)

          2024年4月に読んだ本リスト

          【4月】・『その可能性はすでに考えた』、井上真偽さん、講談社文庫 ・『学ぶことは、とびこえること』、ベル・フックスさん、ちくま学芸文庫 ・『自閉症感覚』、テンプル・グランディンさん、NHK出版 ・『いつかたこぶねになる日』、小津夜景さん、新潮文庫 ・『死にたいって誰かに話したかった』、南綾子さん、双葉文庫 ・『訂正する力』、東浩紀さん、朝日新書 ・『中央線をゆく、大人の町歩き』、鈴木信子さん、河出文庫 ・『世界はラテン語でできている』、ラテン語さん、SB新書 ・『中国行きのス

          2024年4月に読んだ本リスト

          人生がどうしようもなく変わってしまったときにどう生きる?ーミニ読書感想『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』(谷川嘉浩さん)

          哲学者・谷川嘉浩さんの『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』(ちくまプリマー新書、2024年4月10日初版発行)が、学びになりました。衝動とは、自分でもコントロールできない、人生の針路を変えてしまうエネルギーのこと。これは人間内部から起こるモチベーションとは必ずしも一致しなくて、外部からやってくるものでもある。タイトルはポジティブですが、私はこれは、事故やトラブル、予期せぬ人生の転機に「それでも」生きるための手掛かりを教えてくれる本として読みました。 衝動とは何か。著者は

          人生がどうしようもなく変わってしまったときにどう生きる?ーミニ読書感想『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』(谷川嘉浩さん)

          定型発達者に自閉症者の何が分かるのかーミニ読書感想『自閉症の僕が跳びはねる理由』(東田直樹さん)

          重度自閉症で会話が難しいなか、文字盤やパソコンによるコミュニケーション方法で発信を続ける東田直樹さんの『自閉症の僕が跳びはねる理由』(角川文庫、2016年6月25日初版発行)が、衝撃的でした。執筆当時13歳。「話せない」ということで顧みられなかった、内なる心、豊かな言葉。まっすぐに読者に届けてくれています。 私が買ったもので42刷。ASD(自閉スペクトラム症)当事者の本がこれだけ読まれているというのは驚異的だと思います。「なぜおうむ返しをするのですか」「なぜこだわるのですか

          定型発達者に自閉症者の何が分かるのかーミニ読書感想『自閉症の僕が跳びはねる理由』(東田直樹さん)

          すこし不思議でシリアスで不思議―ミニ読書感想『冬に子供が生まれる』(佐藤正午さん)

          佐藤正午さんの最新作『冬に子供が生まれる』(小学館、2024年2月4日初版発行)は、佐藤作品らしさ全開、佐藤作品ど真ん中の物語でした。SFをサイエンス・フィクションではなく「すこし・不思議」の略だと解釈したのは藤子・F・不二雄さんだったか。佐藤作品もまさにすこし・不思議で、かつ、シリアスで不思議(SF)なのが良さだなと思います。 「今年の冬、彼女はおまえの子供を産む」(p5)。 本編の1ページ目、物語はこんなメッセージから始まります。何か変。「今年の冬、彼女が私の子供を産

          すこし不思議でシリアスで不思議―ミニ読書感想『冬に子供が生まれる』(佐藤正午さん)

          孤独につながるーミニ読書感想『つながる読書』(小池陽慈さん)

          予備校で現代文を教える小池陽慈さんが編者となった『つながる読書』(ちくまプリマー新書、2024年3月10日初版発行)が面白かったです。副題は『10代に推したいこの一冊』。小池さんとつながりのある研究者やエッセイストらが、若者に薦める渾身の一冊をプレゼンするという内容です。その熱量は、10代をとうに過ぎたアラフォーにも響きました。 紹介される本は十人十色。だけど、プレゼンターたちには本を愛する気持ちが共通する。本を読むことの魅力とは何か?なぜ私は本を読まずにはいられないのか。

          孤独につながるーミニ読書感想『つながる読書』(小池陽慈さん)

          読みたかったのは私だけではなかったーミニ読書感想『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆さん)

          書評家・三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書、2024年4月22日初版発行)が面白かったです。これほど心に刺さるタイトルもありません。ほんとに、なぜ?なぜ仕事を一生懸命やって、こんなに頑張っているのに、大好きな本を読めないのだろう。本書は、本好きにとって切実な問いに、真摯に向き合ってくれる。悩む私と同じように向き合ってくれるから勇気が湧く。 「そんなの、仕事で疲れるからでしょ?」で世間的に終わらせられそうなテーマ。でも、疲れていても、好きなもの

          読みたかったのは私だけではなかったーミニ読書感想『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆さん)

          手拍子でビートルズーミニ読書感想『実験の民主主義』(宇野重規さん)

          政治思想研究者の宇野重規さんが、『WIRED』や『さよなら未来』で知られる若林恵さんを聞き手に語った『実験の民主主義』(中公新書、2023年10月25日初版発行)が学びになりました。民主主義の在り方やプラグマティズムがテーマですが、自分は療育や障害者のインクルージョン(社会包摂)の観点から読みました。 本書は、立法府中心に捉えられてきた民主主義を、行政のDXを主軸に考え直すことをテーマにしています。選挙で「誰が政治をするか」を選ぶだけではなく、トクヴィルが初期の米国に見たよ

          手拍子でビートルズーミニ読書感想『実験の民主主義』(宇野重規さん)