音の不一致と言葉の不一致、Out of tune.

ピンク・フロイドのウルトラ超傑作 "Dark Side of The Moon" の最後の曲 "Eclipse" (蝕)の最終盤で

Everything under the sun is in tune,
But the sun is eclipsed by the moon.

と歌っている通り、「太陽のもとすべては調和がとれている(でも太陽は月に蝕われちゃうもんねー)」を英語では in tune と表してます。

調子が合う事を in tune と述べていることで、複数の楽器や声の「チューニングが一致する」と現代では表記することが、実は不正確だとわかります。

現在の「チューニングが合う」のは、音叉(主にデジタル)で振動が一致する事を指しますが、これであれば 'at the tune' でないとおかしい。in tune ならば、ある範囲に音高が「収まっている」を示しています。

音叉が製作できるようになったのは、きっと製鉄・加工技術がずいぶん進歩してからのことでありましょう。これはダイキャスト、鋳鉄・いものでは実現できないはずです。均一に等重量で鉄化合物分子を配置できないから。であれば、ドイツであればルール工業地帯に平地なのに地下炭鉱が掘られ(福岡県大牟田市と一緒)、Zeche と呼ばれる高い排気煙突がそびえ立ち、高炉で鉄の融点を大規模に超える生産が行われるようになった18世紀かな?Kruppsとか、ナチス時代にヒトラーが演説で称えた「鉄は国家なり」(ビスマルクですけど)の時代の余り物産物として、音叉が生まれたと推定されます。ボルシア・ドルトムントで香川真司が活躍した土地ですね。

鋳鉄の時代に人類が世界各地で作ったのは口琴、Jewish Harp です。これは通訳界では俺が紛う事なき第一人者プレイヤーで、なぜなら第一級プレイヤーの巻上公一氏に CD3枚という報酬で、西洋世界の第一人者 Anton Bruhin from スイスを一週間通訳し、実習したからです。ザ・ナックの一発のみヒット「マイ・シャローナ」を口琴でプレイして「たま」の知久寿焼さんを一瞬おっ!と表情を変えさせたのが自慢。

今のレベルの音叉の功罪は、「時間と空間を超えて」チューニングを行えるようにしたことです。これは正に at the tune への変質です。In tune という語句は生きているものの、実際には at the tune、特定の周波数への帰属を「調子が合う」として、言葉か、あるいは楽器や声のチューニングの、どちらかを無理に「合ってる」と受容する事態の始まりです。

Slapp Happy のアンソニー・ムーアは俺がケルンに住んでた2000年ごろケルンメディア芸大の学長を務めていたので知り合いましたが、この事態を皮肉バレバレの笑顔で 「音の民主化 Democratisation of sound」と称していました。彼は見抜いていました。

平均律について色んな否定的な意見があり、それぞれごもっともですが、何より鍵盤や弦楽器の音の配置を「2の12乗根×基音からの半音数」という恐るべき自称「等間隔」に定めたことに何よりの本質があります。

いわゆるヨーロッパ古楽のフレット付楽器である、例えばビオラ・ダ・ガンバなどを見ると、ぜっーたい「2の12乗根」なんて実現されてませんってば!もっと緩い、in tune なことが聴かずとも見ればわかります。ある範囲に収まっている。

ルー・リードの後年の傑作 "Perfect Night In London" でルーが、むちゃくちゃ響きの良いギターを入手して、人前でライブやる気満々になったことを "How that guitar sounds!" と自筆ライナーノーツで熱い筆を滑らせていました。よく楽器が鳴り響く事態に、at the tune は一切介在していません。ソリッドギターの木とネックとフレット調整と弦が in tune したという稀有な悦びです。

だから自称西洋クラシカルミュージックの線の細さと儚さを愛でることに対する自覚があれば、それはそれとして楽しいのです。が、が。

文楽の太い・細い毛筆の譜面や、口伝の能楽の地謡や、神社の神楽のダンスのビートを中心に据えたバンドや、これら全部ケルン日本文化会館にいた2年半にスパルタ教育で仕込まれた芸能です。すべてニッポンは美しい。ペイトリオティズム。ニッポン・ソウル!

えーと。だから、もっと言葉を厳密に聴きませんか、良かったら。音は、ある程度、聴覚を緩めて、非厳密に。よろしくお願いします。

で、ピーター・バラカン氏が逆輸入的に紹介した伊達英夫 Hideo Date は A=432Hz といういささか珍奇な at the tune なプレイヤーで、すると各音が in tune すると主張しプレイしています。中野のブルースバーで美しい Little Wing by Jimi Hendrix を聴きました。コロナ連続演奏投稿でハンコックの "Watermelon Man" をやったらハンコック自身から「いいね!」を押されたと喜ぶ素敵な方です。

音楽を愛しましょう。耳を緩めましょう。できれば俺とご一緒に。

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