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「看板の人にも人生がある」2024年5月20日の日記

いつも通り、彼は通勤電車に乗り遅れまいと急いでいた。だが、体がふらついて足元がもつれてしまった。そして、扉に左足を挟まれて転倒した。

痛む膝を押さえながら、なんとか立ち上がった。周囲の乗客たちが一斉に視線を向ける。彼は恥ずかしさを堪えつつも軽く会釈し、目を泳がせながら作り笑いを浮かべ、電車の中へと身を滑り込ませた。座席に腰を下ろすと、彼は深いため息をつき、今日の出来事を思い返した。

今日もまた、クライアントとのプレゼンテーションが長引き、上司からは回りくどい嫌味で能力不足を指摘される。新しいキャンペーンのアイデアがなかなか通らず、納期は刻々と近づき、ストレスは溜まる一方だった。

スマートフォンを取り出し、Twitterを開いた。タイムラインには友人たちの楽しそうな投稿が溢れている。大学時代の友人は今、ニューヨークで日本茶のスタートアップを立ち上げたらしい。彼の投稿にはチームメンバーとの楽しそうな写真が並んでいた。

やがて中野駅に到着した。彼は重い足取りで駅の階段を上り、家路についた。途中、いつものように駅前のローソンに立ち寄り、夕食を買い込んだ。今日は冷凍の餃子と、ビール、それにカップラーメン。

アパートに帰り着くと、そのままソファに倒れ込んだ。テレビを点けると終わりかけのクイズ番組が映った。高速で流れていくスタッフロールを眺めながら冷凍餃子を電子レンジに入れ、その間にシャワーで汗を流した。

キッチンに戻ってビールの缶を開けた。冷えた液体が喉を潤す。「こんな毎日でいいのか?」心の中で呟いた。冷凍餃子とカップラーメンを食べながら、彼は先ほどの失敗をまた思い返していた。

食事が終わると、彼はスマートフォンで音楽を流し始めた。Spotifyでお気に入りのプレイリストを再生し、目を閉じる。フジファブリックの「若者のすべて」。そのメロディが彼の心に染み渡る。

音楽に身を任せながら、次第に眠気に襲われる。夢心地の中で浮かぶのは駅での醜態だ。なぜか、扉に挟まれる自分を斜め上から客観的に眺めている自分が見える。そして作り笑いを浮かべた自分自身と視線が合い、彼は思わず目をそらした。やがて、静かな眠りが彼を包んでいった。

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