その夜、僕はふと思い立って家を抜け出した。 深い夜が滲む路地はしんと静まり返り、僕の足音以外は何も聞こえない。 宛てのない夜の散歩のお供は、温かいミルクティーを注いだマグカップ。こんなものを持って夜中に歩くのは……いや、夜でなくとも十分に不審だが、草木も眠る時刻に僕の散歩姿を目にする人などいやしないから、気にする事などない。 人の気配のない住宅街を歩いていく合間に、湯気を立てるミルクティーに口を付けた。淹れ立てだった紅茶は存外に熱くて、思わず舌を火傷しそうになる。け
少女は廃墟となった街を見渡して、息を吐いた。 吹き荒ぶ西風は砂塵を巻き上げ、無人の街を少しずつ灰色の世界へと変えてゆく。 視線の先にある崩れた煉瓦からのぞくのは、足の無い椅子。 真二つに割れたテーブル、綿が抜け落ちたぬいぐるみ。 積み上がった瓦礫も、昔はこの街を日常を紡ぐ物の一部だったのだろう。 不意に強い風が傍を吹き抜け、カラカラと何かが回るような乾いた音が耳に届く。 音のする方に顔を向けた少女は、壊れた糸車が路地にぽつりと佇む光景を目にする。巻く糸もないま