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日本フィルコンサートマスター田野倉雅秋さんへのインタビュー(特級レポ2023)

こんにちは。もちです。

熱気あふれる特級ファイナルから約1ヶ月が経ちましたね。私はまだまだアーカイブを楽しんでいます。

実はファイナル終演直後、日本フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターを務める田野倉雅秋さんへのインタビューを行いました。
Tomoko Moriyamaさんともちの2人で、貴重なお話をたくさん伺うことができたのでその様子をお届けします。


素晴らしい演奏ありがとうございました。
今回のコンクールにあたって、普段のコンサートとの表現の違いがあれば教えていただきたいです。

 そういうのは全くないですね。よく弾くコンチェルトですし普段通り。ソリストの表現に感化されて、刺激を受けて、この人にはこういう感じのやり取りの仕方だといいのかなって、しょっちゅう試行錯誤があるという感じでね。その人に寄り添うだけではなくて、オケの音楽作りもあるから、その醍醐味みたいなのが伝わればと思っていますね。


ソリストそれぞれの表現があるっていうことだったんですけれども、今回のファイナリスト4人で特に印象的だった表現はありますか?

 それぞれ皆さん違うけれど、昨日の練習、それから今日の本番直前のゲネプロ、そして本番っていう感じでもうバババってこう皆さん本当に右肩上がりで化けるって言ったらいいんですかね。若い演奏家ならではのパワーと集中力と向上心と、1回の演奏会にかける気持ち、気迫があったので、その完成していく様は皆さんそれぞれ素晴らしくて。
 それぞれ好きな曲を選んでいると思いますが、それぞれのキャラクターが出ていましたね。ラフマニノフ、ベートーヴェン、サン=サーンスをそれぞれ得意と思ってやっている部分があるんじゃないかなと。そこを楽しんでやっていました。



4人のコンテスタントのそれぞれのイメージは、なんとなく練習や本番で掴むことができたのでしょうか?

 そうですね。それぞれの曲に合わせた音作り、音楽作り、それからハーモニーの持っていき方が、演奏者それぞれにある。だからいろいろなことに気を配って聴いているんです。例えば、そのハーモニーの流れだと横の流れとして変換されるなとか、この人はここではオーケストラに耳を傾けててその部分が終わったらぐっと推進力を持って引っ張っていくなとか、この人は割と自分の確固たるものが強そうだからそれをうまく生かすようなサポートができないかなとか。それから細かいニュアンスでいえば、これはどのぐらいの息遣いでいくのかなということも考えています。
 そして、それがその時だけの表現なのか、もしくは練ってきてこうしてみようと思って完成させているのか、そこを瞬時に判断するんですよね。時々楽譜にマークして、でも2回目やってみたらやっぱり違うのかなって消したりということも時々あります。
 僕らは本当最後の2日間しか会えない。でも、皆さんは何ヶ月も何年もかけて作り上げている。その結果が今日の最後の瞬間に出てくるわけだから、気持ちの熱さに負けないようにっていうのかな。それに応えられるものをちゃんと提示しようと思って、こちらも一生懸命ぐっとこうヴォルテージをあげてやっています。


すごく細かいところまで考えられているんですね。

 そうそうそう。特に自分の席はソリストに1番近いので手も見える。いろんな対策が取れるんですよね。例えば、実はその人の演奏にはもうちょっと細かい拍感とかリズムの揺らぎみたいなものがあるんだけど、メロディーがバーって聴こえてそこ耳が行っちゃうとそれを理解するのがなかなか難しい時に、ちょっと左を聞かなきゃいけないとか。そのやり方を何とか聴くんですよ。


演奏を聴いていてソリストの皆さんが盛り上がるのと同時に、 オーケストラも盛り上がっていくのがすごく感じられて。 それはそういった細かい部分を共有することで生まれるものなのでしょうか。

演奏中だけは一心同体。その人に乗り移るじゃないけど、仲良く一緒に音楽を作るというね。色んなキャラクターがそれぞれいますから、なるべくそれぞれに合わせていく。でも、こちらも色んな人とまた別の機会でこの同じ曲をやってきているので、過去に感動した弾き方とか音色とか、間の取り方とか、いろんなものがパッと蘇ってくる。そういうのをスーッと出した時に、今度はピアノストがそれにどう反応してくれるのかなとかというのもあります。完全にこう伴奏ですみたいな伴奏にならないで、一緒に音楽を作るバンドというものができるかどうかを気にしながらやっていますね。




すごく対話的なものがあるということですか。

そうですね。でも皆さんどこかでコンチェルトをたくさんやってるっていうわけじゃなくて、 この曲をオケとやるのは初めてですとか、オケとやること自体が初めてですとか、本当に初々しいところで。1000時間の練習に値するぐらい1回の本番って貴重だってよく言うんです。皆さんポテンシャルのある方々だからこれをきっかけに成長していくだろうし、この先また縁があれば共演できたら。もしかしたらあっという間に手の届かないとこまで行っちゃうかもしれない。そうしたらいつかまた戻ってきてよっていう嬉しい悲鳴が出せれば、またそれはそれで幸せだなという、夢をもらいながらやりました。



ピアニストを育てるというピティナらしい部分と繋がりますね。

 特化してね。本当に歴史も長い。ピアノって本当に音楽を奏でる場がたくさんあって、コンチェルトはその1つだと思うんです。こうやってコンクールの本選を勝ち残った人が最後に弾くことができるものであるからこそ、ここに色んな夢を持ってみんなが頑張ってる姿も美しいなと思います。それを先生方が必死にサポートして、一緒に夢を持ってやっているんじゃないかなと思う。
 音楽の現場は色々なご縁があるから、また別の演奏の現場で会えればあの時一緒に弾いたねって話ができる。自分も同じような経験もしてきているんですよね。本当にずいぶん若い時にこういう風に僕もオーケストラとコンクールなんかで弾いて、あの時君の伴奏したんだよって言う人と再会する。そんな人が今同僚になっている、そういうことも僕の場合弦楽器だからあるんです。そうやってまた再会を楽しみにしたいなと思いますね。



インタビューを終えて

インタビュー全体を通して、ピアニストの卵としてではなく、1人のピアニストとしてコンテスタントの皆さんのことをみて、プロのピアニストとコンチェルトをやる時と同じように音楽を作り上げているのかなと感じました。特に未来に繋がる話では、田野倉さん自身のお話からクラシックの世界のご縁に夢を感じつつ、皆さんの未来を勝手に想像しなんだかとてもワクワクした気持ちになりました。私自身もいつかまたコンテスタントのみなさんの演奏会に関わらせていただけるような機会があったら嬉しいなとも思いました。

田野倉さん、貴重なお話を本当にありがとうございました。


写真提供:ピティナ(撮影:石田宗一郎)、柚子と蜜柑



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