※この物語は、Bump of Chickenが2004年にリリースした楽曲 「夢の飼い主」をClarkが小説化したものです。 1. 彼女との出逢い 僕はよく覚えている。まだ夏の匂いの残る中、秋の気配が感じられる夕方だった。 スースー なぜかその日はセミが一匹も鳴いてなくて、僕の呼吸の音だけが、草むらに響いていた。 ザッザッ 彼女の足音が聞こえてきた。なぜかは分からないけど、足音を聞いただけで、「彼女だ」って気づいた。僕はその頃、とても小さかったから、彼女は最初、僕の存在
YouTubeのホーム画面には不意に懐かしい動画がオススメされる。 BUMP OF CHICKENの「魔法の料理 〜君から君へ〜」 え、13年前?リリース時、NHK「みんなのうた」で流れていた。 数年前だと思っていたら、 あれから、もう13年も経っているとは。 そんな語り出しから、情景を全て伝えてくれる。 子どもの頃、どんなに叱られても、 温かいご飯を出されて。帰る場所があった。 子どもの頃に抱いた夢。 始めは期待しか無かった未来も、いつしか不安が増えていく。 私は、
少し弱々しくなってきた夕日が、誰も頼んでいないのに、夏の終わりを教えてくる。 私は、いつもの河原で、いつもの曲を聴いていた。 ちょうど一年くらい前、2人だけの夕映えの中、彼が教えてくれた曲。 いつでも私に、小さな幸せを思い出させてくれる曲。 私は、久しぶりに、望遠レンズの付いたカメラを鞄から取り出した。 カメラに入った写真を見返すと、始めの頃は、少し見切れた彼の姿ばかりだった。 ピントも合わず、ぼやけた写真も多い。 一眼レフなんて、使ったことが無かったから、仕方ない。 「
僕は、モノクロの日々を送っていた。 白いYシャツに袖を通し、通勤ラッシュを避けるために朝早い電車に乗る。駅に着くと、華やかな街とは反対側へ歩く。そこから少し坂を上ったところに僕の職場がある。 朝の図書館は、静けさと古びた本の匂いに包まれている。自分のデスクに着くと、僕はまず、コーヒーを入れる。そして、少しの間、独り占めした図書館の中をゆっくり歩く。 僕の職場は、一般的な図書館ではなく、歴史関連の書物を扱う専門図書館だ。並んだ本の表紙は、黒か茶色、あとは深緑。訪れる人たち
言わずと知れた詩人、谷川俊太郎さん。 小学生の時に教科書で初めて谷川さんの詩を読んで、歌うように言葉を紡ぐ、そのセンスに驚いたのを覚えている。 谷川さんが2019年に発表した絵本 「へいわとせんそう」 左右のページにシンプルなイラストと文字が書かれている。 絵本の左右のページに、さまざまな「へいわ」と「せんそう」が並ぶ。 まったく違う状況が続く中、まったく同じ「あかちゃん」の様子。 一度、この絵本を読んだときは、「あかちゃんだけが同じなんだ」と思った。 でも
私は実家に帰ると、いつもすぐに祖母の手を握った。 祖母の手のひらは硬いけれど、芯が温かくて、人生の厚みを感じた。 祖母は、長崎の田舎で、私の母と暮らしている。 女手一つで母を育てるために、身体が動く間は、みかんを栽培していた。 母はみかん畑を手伝っていたが、随分前に介護の仕事に就き、 後継ぎがいなくなった畑は、今ではすっかり荒れている。 でも、坂の多い畑で、直射日光を浴びながら種をまき、たくさんの美味しいみかんを作ってきた。 そんな祖母の手は、今でも少し誇らしげに、日に焼
家に帰ると、私は世界で最高に美味しいお酒を飲ませてもらった。 先日、私が担任をした高校3年生が卒業したからだ。 受け持った生徒全員を無事卒業させることができると、 肩の荷が下りた気がして、ほっとする。 1人の高校教師が生徒に与えられる影響なんて、謙遜でもなく、本当に小さなことだと思う。 でも、生徒たちは、子どもの頃から多くの大人に支えられて成長してきた。 幼稚園、小学校、中学校。 そして、高校という社会に出ていく直前のタイミングで、 そのバトンを私の番で落とすわけにはいか
「夜に駆ける」や、「群青」など キャッチーなメロディーや、伸びやかなボーカルを聴いて、彼らの音楽に興味はあるけど、原作小説は読んだことがない。という人は多いのでは? 「小説を音楽にする」というコンセプトで音楽を作るYOASOBI。 多くの曲は、無料で公開されている小説が原作になっています。クリックすればすぐに読めるのです。 ・・・とはいえ、「どの小説から読めばいいか分からない」、という方のために、フローチャートをパワポで作ってみました。 上段が曲のタイトル。 下段が原
なんで、わざわざ、この日を選んだの それが、私が思ったことだった。 「3月9日にしたから」と姉のひかりが、ぶっきらぼうに私に伝えてきたのは半年前。 身内だけの小規模な結婚式なんだから、他の日だって選べただろうに。 3月9日は、私の高校の卒業式の日だった。 「えー、このクラスは本当に良いクラスだったと…」 担任の水嶋が最後のHRで言葉に詰まった時、涙をすする音が教室にこだました。私もこのクラスは嫌いだったわけではない。でも、午後の結婚式のことで頭がいっぱいだった。
こんなエピソードがあります。 これを読んで、何か違和感がありましたか? 「父親は事故で既に亡くなっていたはずなのに…」 と思いませんでしたか? これは、有名なエピソードで、 医師は女性で、事故に遭った子の母親だった、ということなのです。 「脳外科の権威として世界的に有名な医師」と聞いて「男性医師」と思い込んでしまう人も多いのではないでしょうか。 無意識に我々が持っている偏見のことを、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)と呼ぶそうです。 「男のくせに」「女っぽい性
※この物語は、Mr. Childrenが2000年にリリースした楽曲「口笛」をClarkが小説化したものです。歌詞の一部を物語の中で引用させてもらっています。 僕はその頃、いつも自由帳を持ち歩いていた。 九州の片田舎。 外界への逃げ道を閉ざすかのような高い山々に囲まれた盆地に、僕は住んでいた。 彼女が転校してきたのは6年生の秋だった。 東京から転校生がやってくる。そんな噂は、田舎の小学生にとっては、世界中で何よりも大きなニュースだった。 彼女が実際に教室にやってくると、
日々、成長を続けていくためにはどうしたらよいか。 「インプットを多くする」 つまり、より多くの新しい知識を身につけていくべきだ というのは、多くの方が賛同されることだと思います。 しかし、限られた時間の中で、どうやって情報を得ればよいか。 最近は、amazonで本を買う時、YouTubeで動画を見る時でも、「あなたへのおすすめ」がたくさん出てきます。つまり、自分がコンテンツを選んでいるつもりでも、実際には、既に自分の興味に合ったテーマに絞られてしまっています。 そのため、
※物語「夢の飼い主」のエピローグとなっています。未読の方は、まずはそちらからお読みください。 6. 彼女への手紙 遠くから、今でも、ぼんやりと彼女のことを見て過ごしている。 地球からこの星に帰ってきて、どれくらい時間が経ったのだろう。 地球で過ごした彼女との日々は、僕にとっての宝物だ。 彼女と一緒にいるだけで、僕の名前を呼んでくれるだけで、とても幸せだった。 僕が突然いなくなって、まだ幼かった彼女は、一生分使い果たすぐらいの涙で悲しんでくれた。 そんな彼女は、もう大人に
はじめての〇〇自分がお題を与えられたとしたら、〇〇に何を入れるだろう? 小説を音楽にするユニット、YOASOBI。 「夜を駆ける」を始めとして、これまでは、オンライン上で誰もが手軽に読める小説などを原作としてきた。今回は、「はじめての〇〇」をテーマに、直木賞作家4名が書き下ろした小説を楽曲化するという初めての大型プロジェクト。 本日(2022年2月16日)に、楽曲「ミスター」配信開始。同日に単行本「はじめての」発売。 ということで、kindleで早速、単行本を購入させても
飛行機は苦手だ。 狭い機内で何時間も過ごさなければいけない。機内のスクリーンには、「シャルル・ド・ゴール空港まであと12時間です」と表示されている。 「シートベルトは腰の低い位置でしっかりとお締めください」 離陸の機内アナウンスに従って、シートベルトを締める。 パリでのスケジュールを考えると、憂鬱な気分になりそうだったので、「撮影が終わったら、何を食べようか」と、できるだけ楽しいことを想像しながら時間をやり過ごそう、と思った。でも、思い出されるのは楽しいことばかりじゃない。
「泣くな」「弱みを見せるな」父はいつも厳しかった。 「常に気高く、強くあれ」俺はそんなことを言う父に憧れていた。 でも俺が大人になって、群れから離れると、 父の言っていたことがいかに難しいかを実感した。 大人になったライオンは、自分の子孫を残すために 生まれ育った群れを離れて、旅に出る。 他の群れを見つけてリーダーの雄ライオンを襲い、乗っ取らなければいけない。 それができなければ、独りだけで生きていくことになる。 人間たちには「百獣の王」だと、もてはやされるが、 広いサ