[ショートショート] Note~約束の村~ -終りははじまり - #春弦サビ小説
小説のサビ部分。つまり盛り上がるところだけを抜き出して書く試みです。
唐突にいろいろ出てきますが、物語の前後を妄想しながら読んでいただければ幸いです。
Note~約束の村~ -終りははじまり -
わかっている。
友達なんていらない。仲良しごっこはうんざりだ。
下を向いて廊下を歩いていたら誰かとぶつかった。
ぶつかってしまった拍子に落としてしまった教科書とノートを拾いながら、マヤはこの世の不毛を嘆いた。
だからぶつかったのが葉山シンだったことにも気が付いていなかった。
急いで教科書を拾って「すみません」と小さな声で言い、チラッと相手の顔を見て、ようやくマヤは相手が葉山シンであると認識した。
「大丈夫?」
葉山シンが言った。この世の真実を何も知らない間の抜けたガキだ。
マヤが最も苦手としている人間。陽キャ代表みたいな男。
「クソが…」
マヤは小さな声でつぶやくと、全速力でその場から逃げ出した。
脇目も振らずに昇降口まで走って靴を履き替えていると、唐突に肩を掴まれ無理やり振り向かされた。
見ると隣のクラスの山田リツだった。でた…脳筋女。
「ちょっと、」
山田リツは怒っているようだった。
「さっき見てたんだけど、葉山に対してあれは無いんじゃない?」
…まただ。面倒な女。
「あんたに関係ないでしょ、ストーカーですか?」
肩に置かれた山田リツの手を払いのけながら、マヤは目を逸らして小さな声で言った。
急に恐ろしくなってマヤは走り出した。
…クソが、クソが、クソが!
せっかくの金曜日が台無しだ。
家に帰ると自分の部屋に直行しドアの鍵をかけた。
クローゼットをあける。そこに変わらず古ぼけたノートがあることを確認しほっとした。
ノートをそっと開く。そのまま引きずり込まれてマヤはたちまちあちらの世界に到着した。
小高い丘の上にこちらの世界での自宅が見える。
これから月曜の朝までぶっ通しで進行中の第二章を一気に書き上げる予定だった。
物語は佳境に入っていた。
主人公のナオヤが初めてルームメイトに自分の気持ちを伝えることろだ。
マヤは早く自分の執筆机に向かいたくて足を速めた。
すると、どこからともなく、美しい歌声が聞こえて来た。
前方の切り株の上に座って、ギターを弾きながら歌っている人がいた。
何となく見覚えがある…とよく見たらそれは山田リツだった。
心臓がドクンとなるのが聞こえた。
…なぜ彼女がここに?
ここはマヤだけの場所だったのに。
向こうもマヤに気が付くとギョッとして演奏を止め、立ち上がった。
二人はお互いを珍しい生き物にでも遭遇したかのような表情で見つめ合った。
「なんであんたがここにいるの?」
「それはこっちの台詞」
険悪な雰囲気になった。
マヤはできるだけ平静を装って、こちらの世界でまで山田リツに関わりたくないと強く思い、無言でその場を立ち去ろうとした。
するとあろうことか山田リツに腕を掴まれてしまった。
「どこにいくの?」
「どこって自分の家」
言いながらマヤが丘の上の家を指さすと、山田リツは怒ったような表示になった。
「何を言っているの? あそこは私の家なんだけど」
山田リツの虚言には付き合っていられなかったので、マヤは沸き立つ怒りを抑えつつ、歩みを再開した。
山田リツはぶつくさいいながらついて来たが、マヤにはもうどうでもよかった。
とにかく、早く物語の続きを書きたかった。
家に到着してドアをあけると、またしてもそこに人物が立っていた。
葉山シンだった。
マヤは驚いたものの、何となくどこかで予想していたことだった。
「葉山? 何でここにるの?」
と山田リツが言った。
「何でって、ここ俺の家だけど」
三人は顔を見合わせた。
マヤは恐ろしくなって自分の執筆部屋に向かおうとした。
そこを葉山シンに呼び止められた。
「…あの、“邂逅と決別” を書いているのって君だったの?」
小説のタイトルを葉山シンが言ったので私は動揺した。
「あ、別に盗み読むつもりはなかったんだけど、たまたま…」
そして彼はスケッチブックを取り出し描かれているものを見せて来た。
そこには主人公たちのイメージにだいぶ近い二人がもつれ合っているイラストが描かれていた。
「え、これ葉山が描いたの? うま」
山田リツが身を乗り出してイラスト見ながら言った。
「うん…俺、小説のファンになちゃってさ…ファンアートを描いたんだ」
葉山シンが照れ臭そうに言った。
マヤは今の感情をどう処理していいのかわからなくなり、「か、勝手に描かないでよ」と言い捨てて執筆室に逃げ込んでしまった。
ドキドキしていた。自分が書いたものが誰かに読んでもらえるとは夢にも思っていなかったのだ。
何もかも、とにかく忘れて今は物語の続きを書きたかった。
原稿用紙に向かっていると、リビングの方からギターの音色が聞こえて来た。
それにあわせて美しい歌声も。
山田リツのものだった。
脳筋のくせにあんなに歌は美しい…。
マヤはペンを置くと、リビングの方へ行った。
そして影からひょっこり顔を出すとこう言った。
「ナオヤは黒髪…あと、…そのありがとう」
(つづく…のかな?)
すみません。文字数倍ってます。
どんどん増えるとということはないようにします。
▽ 読んだ後にぜひお聞きください。
このお話の元ネタです。
エレクトロアレンジしてみました。
『Note - 約束の村 - Electro remix』
作詞・作曲 : Sen-sing
編曲 : みすてぃ・大橋ちよ
歌 : 詠音サク(ボカロUTAU音源)・大橋ちよ
あとがき的な
Sen-singさん作詞・作曲の曲から着想を得て物語を書きました。
いろいろなものを作る人が集まって来て何かやってる…というイメージの歌ですので、こんな感じのお話になりました?
こちらの詩は最初に私は朗読をさせていただきました。
その次はつるさんが楽曲にされました。
これは異なる世界線。
その後、Sen-singさん作詞・作曲でみすてぃさんが編曲された曲を公開しました。
後日コードも公開されました。
歌ってほしい! ということで、せっかくなのでまるっきりニューなアレンジに挑戦してみました。
だって、みすてぃさんのアレンジが完結されているものでしたので、そこから発展するのがむずかしったんですもの!
詠音サクちゃんの声に触発されてまたまたエレクトロサウンドになりました。
このアレンジをやりながら、同時に物語も考えていたのですが、何となく、これまでつまらない人…と思っていた相手が実は面白い人で、自分と同様いろいろ創作していることを知る…と言う話を思いつきました。
ジャンル的にはファンタジーチックにしました。
これを全て現実的な中でやってもちょっと物足りないかもとか思って。
結果、千文字で収まらず、二千文字になりました。
本当はもうちょっと学校での三人の関係を書きたかった…。
すみません…💦
物語に出てくる三人以外にもそっちの世界に来る人はきっと他にも出現するのだろうな…とか考えながら…。
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