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「名取さなミュージックコレクション Vol.3」感想

昨日、個人勢VTuber名取さなさんのライブ「さなのばくたん。 -ハロー・マイ・バースデイ-」を観てきた。お土産としてCDアルバム「名取さなミュージックコレクション Vol.3」を購入してひと通り聴き込んだ。CDアルバムをひとつの作品として聴いたことはあまりなかったのだが、昨年ピーナッツくんのアルバムを通しで聴き、このような鑑賞方法の面白さを知った。

「名取さなミュージックコレクション Vol.3」は、「名取さな」というアイデンティティを巡る楽曲となっており、「さなのばくたん。 -ハロー・マイ・バースデイ-」を踏まえて冷静に聴いてみると、5年に及ぶ活動の中で醸造された光と闇、そして葛藤が凝縮された内容であった。そこで感想を書いていく。なお、CDには「さなのばくたん。 -ハロー・マイ・バースデイ-」のネタバレがあると書かれている。そのため、公演を観ていない方は、アーカイブで鑑賞されてから読むことを強く推奨する。

アーカイブチケットは3/31(金)まで発売されているとのこと。

1.パラレルサーチライト

★作詞・作曲・編曲:いよわ

ボカロPとして知られる、いよわさん作詞・作曲・編曲の本作は、VTuberとしての可能性を爽快に描いている。ナースから学生、そして王様と様々な「ないたい自分」になれることに対する可能性。可能性自体は「非現実」であるが、サーチライトを照らして突き進むことで、それが「現実」になる。

あのね さまよってすりむいてもがいたってはちゃめちゃ

暗中模索する「現実」に対してこのように赤裸々に語った上で、誰かに「ありがとうの印」が伝わる、想いが伝わる。背伸びした可能性(=非現実)が「現実」になる。それは自分が無限大の可能性を秘めていると歌う。現実の壁にぶち当たっている者に強烈に刺さる曲でありながら、「名取さな」の変遷がフラッシュバックしていく作品でもあるだろう。

旋律に注目すると、イントロが興味深い。駆け足の軽やかなステップを表現しつつも、そこに隠し味として不協和音を乗せる。これはパラレルワールドとして、異なる世界線の自分が重ね合わさる時のノイズを再現しているといえよう。

2.ゆびきりをつたえて

★作曲・編曲:bermei.inazawa
★作詞:nkLocal(エーテルグラム)

「さなのばくたん。 -ハロー・マイ・バースデイ-」のラストを飾る衝撃的で感傷的なこの楽曲は、『パラレルサーチライト』が光だとすれば、闇の側面を描いた作品が『ゆびきりをつたえて』である。

個人勢VTuberは自由だ。ゲームをしたり、歌ったりできるし、企業勢とは異なり「数字」を気にする必要もない。でも活動をしていると焦燥感が生まれる。

誰も怒ってないのに
このまんまじゃ駄目な気がして
言葉を飲んでは
息を吐き出して

配信者としての「名取さな」が抱える葛藤を汲み取る作詞。これは人生に迷える者にとって涙なくして聴くことのできない力強く編まれた言葉だろう。自由だからあれこれやってみるが、身の丈に合わず空回りする。

その苦悩の果てで少しずつ「忘れられない欲しかった未来」の本質を汲み取っていく。その積み重ねが『なれるはずもない夢』(=非現実)を「現実」のものへと手繰り寄せていく。

血の滲むような轍を聴く者へと赤裸々に開示していく。

いつもは爆笑テクニカルトークとダジャレで明るく振る舞う彼女の深部へと導く楽曲に涙しながら聴いていた。

どこか、旋律がMOTHER 2の終盤の感傷的な楽曲に見えるところもポイントであり、彼女の壮絶でコミカルながらも回を重ねるとしっとりした雰囲気になっていくゲーム配信の状況を再現したような感触があった。リアルタイムで視聴していた私に刺さる楽曲である。

3.モンダイナイトリッパー!(Mitsukiyo Remix)

ゲーム『ブルーアーカイブ』の大ファンであり、隙あればキャラクターのモノマネをする名取さなさんが、ミツキヨさんに依頼して実現したRemix。『ブルーアーカイブ』には疎いのだが、MAD動画で起用される「タンタンタン」といった踏み締めるようなビートが強調されたRemixになっていた。

MVの方は、インターネットを通じて異なる次元を飛び回れる様子を爆速で駆け抜けるように描いていたが、今回のRemixでは緩急をつけることで、異なる次元を味わうような質感を持っており、活動5年目を迎えて腰を据えてじっくり企画を実現していこうとする彼女の側面が見えるような気がした。

4.アマカミサマ(kamome sano Remix)

クラブやライブで聴くとあがるタイプのRemix。特に「名取さな」の歌をサンプリングして音ハメを始めながら音楽を盛り上げていく展開のお茶目さとテクニックの絶妙なバランスに心掴まれた。元のMVは学生の夏感を感じさせる清涼感のある楽曲になっていたが、今回はキラキラ感を抑えて、大人な雰囲気を醸し出している。

ライナーノーツを読むと、配信の時のお喋りが挿入されているとのことだが、流石にミーハーなので分からなかった。多分、有識者せんせえは一発でわかるんであろう。

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