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【Destination】第43話 異変


「人は空を飛べない」

その常識を変えたい、絶対にできると信じ抜いたからこそ、人は飛行機をつくることに成功し常識を覆した。

新しい世界を切り開いてきた者、自分の人生を大きく変えてきた者たちは、自らがもつ常識、他人の常識外のものに可能性を感じ、それを信じて行動してきた。

常識の範囲内で行動したとしても、結果は常識の範囲内のものしか生まれない。

「女性は腕力で男性に勝てない」

ルカの強さは、その常識を軽く打ち破るもの。賊や一般人が考えることわりの遥か外側にあった。

常人離れした身体能力と反射神経で襲いくる男たちの攻撃をことごとくかわし、窮地に立たされても、揺らぐことのない冷静さをあわせもつ。

他人の命をゴミ同然と考え、遊びの一環として人を殺害してきた連続殺人犯の男を赤子あつかい。

自分よりも体が大きく、ケンカ慣れした男性6人と同時に戦っても無傷で勝利。

刃物をつかおうと、どんな戦法をとって襲いかかろうと、ルカの前ではまったくの無意味。

ルカは拳を振り抜く際、ほとんど力を込めずに攻撃していた。イタズラした子供をしつけるように、ケガをさせない程度にやさしく。

それでも拳をくらった男たちは、その衝撃に耐えられず一撃で意識を失っていく。男女の力の差をものともしない圧倒的な強さ。

ルカが男たちを薙ぎ倒していくさまは、まわりを飛びかう小さな害虫を振り払っているだけのようであった。



「ありがとう、おねえちゃん!助けてくれて」

「………………」

「おかげでボクたちは自由になれました」

「このご恩は絶対に忘れません。たくさん勉強して、大人になったら必ず恩返ししたいと思います」

「いらないよ」

「べつに恩を売りたくて助けたんじゃない。村の連中と約束したから、仕方がなかったんだ」

「それに、あんたが大人になるころには、アタシはもうこの世にいない」

「自分の将来だけ考えて勉強しな。アタシのことなんかどうだっていい」

「この世にいない……?どういうことだろ」

「こんなに強いなら、人に殺されるはずはないのに。怨魔に襲われるかもって意味?」

「それとも年齢……?若く見えるけど、じつは80歳くらいだったりして……。さすがに失礼だから歳は聞けないけど……」

「礼を言ってるヒマがあるなら、ラハマの村に戻りな。あんたたちはあの村に住んでたガキなんだろ?」

「嫌です!いくらおねえちゃんの言うことでも、それは聞けません!」

「ボクたちはナンハンの村に行きたい!そのために村を出たんですから」

「バカがッ!まったく状況がわかってないみたいだね」

「あんたたちは自由になんかなっちゃいない。安心するのはまだ早いんだよ!!」

「東に向かうにしたって、今行ったら、またあいつらに襲われる!次に見つかったら殺されるぞ。それくらい理解できるだろ?」

「じゃあ……、ボクたちはどうすれば……。ここから動けないんですか……」

「もう少し待ちな!」

「アジトに逃げ帰っていったモヒカン野郎は、必ずアタシのことをリーダーに報告する」

「そうなればターゲットはアタシッ!血眼ちまなこになって探すだろう」

「ヤツらがやられたまま引き下がるとは思えない」

「おねえちゃんは、村とボクたちを守るために自分を標的にしたんだ」

「倒そうと思えば倒せたのに、モヒカン男を逃がしたのはそのため……。リーダーに報告させるためにワザと逃がした」

「アタシが姿を消さなければ、ヒュドラ軍が村に行くことは、まずあり得ない」

「後ろで倒れてるアホどもも、2時間くらいで目を覚ます。顔面を骨折してるから、激痛で悪さなんかできないだろうけど」

「とにかく、ここにいるのも東に向かうのも危険。あんたたちは村に戻って身を隠すのが一番安全なんだよ」

「でも、ボクたちは村に戻るとして、おねえちゃんはどうするの?ここで、あいつらが来るのを待つつもり?」

「アタシはヤツらのアジトへ行く」

「そんな……。ダメだよ!」

「アジトには50人くらい賊がいるんだ」

「おねえちゃんがいくら強くたって、ひとりで50人も相手にできない。それに、まだ幹部がふたりとリーダーが残ってるし」

「ガタガタぬかすな。余計な心配はしなくていい」

「ヒュドラ軍はアタシがつぶす」

「本気……?本気で言ってるの?怖くないの……。もし負けたら、なにをされるかわからないよ」

「自分より弱いヤツらが相手なんだ。ビビる必要なんかないだろ?アタシは絶対に負けない」

「……………」

「ユリって女が村に戻ったら、軍が壊滅した合図。あんたたちが自由になった証だ」

「ナンハンに行くのは、そのあとの話で今じゃない」

「わかったら、いったん村に帰れ」

ルカは冷たい口調でそう告げると、ふたりの顔を見ることもなく東に向けて歩き始めた。

「あっ、あの……、またお会いできますか?」

「もし、よかったら、お名前だけでも教えてくれませんか……?」

「消えな……」

「えッ!?」

「聞こえなかったのか……。殺されたくなかったら早く消えろ……」

「『殺されたくなかったら』って、どういうこと?」

「ヒュドラ軍のヤツらは逃げていったよ。ボクたち、誰に殺されるの?」

「ゴッ……、ゴチャゴチャ言うな。死にたくないなら……、早く村に戻れ……」

「おねえちゃん!!顔色が悪いよ。すごい汗だし、苦しそうだけど」

「もしかして、さっき戦いでどこかやられちゃったの?」

「アッ……、アタシのことは……、気にするな!ほっといてくれ。すぐによくなる……」

「ダメだよ!フラフラじゃないか!」

「こんなに苦しんでる人をほっとけない!一緒に村へ戻ろう!!」

「マモルくん!ヒロトさんを呼んできて!ボクの力じゃ、おねえちゃんを村まで運べない」

「わかったよ。すぐに助けを呼んでくるから!がんばってね!おねえちゃん!」

「やめろ!余計なことをするな!」

「命が惜しいなら……、アタシにかまわず村へ行けッ!アタシの前から消えろ!」

「でも……、このままほっといたら……」

「ダマレ……」

「どうしちゃったの!目がっ、目の色が変わって……。色だけじゃない、目つきが別人みたいに鋭く……」

「早く……、ウセロ……」

「嫌だよ、そんなの……。お願いだから、一緒に村へ……」




「早く消えろって言ってんだよ!!何度も言わせるな!!死にたいのかあぁぁああッ!!」

「!!!!!!」

「あっ、ありがとうございました!!」

「うわああああぁぁぁッ!!」

ルカの激しい剣幕に驚いたサトシとマモルは、走ってその場を立ち去り、ラハマの村へと戻っていった。


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