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【Destination】第45話 半信半疑


一向に回復の兆しを見せないルカの発作。全身の血管が不規則に激しく脈打ち、心臓と肺の激痛で動くどころか呼吸すらまともにできず、徐々に意識が遠のいていく。

それでも気力を振り絞り、ヒュドラ軍討伐と「ユリ」救出に向けて立ち上がろうとするルカだったが、ふとわれに返り、自らの行動に疑問を抱き始めた。

幼いころに受けた凄惨ないじめ、成人してからも続いた過酷な日々。

その記憶が甦り、「自分は誰にも助けてもらえなかった。だから自分も他人を助ける必要はない。助けたところで、人はいつか必ず死を迎える」そう考え、ユリの命をあきらめようとしていた。

薄れゆく意識のなか、忌まわしい記憶とともにルカの脳裏をよぎったある男性。

彼は自分の貴重な時間をさき、膨大な仕事を捨ててまで、ルカに救いの手を差し伸べていた、たったひとりの人物。

「自分を犠牲にしてまで人を助ける理由と意味」

ルカは男性の言葉をどうしても思い出せず、理解に苦しんでいた。人の道を踏み外そうとしている彼女にわかるはずもない。

発作の苦しみと戦いながら、ひとり葛藤を続けるルカの前に、運悪くヒュドラ軍幹部のナオキが姿を現した。

部下が倒されているのを目の当たりにしたにもかかわらず、ナオキに憤慨している様子はなく、気遣う素振りすら見られない。彼の中にあるのは、ヒュドラ軍に反逆を企てた者への興味のみ。

「この女はなにかを知っている」

そう考えたナオキは、不敵な笑みを浮かべながらルカに近づき事情を問いただす。

返答次第で戦闘になるのは明らか。しかし、発作が出ている今の状態で勝ち目はない。村人に責任を擦りつければ、この状況をやり過ごせるが。

はたしてルカのくだす決断は。



「なあ、ねえちゃんよ!オレの部下をやったのはどこのどいつだ?素直に話したほうが身のためだぜ」

「最悪だ……。やっぱり、今日はツイてない……」

「アタシがやったとバレて、戦うハメになったら確実に負ける」

「適当にごまかすか……」

「女のアタシが倒したとは夢にも思ってないだろう。疑ってすらいないはず」

「倒したヤツらが目覚めるまで、まだしばらく時間がかかる。ほかの誰かがやったことにしてもバレやしない……。絶対に!」

「でも、誰の仕業にする……。アタシを犯そうとして仲間割れした……」

「いや、それはムリがあるか。全員気絶してるのは不自然。どんなバカでも騙せない」

「もし、知らないって答えたら、こいつはなにを考えて、どういう行動に出る……」

「ラハマの誰かがやったと考えて、村を襲いに行く可能性が高い」

「それでいい。村人がやったことにしよう」

「あいつらは、アタシを犠牲にして助かろうとした。これは当然の報い……」

「おいッ、ねえちゃんッ!!黙ってねぇで早く答えな!」

「オレは元ヘビー級のプロボクサーで世界ランカー。痛ぇ目みるだけじゃすまんぞ!その若さで死にたかねぇだろ」

「そうだね……。わかった、教えてやるよ。お前の部下をやったのは……」

「そのくらいにしておけ!ゲスが!」

「その女性は貴様の欲を満たすためのオモチャでも、都合よくつかって許される奴隷でもない!」

「お前は何様のつもりだ!人をなんだと思っている!」

「わたしは自分の立場や権力を利用して、威圧的になるヤツが大嫌いでな!」

「そうすることでしか優位性を保てない、自分のなかの欠落を補えない哀れな男よ」

「他人がどうこうできるものではない。自分を変えられるのは、自分のもつ強い意思」

「人は自分自身を甘やかせば甘やかすほど、それに溺れる、欲に弱い生きもの」

「つらければ逃げたってかまわない。自分の命を守れるのは自分だけなんだから。キミはまだ若い、いくらでもやり直せる」

「『信頼してくれている人を裏切る』それは人の生き方ではない。絶対にしてはならない!」

「適当な口実でごまかし、まんまと逃げられたとしても、そのあとに残るのは後悔だけ」

「……ヒデキ……さん……」

なんとしても戦闘を避けたい、村人に責任を押しつけてでも、この状況から逃れたいと考えていたルカに、ふたたび男性の記憶が甦った。

「ダメだッ!!アタシはまちがってるッ!こんな卑怯なマネをしたら、あの人はきっと怒る」

「今、アタシがやらなきゃならないのは、こいつを村に行かせないこと!約束をやぶって逃げることじゃない!」

「たとえここでやられたとしても、アタシを信頼してくれた、守ってくれたあの人に報いるため、逃げるわけにはいかない」

「どうした!もったいぶらずに早く言え!オレを怒らせたら、どうなるかわか……」

「アタシだッ!」

「アァンッ?」

「お前の部下をやったのは、このアタシだよ!」

「くだらん冗談だ!」

「じゃあ、なにか?女のてめぇが男7人をひとりでブッ倒したとでも言うのか?」

「あぁ、そうだ。ウソだと思うなら試してみるか」

「お前、まさか本気でこのオレとやろうってのか?正気の沙汰とは思えんな」

「ガタガタ言ってないでかかってきな!そうすればわかるだろ」

「こいつの眼差し……。ウソをついているようには見えん……。だが、なんのためにそんなことを……」

「オレとやりあえば殺される。そのくらいわかるはず。どういうつもりだ。自殺志願者か」

「どうした?かかってこないのか?」

「命が惜しくなったなら見逃してやってもいいぞ。仲間を連れてとっとと消えな!」

「生意気な女よ!」

「本当なら今すぐブチ殺してやりてぇが、オレは忙しい。てめぇの冗談につきあってるヒマはねぇ」

「やられたヤツらはザコとはいえ、リュウに選び抜かれた精鋭たち。お前みたいな小娘に倒せるわけがない」

「だいたい筋書きは読めたぜ!」

「ラハマの連中が謀反を起こし、ケイジたちをやった。お前はその罪をかぶるよう頼まれてんだろ?あいつらならやりかねん」

「違うッ!やったのはアタシだ!ラハマに行っても意味はない!」

「まだ言うか……。戯言はもういいってんだよ!村の連中に拷問をかけて吐かせたほうが……」

「まっ、待ってくれナオキさん……。そいつが言ってるのは本当だ!オレたちはその女にやられた……」

「バケモノじみた、とんでもない強さで……。女だからって油断しないほうがいい……」

「!!!!!!」

「これでわかっただろ!アタシがやったって」

「あぁ、よくわかった。まだ半信半疑だが、それは戦ってみればハッキリする」

「オレたちに牙を向けたヤツを生かしておくわけにはいかねぇ。時間いっぱいまで痛めつけて、なぶり殺しにしてやる」







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