見出し画像

【Destination】第41話 性暴力

この世には、いつの時代にもどの国にも、男女の違いを理解しようとせず、または知りながら、腕力の差や立場の優位性を利用し、自らの欲望を満たそうとする卑怯者が存在する。

「体の大きい男性のほうが、ケンカが強いほうがえらい。女や子どもは男に絶対服従」そう考える者がいる。

明日、不慮の事故で動けなくなる、人を頼らなければ生きられなくなる可能性があるにもかかわらず。

とりわけ、体が小さく力の弱い子どもや女性は暴力の対象になりやすい。

女性はデートDVや夫婦間でのDV、子どもは虐待の被害者になることがたびたびある。

戦争以前、ジャポルの総人口は約1億2600万人、女性は約6400万人。

そのうち、18歳までに痴漢や盗撮などの被害に遭った女性は2.5人にひとり。無理やり性交された経験がある女性は13人にひとり。

セクハラ発言や性的からかいなども含めると、性被害の経験をもつ女性は7割にものぼる。

性被害の経験は、「思い出したくない、この人には言えない。心配や迷惑をかけたくない」と伝える人を選ぶ。

10回以上痴漢の被害に遭っていても、1度も警察に通報していない女性もおり、実際にはもっと多いと考えられる。

性被害を受けずに生涯を終えるのは不可能。

「なぜそんなことが起きるのか」

弱い者を虐待して楽しむ一部の男性のほうが強くて卑怯だから。

もし、幼いほど体が大きくて力が強かったら、女性が巨大な体で筋肉質だったら、それでも卑怯な男性は簡単に子どもを殴り、女性を犯罪の対象として見るのだろうか。

「なぜ抵抗しなかったのか」

男性の力に敵うわけがない。

抵抗して失敗すれば、逆上されて、もっと酷い仕打ちに合い、殺されるかもしれない。死にたくないから。自分の命を守るためには、おとなしくしているしかないから。

男は感情が高ぶると、手段を選ばず欲望を達成しようとする。それがわかっているから恐ろしくて抵抗できない。

実際に被害を受けるまでは、急所を蹴ればいい、大声を出せば相手は逃げていく、噛みつけばいいと対処法を考えてはいるが、いざ自分がそのような立場になると体が萎縮し、まったく動けない。

「大声を出して助けを求めればいいのに、なぜそうしなかったのか」

恐怖心から身体がこわばり、声を発することすらできない。「まわりにいる人、助けに入った人にも危害がおよんでしまうのでは」と考えるから。出さなかったのではなく出せない。

「なぜ逃げようとしなかったのか。本気で逃げようとすれば逃げられたはず」

持久力、運動能力で劣る女性が逃げたところで追いかけられて捕まってしまう。

その場は逃げきったとしても、後日、ふたたび襲いに来るのでは、どこかで待ち伏せされるのではと考えるから。

「フリーズ反応」

また、人はショッキングな場面や不測の事態に直面すると、脳が緊急ブレーキを発信して体の動きを一時的に止める、「フリーズ反応」と言われる現象を起こす。

意識はあるが筋肉が硬直して身体が動かなくなり、発声が抑制され痛みを感じにくくなるといった特徴がある状態。これは動物にも見られる擬死状態(死んだふり)の前段階。

動いているものを狙う捕食者の前で擬死状態となり、敵の目を眩まし生存につなげると学習した結果と言われている。

性的に襲われたとなった場合、被害者側のフリーズ反応は理解されにくい。

命を奪われる危険に比べ、性的な侵襲は程度が浅いと考えられているのか、そもそも性的に襲われる本当の意味が、どういうことか知らない人も多いためだろう。

「助けを求めたことによる、まわりへの迷惑」「再度襲いにくる」「反抗して逆上されれば殺される」それは、あとから思うことであり、暴力を受けている最中さいちゅうは、「殺さないでほしい。まだ生きたい」それしか頭にない。

最終的には「なんでも言うことを聞きます……、あなたが喜んでくれるならなんでもします……。だから命だけは……」と考えるほど追い込まれる。

これ以上、危害を加えず帰ってくれるのを祈るのみ。言われるがまま、なすがままにされるしかない。それが現実。

「なぜすぐに言わないのか。警察に相談しないのか」

性的被害をすぐに告発するのは、女性にとって勇気と精神力、体力のいること。

立証するためには、そのときの状況をこと細かく説明し、証拠となるもの(身体検査など)を調べられ、記録される。それを想像すると精神的に耐えられない。

警察に通報しても告発にまで行かないケースも多く、まともに取り合ってくれないこともある。こうなると、精神的な傷と世間への信頼がすべて崩壊。

裁判となった場合でも、「恐怖で体が凍りついた」「頭が真っ白になって抵抗できなかった」そんな主張は「いいわけではないか?本当は同意があったのでは?」と加害者が処罰されないケースが多い。

暴行を受けているとき、妊娠だけは避けたいと避妊具の装着を願うと、また「それは同意したからだ」とみなされる。暴漢が暴漢を守るためにつくったような規則。

被害者の意思や尊厳は完全に無視され、泣き寝入りさせられる可能性が非常に高い。

「性暴力の加害者は『相手に責任がある』と、責任を押しつけ、被害者は『自分が悪かったのだ』と自責する傾向がある」

性的暴力は、知り合いが加害者であるパターンがほとんどで、それをおもてに出したとき、その余波のなかに身を置かなければいけない、女性の立場や周辺への衝撃、受け取られ方などを考えても、そう簡単には被害を言い出せない。

もし被害を受けたのが既婚者で子供がいれば、その周辺の環境、配偶者とその周辺から家族全体と、そこにかかわる人たちにまで余波がおよぶ。

「黙っていればわからない。自分ひとりが犠牲になって、それで、丸く収まるのなら……」

「自分にも非があったかもしれない。思わせぶりな言動があったのかもしれない」

女性が自分を責める心理に追い込まれるのも言い出せない理由のひとつ。

そして、すべての人が心から手を貸そうとはしない。意地汚い好奇心の目も注がれる。

「女性の挑発的な服装や行動が被害を招いている。自業自得ではないか」「性的暴行をするような男は見ればだいたいわかる。そういう男に近づいた女が悪い」。

「自分から触られにいった。嫌なら抵抗できたはず。その場で怒ればいいだけ」

「いつまでも過去にとらわれるな、顔を上げ前を向いて生きるべき」

「それがどうした。精神的に弱すぎる。気にするな。生きてるだけでまる儲け。つらい経験があるのはみんな一緒」と、理解を得られず、被害者は誰にも相談できなくなり、絶望感や無力感に苛まれる。

心的外傷を紛らわすために酒や薬に依存、自傷行為をするようにもなり、やがて生きる気力を失っていく。














この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?