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ハードボイルド書店員日記

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ハードボイルドな書店員が綴る、本屋が舞台の掌編小説。いつか紙の本で書籍化したい。毎週日曜日に更新。
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記事一覧

ハードボイルド書店員日記【187】

人手不足の週末。電話が鳴った。 諸々の感情を押し殺して受話器を取る。 「森博嗣さんの『人…

Y2K☮
5日前
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ハードボイルド書店員日記【186】

「五月病を吹き飛ばしてくれる本、集めました」 期間限定の小規模なフェアが始まった。場所は…

Y2K☮
12日前
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ハードボイルド書店員日記【185】

こんなお客さんがいた。 「ここ本なくね?」 大学生らしきふたり組の男性。ビジネス書の棚を…

Y2K☮
2週間前
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ハードボイルド書店員日記【184】

「すいません、抜けます」 GWの真っ只中。通常よりもやや大きいハヤカワ文庫のカバーを折って…

Y2K☮
3週間前
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私小説「ハードボイルド書店員の独り言」

雨上がりの朝七時。誰もいない路地を歩く。 タバコの残り香が鼻孔を掠める。湿ったアスファル…

Y2K☮
1か月前
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ハードボイルド書店員日記【183】

「求人情報誌は置いてますか?」 学習参考書を品出ししていた平日の午後。棚はすでにパンパン…

Y2K☮
1か月前
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ハードボイルド書店員日記【182】

「月末に○○書店がオープンするね」 週刊誌を買いに来た常連の老紳士がレジで呟く。 春休みが終わって落ち着いた平日。尤も数週間後にはゴールデンウィークがやってくる。「お客さんは、自分が休んでいる時に周りが動いていることを当然と考える」メンターが年明けの朝礼で話した言葉を噛み締めた。 「知りませんでした。教えていただいてありがとうございます。すぐ近くですか?」 「高速道路を挟んだ反対側だね。△△ビルの1F」 何度か足を運んだことがある。当時はカフェチェーンや北欧系のインテリ

ハードボイルド書店員日記【181】

「『あさいち』売れてますか?」 日曜の午前中。嵐の前の静けさを感じつつカバーを折る。3月…

Y2K☮
1か月前
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ハードボイルド書店員日記【180】

「国に何かしてもらおうとは思わないよ」 書店以外にも苦しい業界はあるからねえ。メンターは…

Y2K☮
2か月前
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ハードボイルド書店員日記【179】

「使えますか?」 平日も賑わう春休みの午後。鼻の奥と眼球がムズムズする。カウンターを出て…

Y2K☮
2か月前
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ハードボイルド書店員日記【178】

「オカダの本、ある?」 静かな平日の午前中。レジにふたりは要らない。抜けて品出しを続ける…

Y2K☮
2か月前
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ハードボイルド書店員日記【177】

「俺もひとつ訊いていいすか?」 春の襟足が目立ってきた週末の昼。外国人に「イングリッシュ…

Y2K☮
2か月前
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ハードボイルド書店員日記【176】

「ピーターラビットの500円を5枚、1000円を3枚。1枚ずつ包装ね」 図書カードがやけに売れる月…

Y2K☮
2か月前
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ハードボイルド書店員日記【175】

出勤の日に寒気が戻る 「いらっしゃいませ」 「ちょっと面倒なこと訊いていいかしら?」 「どうぞ」 「太宰治を大好きな女の子に小説以外でオススメの本、何かある?」 「ございます」 「え、本当に? 小説じゃないのよ。漫画とかも駄目よ」 「とか」がどこまで含むのか気になる 「こちらなどいかがでしょうか」 「『まさかジープで来るとは』って何? エッセイ?」 「せきしろさんと又吉直樹さんによる自由律俳句集です」 「又吉ってサイドスローの?」 その人の名前が先に来るとは 「いえ