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カラスなぜ「なく」の

 昨日(5月10日)の地元紙に「カラスの巣で停電被害」という見出しの記事が載っていた。そこで、記事を読んだり東電PG(パワーグリッド)のホームページを訪ねたりしてざっと調べてみた。
 群馬県の地元紙だから群馬県内の状況が説明されていたが、程度の差こそあれ、たぶん全国的にも似通った状況なのだと思われる。
 新聞は、県内の一部市街地域で、カラスが電柱に営巣したことによる停電が発生し、約1,300軒に影響があったと伝えている。

 3月から5月ころの時期はカラスの繁殖期で、それに伴って営巣も盛んになる。拙作「前年の巣に飛来するツバメは同じツバメか」で、ツバメなどが巣を作る場所が年々減少していると述べたが、ツバメばかりかカラスも同じ状況のようだ。
 カラスの巣の〝建材〟はツバメとは異なり、枯れ草や土だけではない。小枝、針金ハンガーや針金そのもの、コケ、布きれ、ビニール紐など、ほとんどなんでもござれという感じだ。

 建材のうち、金属をはじめとして通電しやすいものが電柱の設備や電線に接触して漏電すると、安全装置が自動で作動し、送電が停止する仕組みなのだという。
 東電PGの名誉ために書き添えておくが、停電が発生したからといって、すべての巣を駆除しているのではないとのこと。鳥獣保護法に則り、電力の安定供給に支障がある場合のみ完全撤去し、そうでなければ、できるだけひなが巣立ってからにしているとのことだ。

 カラスはゴミ置き場を漁るとか、ときには人間を攻撃することもあるなどと嫌われる傾向があるうえ、営巣場所にも窮しているとなればまさに受難の時代だ。いつの時代でも廃れることなくつかわれる「昔はよかった」という言葉は、カラスにも通用するかもしれない。
 昭和生まれの人なら知らない人はいないと思うが、カラスが登場する歌に「七つの子」という童謡がある。野口雨情作詞、本居長世作曲の、叙情ゆたかな名曲だ。

 この歌が発表されたのは大正10年。歌のなかでのカラスの家は街中ではなく、山である。
 それからだいぶ時を隔てた現代。豊富な餌にありつける人間の世界ではあるが、営巣場所に窮して電柱にマイホームを造らざるを得ない現実を、カラスはどう思っているのか。
 ところで、この歌詞の「なく」は「鳴く」ではなく「啼く」だ。私は記事を書きながら、現代のカラスは「昔はよかった」と振り返りながら〝泣いている〟のではないかと思ったりするのだ。



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