📒言葉に思いを巡らせる。

言葉を考えるのが好きだ。ふと目にやった先に見えたポスターの内容。電車の中吊り広告。誰かがいっていたセリフ。ありとあらゆる言葉を拝借して、自分の中に落とし込んでいる。自分勝手な解釈とともに。

最近、広告コピーの本を探しては読み漁っている。短い文に込められた思いを想像するのが、何より楽しいのだ。街角に溢れた広告は、時期を過ぎると取り下げられてしまう。人間の記憶なんて大したものでないので、どんなに感動をしても忘れてしまう。改めて書物としておさめられていることに、ありがたみを感じる。

毎日読みたい365日の広告コピー(ライツ社)

最も心に残ったコピー。それは、ある日駅で見つけた一つの広告だった。

天才だけでは、救えない。

AC JAPANより

手塚治虫さんの作品でおなじみの、ブラックジャックの挿絵とともに、強烈な言葉が私の心を突き刺す。

たったの12文字で心を奪われた。言葉通りである、その通りである。まごうごとなき事実である。こんなに短い文で、人の心を動かせるのか。私は目を丸くした。広告を目の前にして立ち止まってしまった。

その後、気になったのでCMの内容を調べた。どんなに優秀な医者がいても、ドナーがいなければ命は救えない。ドナー登録を求める内容だった。

私にとってドナー登録は恐ろしいものだった。自分の臓器を誰かに渡すことなど、人生の中で考えたこともなかった。登録するか否かは別として、この言葉をきっかけに『ドナー登録』について考えるきっかけになった。広告として大成功ではないだろうか。

―――――天才だけでは、救えない。

この言葉は医療現場だけに限らず、生活のあらゆる場面で直面する問題ではないだろうか。

例えば会社では、どんなに素晴らしい社長がいても、従業員がいなければ成り立たない。

野球でも同じ。どんなに凄い投手がいても、野手が点を取らなければ勝つことはができない。

普段の人付き合いも同じで、自分が色々な考えをもっていても、誰かがいなければそれを伝えることができない。いつ何時も、自分以外の誰かという存在がいてこそ、世の中が成り立つことを痛感する。

人は一人では生きられない。そんな当たり前のことを、この12文字で気づかされた。いや、改めて考えるきっかけになったというのが正しいだろうか。

言葉は感性が豊かになり、感受性を養う。私はそう信じている。言葉は人を救えるし、殺すこともできる。そうとも感じている。私はどんな言葉を操って生きていこうか。誰かを笑顔にし、前向きにし、力を与えられる。そんな人間でありたい。今日も言葉に思いを巡らせながら。