(4/11) ドイツHeinsberg郡-集団感染発生地での感染率は15%, 致命率は0.37% (疫学調査)-追記あり

(4/13追記: この研究報告に対する批判的吟味・コメントの訳を別記事にアップしました。こちらもご覧下さい) 

https://note.com/atarui/n/nd3cb479c4b82

ドイツから興味深い研究の中間報告。「潜在的な発症者を逃しているのでは?」という問題提起に対し、集団感染が起きた地域で抗体検査を広く実施し、潜在的な感染率(と免疫獲得状況)を調査した。「PCR検査で陽性と判明した人」ではなく、「PCRで陽性の人と、今回の調査で抗体を持っていた人」の双方を分母として計算している。
 結果として潜在発症者も含めた感染率は調査対象者の15%で、ここから求めた致命率は0.37%と、ドイツの通常の致命率2.0%のほぼ5分の1となった。

https://www.land.nrw/sites/default/files/asset/document/zwischenergebnis_covid19_case_study_gangelt_0.pdf

以下、抄訳とコメント。
【背景と目的】2月半ばにカーニバルを発端にCovidの集団感染が起きたドイツ西部 (修正)の町 Gangelt (人口12,529人)で、コロナウイルスの感染状況 (町全体の感染率)と、免疫獲得状況を評価するための疫学調査を実施した。

 なお、Gangeltが属するHeinsberg郡と、さらに広域のNordrhein-Westfalen州の発症状況はこちら。Nordhein-Westfalen州で10万人あたり128人、Heinsberg郡で10万人あたりの感染者数は605人 (港区のほぼ10倍)。

スクリーンショット 2020-04-11 10.59.46

【方法】
 600世帯に依頼を送付し、400世帯 (1,000人)が研究に参加した。質問票に加えて、喉スワブと抗体検査 (IgGとIgA)を実施した。(註: IgGとIgAは、いずれも感染後しばらく経過してからできる抗体。IgGは血液中に、IgAは消化管や呼吸器などの粘膜に多く存在)

【結果】
 500人からのデータによる中間解析の結果を示す。
 IgG抗体検査 (特異度99%以上)は、14%が陽性であった。 一方で、PCR検査によってすでに感染が確定している参加者の割合は2%であった。合計すると、治癒例も含めた全体の感染率は15%であった。このデータをGangelt全体に当てはめると、感染者を分母にした致命率 (case fatality rate)は0.37% (270人に1人)で、Johns-Hopkins大学のデータによるドイツの致命率1.98%の5分の1程度となる。(註: 4/11時点のドイツコッホ研究所のデータだと、113,525人中2,373人死亡で、致命率2.09%) 非感染者も含めた全体の死亡率 (mortality rate)は0.06% (1,700人に1人)となる。

【考察】
 今回の結果とJohns-Hopkinsのデータ(註: PCRの確定症例を分母としたデータ、の意)で致死率に5倍の差があったのは、今回のGangeltでの研究が無症状や軽症例などの潜在的発症者も捕捉したことに起因する。参加者の15%が免疫を獲得している (IgG陽性)ことで、今後の感染拡大速度(基本再生算数R0など)は低下すると考えられる。
 厳しめの公衆衛生対策を講ずることは、爆発的感染 (ドイツのカーニバルや、オーストリアのスキーバーなど)以外の状況では、感染の重篤化を防ぎつつ免疫獲得数を増加させることにつながる。全死亡の抑制も期待できる。

 以上の結果から、DGKH (German Society for Hospital Hygiene)の4フェーズモデルの実践を強く推奨する。
 1. 社会的隔離 (Gesellschaftliche Quarantänisierung, Social quarantine)によりパンデミックを封じ込めて減速させつつ、ヘルスケアシステムの崩壊を回避する
 2. 公衆衛生上望ましい状況を確保しつつ、社会的隔離を緩和しはじめる
 3. 公衆衛生上の枠組みを維持しつつ、社会的隔離を廃止する
 4. Covid-19以前の生活状況に戻す

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