『時計には天芯(てんしん)という部品があり、これが摩耗すると時計は正しい時を刻めなくなる』 時計に詳しい母から、そんな話を聞いたことがある。その時葉一(よういち)は、正確な時が刻めなくなっているのは時計の方ではなく、母の方だと思った。 母は、手間をかけることに時間を惜しまない人だった。だがその考えを自分に押し付けることに、中学生の葉一は抵抗を感じていた。 毎朝決まった時間に、母から貰ったこの古い手巻き時計のリューズを巻き上げること。そして時間は必ず、この時計を見て確認