夕焼けの海って甘い匂いがするじゃない? 名前も知らない、五つは歳が下であろう女は、腰からしっぽが垂れ下がっていないのが不思議なほど軽やかな足取りであちこちに伸びる影を踏みつけていく。 そのあとに「ハチミツみたいだから」とでも続けばよっぽど可愛らしい子供のように見えただろうに、「太陽って甘いもんな」と口にするので私はほとほと扱いに困り果てていた。 自転車のタイヤがからから石に当たって跳ねる。どこかに停めればよかったものを、手に何か握るものが無ければ落ち着かない性分の私はハ
世界を壊す計画を立てている。 例えばどこもかしこも爆破してやるだとか、例えば世界を水に沈めてやるだとか、例えば巨大な隕石を落としてやるだとか、下らないことを考えて一日が終わる。 そんな友人がいる。 何故世界を壊したいのかと聞けば、彼女は「夢を見たいの。」と言った。人のどす黒い部分しか信じられない彼女は、毎晩世界の終わる夢を見ると言う。人が欲望の手網を離すのは、その夢を見ている時だけだと。 じゃあ、全部壊しては人も何もかも居なくなるだろ、と尋ねてみる。そうすると酷く悲
それは春の出来事だったと思います。……正直なところ、中学の頃か高校の頃か、はたまた小学生だったかすら覚えていません。何せ、学校生活というのは私にとって心底退屈で、自分の意見より他人の意見を優先し、それでいて自分の考えを悟って欲しいという非常に自己中心的な性格をしておりました故、友人らしい友人もいなかったのです。学歴の為に学校へ足を運び、自宅での時間の半分を睡眠で過ごす、というなんとも機械的な生活をしており自宅の天井と無駄にガタガタガタガタと揺れる学校机以外の記憶が殆ど無いの