首が回らない(脳腫瘍 14)
手術の翌々日には点滴もドレインもはずれたが、歩行器がなくては歩けなくなっていた。
手術前には明け方トイレに行くときは歩行器を使い、昼間は使ったり使わなかったりだった。
歩行器があると楽だが、なくても歩けたし階段も上がり下りできた。
それが、ほんの2、3日歩かなかっただけで弱い右足がまた動かなくなってしまい、地下の売店へ新聞を買いに行ったら足が崩れそうに疲れてしまった。
歩行器を使うと楽だが、階段を使えないので面倒なときもある。
8階の自販機へジュースを買いに行くのに、7階の自分の病室から階段を上ればすぐなのに、わざわざエレベーターを使わなくてはならない。
エレベーターはなかなか来ないからもどかしかった。
右手のしびれも前よりひどくなっていた。
寝ていると両腕がしびれてくるのも変だった。
特に右腕のしびれが強く、肩から肘にかけて痛みがあった。
看護師さんに両肩に湿布を貼ってもらうと楽になったが、首の筋肉はずっと突っ張っていた。
しばらくそんな状態が続いたが、何日かして、寝ているときに肩に力を入れていることに気が付いた。
後頭部を切ったので、傷が枕に当たるから無意識に力が入ってしまうらしい。
眠っている間は痛みを感じないが、体が勝手に反応していたのだろう。
目が覚めているときは、右耳の後ろから頭にかけてキンキンと痛むこともあり、耳全体が痛くなったりもする。
滅菌してあるから中耳炎にはならないと言われたし、熱が出ていないから大丈夫なのだろうが、あまり痛いと気になった。
入院する10日前に首のカラーが外れたばかりなので、長い間の習慣で、左右を見るのに首を回すのではなく体を向けていた。
病室でもこれをやっては、
「また体ごと横向いてる」
と、同室のKさんに笑われた。
「あ、ほんとだ。無意識に体ごと向いちゃう」
一緒に笑いながら、自分でも癖になっているせいだと思っていた。
確かに、初めのうちは癖になっているせいもあった。
ところが、脳腫瘍の手術が終わって1週間(カラーを外して3週間)ほどしてから、ためしに首を左右に回そうとしたが、ほとんど動かなかった。
体を正面に向けたまま首だけ動かして横を見ようとしても、左は7〜80度、右は40度ぐらいしか回らない。真横(90度)は無理だった。
使わない首の筋肉が硬くなっているだけなのか、それとも、骨盤の骨をつないだので、首の骨がもうこれ以上は動かないのだろうか?
虎の門病院を退院してから、九段坂病院の外来の日に中井先生に聞いてみたが、先生にもそれはわからなかった。
首の運動をよくするようにと言われ、毎日首を回したり上下左右に曲げる運動をしていたら、少しずつ動くようになってきた。
体を動かさずには真横が見えなかったのが、数カ月でほとんど真横が見えるようになった。
ただ、それ以上は無理で、5月の連休には自転車に乗り始めたが、自転車に乗っていて後ろを振り向くのは難しかった。
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