死んだフェラーリ:博士の普通の愛情
数年ぶりに知人と会ったのですが、冷たい結論を先に言ってしまうと彼と会ったことは、私にとって『時間の浪費』でしかありませんでした。誰かと何もせずに無為な時間を過ごす豊かさだってあります。いつも有意義な話をすればいいというものではありません。しかしそういう種類の無駄とは違って、自分とは関係ないネガティブな感情だけを背負わされた気がしたからです。
久しぶりに彼から連絡があって、近くのホテルのカフェに行きました。遅れてやって来た彼を見て驚きました。若い頃はスポーツ選手のような肉体の精悍さを感じた人物なのですが、見る影もありません。
「コーヒーが1450円か。高いな」
それが挨拶の前に言った言葉でした。
彼は近況を話し始めましたが、今までやっていた個人事務所の仕事がなくなり、数年前にやめたそうです。我々のような職業は誰かからの依頼がなければそれまでで、私もいつそうなるかわからず他人事ではありません。奥さんとは会ったことがないのですが、彼女は以前からあるビジネスをしていたようでそちらは軌道に乗っていると言います。今は奥さんが家族の経済を支えていると説明したので、それは別にいいじゃないか、と言うと「男のプライドってものがあるだろう」と言います。それからしばらく彼は以前の自分がどれだけ優秀で羽振りがよかったかを話し続けたので、うんざりしました。私が聞きたいのは現在と未来の話です。
多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。