見出し画像

心がロコモコする:写真の部屋

私は30歳くらいまで「引きこもりのインドア人間」でした。広告のアートディレクターをしていたのですが、当時はわざわざスタジオで撮るアイデアばかりを提案していて、なぜかロケは避けていました。出不精だったのです。今はデブ性ですが。パワハラじみたオヤジギャグはさておき。

広告の仕事では自分がロケーションを決めるときもあるのですが、「ここでこういう撮影をする」というのが先に決まっていることもあります。そうなると行かざるを得ません。そこで「ロケって楽しいじゃん」と、10年遅れくらいの発見をしたのです。馬鹿丸出しと言えましょう。それまでかたくなにロケ案を却下していた過去の自分に回し蹴りを食らわしたくなりました。

私たちの若い時代はまだPhotoshopでの合成がなかったので、その場に行って撮ってくるしか方法がありませんでした。バブル期でしたから撮影にかけられる予算は今とは比べものにならず、「予算がないからやめておくか」という言葉は聞いたことがありませんでした。それをことさらいい時代だったと主張はしませんが、数多くの経験をさせてもらったことから考えると、今の若者は残念だよなあと感じます。

日本全国を回り、見たことがないものを見るのはとてもいい経験でした。外国でもそうですが、とにかく日常ではない場所に行って、水と油に分かれたドレッシングのように硬直した脳味噌をフリフリして撹拌することが大事なのだと思っています。言葉が通じず文化が違う場に行くと否応なく何かを考えることになります。カフェで注文ができなければコーヒーが飲めませんし、地下鉄にもタクシーにも乗れません。いかに東京での毎日が脳を使わず「無意識に行われているか」に気づくのです。

ここから先は

445字

写真の部屋

¥500 / 月

人類全員が写真を撮るような時代。「写真を撮ること」「見ること」についての話をします。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。