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オススメとは。

戦車模型を作り始めてかれこれ30年。雑誌で作例を担当するようになってからは13年経つ。その間に専門学校で講師をしたりしていたが、特に作例をやるようになってから何度か出くわした場面がある。

「戦車模型作りたいんですが何がオススメですか?」

実は以前同じような話題をブログで触れはしたが、その時は話題がちょっと違ったので改めて書いてみる。
実はコレ、意外に難しい。その質問をしてきた本人がどういう目的で戦車模型を作りたいのか、そもそもどんな模型を作っているのか、そしてゴールは何処なのか。まあ、マニアックなジャンルでもある戦車模型を作りたいという話をしてくる段階でプラモデルを一度も作った事がない人は今のところいない。という事は基本的な道具の使い方とかは概ね分かってるんじゃないかと考える。ニッパーの握り方からスタートする戦車模型も悪くはないが。

そうなると実は大切になってくるのは「戦車模型を作りたいと思った理由」なのだと思う。思い出してみると意外と多かったのは僕が作っているのを見て気になって作りたくなった、みたいな流れだ。これは専門学校の時の思い出だな。

模型誌とか、今だとSNSで見るより現物を見た時のほうが「作ってみたい」と思う事が多いのではないかと思うのだが、そこは人によるので断言は出来ないし全てのモデラーが日常的に完成品を見る機会があるわけでもない。ただ、やはり現物を見るとテンションが上がるというのはわかる。パーツ状態を見て無理だと感じる場合でも完成している姿を見ると「ひょっとしてイケるんじゃないか」と思うアレだ。模型を作っている人なら分かると思う。

とはいえそういう場合は何か作りたい車種があるわけではない。実は困る。なんでもいいから勧める事は出来なくはないが、果たしてそれは「次も作ろう」と思ってくれるかどうかわからないのだ。
いや、勿論「戦車模型とやらをひとつぐらい作ってみるか」という人もいるだろう。そもそも次はない可能性だってあるわけだ。でもせっかく作ってくれるのだったら続けて作ってほしいとは思う。そういう時に「初めてだしお金をかけないように安いキットをオススメしておこう」とはならないようにしている。安い=古いキットも多く、逆に作りにくくて面倒くさく感じられてしまうことも多いからだ。そもそもガンプラから入ってくる場合は接着剤が必要な段階で面食らう事もあるわけだし(実体験)。

そんな時は僕はタミヤの1/35 III号戦車L型/N型をオススメするようにしている。古くから僕を知ってる人は「またこの人III号戦車を勧めてるよ」と思われてしまうが、まあそこは我慢してほしい。書いている僕自身も「またIII号の話だよ」と思っている。
タミヤのIII号戦車はパーツ数も適度で戦車のカタチをしており、履帯も塗装可能なベルト式履帯が付属している。更に塗装も単色/迷彩など色々選べる楽しみもある。メッシュというプラスチックで再現するのは難しい純正のエッチングパーツもあり、初めてのエッチングパーツにももってこいなのである。

更に戦車模型の醍醐味でもある履帯をアフターパーツに置き換えるなどの工作も出来る。なんならOVMクランプを追加したりエッチングパーツのシュルツェンを追加するなんていう事も可能なのだ。N型ならキットに挽物砲身が付いているしL型では別売りだったエッチングパーツも同梱されている。前述もしたが、「如何にもこれがエッチングパーツです」という主張が強いメッシュのエッチングパーツは初めて触れるには満足感も高い。初めて作る戦車模型という中に色々選んで作れるという楽しさが詰まったキットだと思う。

さて。キットをオススメするという事はどういう事なのかをもう一度振り返ってみる。僕はオススメする時に「簡単に出来るキット」というのはなるべく選ばないようにしている。一番いいのは作りたい(気になる)車種があればそれを聞き、購入しやすさや作りやすさを鑑みた結果「それなら〇〇社の〇〇をオススメしよう(またはそれに近いキットを選ぶ)」という流れになる。あとはどこまでフォロー出来るかにもよるが…。
そもそもせっかく戦車模型を作りたいと相談してきてくれているのに「簡単なキット」を勧めるのは違和感を感じる。初めて作るから失敗してほしくない→それなら楽なものを勧めようという流れは分からなくはない。勿論それで完成させた人が満足を得られるのならそれでいいかとも思うが、そもそも初めて戦車模型を作る人にとっては何が簡単なのかは分からないだろう。場合によっては手応えがなくてガッカリするかもしれない。

「俺はどうしても連結履帯が組みたいんです!それが戦車模型の醍醐味だと思うんです!」というモデラーに対して「作った事ないのに無茶だからベルト履帯にしておきなさい」と言えるだろうか。いや、ぶっちゃけ言いたい時もあるが、どちらかというと応援するほうを選びたい。難しいキットはたくさんあるが「組むのが不可能なプラモデルはない」というのが自論でもあるから。

あとは先程も触れたが「どこまでフォロー出来るか」というところだろう。「このキットが初心者にはオススメです。さあ作ってみましょう!」というのはあんまりにも乱暴だ。僕がIII号戦車を勧めるのは何個も作っているからという理由も大きい。だからこそ勧めることが出来るし、なんなら一緒に作る事もある。
自分で戦車模型を作るからこそオススメのキットはあるし、作りたいキットがあれば出来る範囲でフォローしていきたい。啓蒙活動を行っているなどという烏滸がましい気持ちではない。ただ、結果として戦車模型に興味が続かないような雑なフォローだけは絶対にしたくないものである。■


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