縣青那 (あがた せいな)

長編小説、短編小説、エッセイ、ホラー短編小説などを書いています。 ホラー短編については…

縣青那 (あがた せいな)

長編小説、短編小説、エッセイ、ホラー短編小説などを書いています。 ホラー短編についてはただ今Youtubeにて動画付きで配信しております。怖い話が好きな方、よろしければご覧になってみて下さい。 https://www.youtube.com/@user-gl6rx8vm6f

マガジン

  • 【長編小説】 チュニジアより愛をこめて

    二部作前編『パリに暮らして』に続く後編。 チュニジアに降り立った〝私〟は、遂に計画を実行に移そうとする。

  • 有象無象の妄想夢想

    ふと頭に浮かんだ不埒な世迷言を何の脈絡もなくつらつらと書きなぐった雑文です。 ある日浮かんだエッセイのタイトルを「マガジンにしちゃえ~!」と強引に作ってしまいました。 乱文、逸脱当たり前の構成、お許しください。

  • 【長編小説】 パリに暮らして

    ある目的を胸に、1ヶ月の予定でパリに滞在する〝私〟。間借りした安宿の環境はあまりにも厳しく、カフェで主に愚痴をこぼしていたところを、ある日本人男性と知り合う。彼は親切にも自分のアパートに滞在したらどうかと提案してくれた。 ホスピタリティに満ちた彼のもてなしに、つい自分の目的の一端を吐露してしまった〝私〟は、いつしか彼と恋に落ちるが……。二部作後編『チュニジアより愛をこめて』に続く。

  • 縣青那の本棚

    読書感想文まとめ。 自分なりに感じたこと、考えたことを書いてみた記事になります。 随時更新していこうと思います。

  • 【短編小説集】 微かな恐怖

最近の記事

【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 16

 チュニジア周遊の小旅行から帰って来た私を、ハムザさんは大きな笑顔で迎えてくれた。そして、再び自分の宿を選んでくれてありがとうなどと言うのだった。私は砂漠の街で買った小さなお土産を彼に渡した。それほど珍しくもないだろうけれど、と思っていたが、海辺の街しか知らないハムザさんは、それをいたく喜んでくれた。  ――その日、私はアフリカ大陸側からの地中海を一望の下に見渡せる有名なスポット、シディ・シャバーヌのテラス席から、シディ・ブ・サイドの街とその先の海を見下ろしていた

    • 【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 15

       その後、私はナブールまで足を伸ばした。そこは何あろう、あの彼の出身地だった。  今この街のどこかに彼はいる。この街のどこかに昔からある彼の実家に……。私は少し緊張していた。歩いていて彼に出くわしたらどうしよう。そんなことを思いながら、スースの市場で買った大きめの麦わら帽子を目深に被って、顔を隠すようにして歩いた。  ナブールは、こぢんまりした地方都市で、色とりどりの、私にとっては玩具箱のような印象の街だった。というのも、ここはオレンジの産地として有名で、更に陶器の街という魅

      • 【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 14

         ――私は、劉と同じようにジェルバ島に渡り、海に面した見事なリゾートホテルに泊まった。そこはどこを取っても完璧に美しかった。きちんと整頓された清潔な客室、派手で賑やかな装飾を施したレストラン。海を望む屋外の敷地には、エメラルドグリーンの巨大なプールがあった。ホテルを出て道路を渡るとすぐ、宿泊客だけが利用することの出来るプライベートビーチもあった。至るところで、着衣であったり水着姿のままであったりの違いはあるけれど、二十歳そこそこの若いチュニジア人男性と、ヨーロッパの各地からや

        • 【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 13

           ――青と白に彩られた美しい街、シディ・ブ・サイドでの日々は、緩慢に、けれど夢のような心地よさのなかで過ぎていった。  この街の滞在も、もう一週間を越えた。不思議なことだけれど、この街は、居れば居るほど私を捕らえて離さなくなっていった。もしかしたら昔、生まれ変わる前のいつかの人生で、ここに暮らしたことがあるのかもしれない。そう思うくらい、その全てがしっくりきて、懐かしいのだった。  滞在しているB&B形式の安宿の主人とも、すっかり顔見知りになっていた。毎朝受付のある小さな

        【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 16

        マガジン

        • 【長編小説】 チュニジアより愛をこめて
          16本
        • 有象無象の妄想夢想
          1本
        • 【長編小説】 パリに暮らして
          19本
        • 縣青那の本棚
          9本
        • 【短編小説集】 微かな恐怖
          4本
        • 【長編小説】 初夏の追想
          29本

        記事

          【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 12

           「南部の方をね、廻って来たんですよ。まずはジェルバ島へ渡って、それからサハラ砂漠のツアーに参加して、トズールに寄って、エキゾチックな気分に浸って来ました。……南部へは?」 「まだです。チュニスとここ以外、まだどこへも」  私は微笑んで答えた。  劉は意外そうな様子で私を見た。そして、そうしておいてから、さもありなんというようなしたり顔になって、何度も頷いた。 「そうでしょうね。あなたはチュニジアに来た目的を果たされた。それで、ホッとして、この美しい街に来てゆっくりと成功に浸

          【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 12

          【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 11

           ――シディ・ブ・サイドは、チュニスの北東十キロメートル余りのところにある小さな街である。フランス植民地時代、この街に邸宅を構えていたロドルフ・デルランジェ男爵の愛する青と白だけを建物の色に使うという政令が出された。それ以来、独立を経た今でも、シディ・ブ・サイドの青と白の景観は守られ続けている。そして今、地中海を臨む高台の上のこの街は、世界中の観光客の憧れの的となっている。  世界最古のカフェと言われる、カフェ・デ・ナットの座席に、私は胡座をかいて座っていた。名物である松の実

          【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 11

          【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 10

           ――性的な関係の現場では、時として隠しようのない残酷性が浮かび上がる。それは、愛し合う仕草の始まりの時には、情欲と夢うつつの帳の下に隠れていて見えないのだが、行為が深まっていくにつれ、……特に、終わりが見えかけてきた頃……お互いにお互いの体を確かめ尽くし、興奮と快感から醒め始めて正気に戻りつつある頃には、おもむろに頭をもたげて、姿を現し始める。そしてそれは、その日私が知った最大の真実だった。  私は、今も昔も、彼が全く私を愛していないことをはっきりと知った。……彼の視線の行

          【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 10

          【エッセイ】 アンネ・フランクが物書きに伝えてくれたこと

          久しぶりにペンを執った。 書くことが本当に好きなのに、この頃ちっともものを書かない。 この場合の〝ものを書く〟とは、〝自分の心の中にある真実〟を赤裸々に書き表すということである。 もっと無理にでも時間を作って書かなければ。 と思ったのは、ある映画を観たことがきっかけだった。 それは『アンネの追憶』という映画だ。 ハネリという親友と、アンネの父であるオットー・フランク氏の記憶を頼りに作られた映画だそうで、Wikipediaに 〝登場人物や描かれたエピソードについては

          【エッセイ】 アンネ・フランクが物書きに伝えてくれたこと

          【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 9

           スークの人波の間から、頭ひとつ飛び出た長身の人物がこちらに向かってやって来る。その人は、真っ直ぐ私の方に、近づいて来る。彼だ。相変わらず背が高い。同じ人とは思えないくらい日に焼けていて、カナダにいた頃とは比べものにならないくらい肉付きが良くなっている。あの冬の黎明のようだった暗い目はすっかり精気を取り戻し、活き活きと輝いていた。故郷であるチュニジアの空気と太陽は、枯れかけていた植物のようだった彼を、根元からしっかりと蘇生させたようだった。スッと通った鼻筋と意固地そうな薄い唇

          【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 9

          【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 8

           そうやって調べていく内に私は、ムスリムの世界に肯定的なイメージを抱くようになっていった。書物やインターネット、テレビなどの媒体で触れた人々の多くは、「イスラムは平和を愛する教えだ」と発言していた。この教えが全て上手く機能したら、それこそ理想的な世の中になるのではないだろうか……? 私はそこまで考えた。そして、自分がベールを纏い、モスクの内部へ入ることを許される者として、その世界へ入っていく姿を想像してみさえしたのだった。  ――実際、観念的な意味において、私はイスラム世界の

          【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 8

          【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 7

           ところが、私ときたら、基本的に宗教というものに興味、関心のない人種だった。「あなたの宗教は?」と聞かれれば一応日本人として「仏教」と答えるが、その実仏教に関してはほぼ何の知識も信条も持ち合わせていない、というのが正直なところだった。  後に彼がチャットの中で書いたように、「お前に話をするのは、壁に向かって話しているようなものだった」というのも、当然のことだったろう。私は私で、彼がなぜ普通の恋人同士のような愛の語らいをせず、一貫して “神とは” 、 “人生とは” 、とか、 “

          【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 7

          【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 6

           ――彼と出会ったばかりの頃、彼がイスラム教徒であるということを、さほど意識してはいなかった。私は日本人であり、建前上は仏教徒であったが、日本に暮らす他の多くの人々と同様、あまり宗教に対して高い意識を持っているわけではなかった。それどころか、日常生活において、教義とか信条といったものから、私はかけ離れたところにいた。そして、そういったことは、彼との付き合いの初めの頃には、あまりお互いの会話に上るものでもなかったのだった。  彼が 〝神〟 について初めて口にしたのは、モントリオ

          【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 6

          【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 5

           ――“Do you wanna see me? “ 私に会いたい? と問うたメッセージへの答えに、彼は “Yes” とだけ返してきた。  相変わらず言葉少なだな、と思いながらも、私の胸は高鳴っていた。  彼に泊まっているホテルの名を教え、正午に建物の前で待ち合わせをすることになった。彼は今、ナブール市の実家にいると言った。けれどナブールからチュニスに出て来るのは “造作ない” ことなのだそうだ。 “一時間ぐらいで着けるから” と、彼は言った。  正午までまだ二時間ほどあっ

          【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 5

          【エッセイ】 小説を書くこと=生きること

          小説を書くこと=生きること。 物語を書いていくと、明らかにモードが切り替わる。そして、その物語の中に自分でも入っていって、楽しくなる。 とはいえ、必ずしも〝楽しい話〟でなくてもいい。〝暗い話〟、〝エグい話〟、〝苦しい話〟でもかまわない。私は物語の中で活動することを心底楽しんでいる。 人生の中で色んなことをやってきたけれど、遂に「結局私のいるべき=いたいと願う場所はここなのかなあ」という思いに至った。 だからもう、そろそろ他のどんなことにも邪魔されない、物語だけにどっぷ

          【エッセイ】 小説を書くこと=生きること

          【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 4

           ホテルのメイン・レストランで朝食を摂っていると、隣の席の男性が声をかけてきた。おっとりした雰囲気の小柄なアジア人で、年齢は三十半ばといったところだろうか。こちらをほっとさせずにはおかない柔和な微笑みを湛えていた。 「洞窟のようなレストランですね」  男性はいきなりこう言った。そして、向かいの席に座ってもいいかと尋ねるように、椅子の背もたれに手をあてながらちらっとこちらを見た。 「どうぞ」  特に断る理由もなかった私は、軽い気持ちで彼の申し出に応えた。チュニスに着いて以来

          【長編小説】 チュニジアより愛をこめて 4

          今日はいいところで小説のプロットが書けた。 ちょっとすっきりしました! 😄

          今日はいいところで小説のプロットが書けた。 ちょっとすっきりしました! 😄