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優しい毒 5月9日〜365日の香水

TENDRE~やさしさの前提
フランス語の「TRNDRE」は柔らかさ、女性的なことを指すラテン語から派生していて、「柔らかい」「感情が豊かで優しい」の意味を持つ。
今日の香水、ディオールのタンドゥールプアゾン(dior/tendre poison)~優しい毒には、“前提となった香水”がある。
それは1980年代という時代を席巻したプワゾン(poison)。
プワゾンについては、大人たちがもてはやしていた記憶、香水の歴史を学べば必ず登場する存在であること、もらったサンプルが”記憶”と重る独特の香調・・・という点で、私にとってもインパクトのある香水の一つなのだ。

80年代の毒と90年代の毒
その後継として大ブームの10年後くらいに登場したのがTENDRE POISON~”優しい毒”だ。
80年代のプワゾンの後継という文脈でタンドゥール・プワゾンの”優しさ”を考えると、それはプワゾンの持っていたインパクト、自己主張、波及力を「柔らかく仕立て直した」ということになるのではないだろうか。
心がざわつくような毒性に対して、気持ちが柔らかくなるような優しい毒性。
そういう存在としてこの香水は誕生したのだろう。
TENDREの登場した90年代もまた、80年代のように女性に自立せよとまくしたてず、エコロジーや自然と共生する価値観の中にあった。

「伝説の継承」
80年代を制したといっていいプワゾンから10年を経て「TENDER」ヴァージョンを登場させた背景には、エコな時代を反映しつつ、プワゾンの斬新さや哲学を継承したい思いがあったのではと推測している。
プワゾンの存在感を継承していく目論見があったのだと考えている。

TRNDRE POISON/Dior/1994
その証拠になるのかどうか、調香師はプワゾンと同じエドワード・フレシェ(edouard flechier)だ。
POISONの名がつかなければ、フローラル系の香水としては、強い匂い立ちで重厚感のある部類に属する。先のような流れをくむと、グリーンシトラスのトップと、フリージアやチュベローズの豊潤なミドルのフローラル、バニラ系のベースノートの流れは、魅力的ではあるけれど、支配的ではない。香りに声高感はなく、冷静に優しい毒を味わえる感覚である。

別の生き方と自立
文脈を踏まえなければ「優しい毒」というネーミングそものもが矛盾を含みミステリアスで、そして優雅さと強さのある香調であるから、この香水には別の名前、別の生き方もあったのかもしれない。
少なくとも、登場以来、しっかりした支持と評価を獲得したのは事実。
時を経て、名前というバイアスのせいで、少し損をしている。
けれど、優しい毒は歴然と自立できている香水であることに変わりはない。

香り、思い、呼吸。

5月9日がお誕生日の方、記念日の方、おめでとうございます。

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