ウーロン茶のロン!

「ねえ、スピッツの曲でさ、主人公がコウモリになって彼女を攫う曲って何だっけ?」
『スパイダー?』
「それは蜘蛛でしょ」
『え、コウモリ…。あ、涙がキラリ☆? あれはー、主人公ふつうに人間でしょ』
「え、どんな曲か歌ってみてよ」
『同じなーみーだがキラリ』
「いや、話の流れ的に歌うならコウモリのところでしょ」
『目覚めてすぐのコウモリが飛びはじめる夕暮れに/バレないように連れ出すから カギは開けておいてよ』
「おお~」
『いや、おお~じゃねえよ。ほら、コウモリはただの時間帯を表す形容でしょ?』
「本当だね。やっぱ人間の思い込みって意外と強力なんだね」
『すぐ主語をでかくする癖をやめろ』
「この前もさ~、タツヒコ君?この前バーベキュー一緒にやった人なんだけど。名前登録するとき『タツってリュウですか?干支の方ですか?それともウーロン茶のロンですか?』って聞いたんだけどそれが全然違って。友達の”達”だったんだよねー」
『……今のはスピッツの話とどう繋がるんだよ』
「だから思い込みって怖いよねって」
『てか、タツヒコ君って男誰?バイトのシフトよく一緒になるって言ってた人?』
「いや、それはタツユキ君。」
『もう、タツユキ君だか、タツヒコ君だか、お母さん分かんないよ』
「いやいつから私の母親になったんだよ。あ!だから”タツ”が刷り込まれてたのか!あの人のタツ確かドラゴン系だったし」
『ドラゴン系って何だよ。その人ポケモン?』
「辰・竜・龍のどれかってこと」
『確信はないのに何で3択まで絞れてるんだよ』
「イメージ」
『イメージじゃん、結局。思い込みってことでしょ?それ』
「いや、バイト入ってくるとき履歴書を微かに見たのよ。多分ウーロン茶のロン」
『あとさっきからそのウーロン茶のロンって言い方やめろよ。龍の字面からしたらかなり役不足だぞ』
「この場合の役不足とは本来の意味であり、その者に与えられた役目が実力不相応に軽いことを言う」
「おい、”役不足”を作中でキャラに誤用させるか、断り書きを入れるかしないと使えない漫画家が俺は一番嫌いなんだよ」
「ウーロン茶のロンじゃなかったら、じゃあなんて言えばいいのよ。」
『難しい方のリュウ』
「難しいかどうかは人によるでしょ」
『じゃあアレだな、この漢字を説明するときはこう!みたいなのをもうルールとして二人の中で決めちゃえばいいんだな』
「無線で言う和文通話表みたいな?」
『何それ。急に知らない知識出されても困る』
「朝日のア!いろはのイ!」
『なるほど、そんなのがあったのね』
「英語のエー!」
『それは和文と言われててもAと迷いそう』
「…みたいなね」
『じゃあとりあえず次からは、タツは『中日の竜』『干支の辰』『神龍の龍』』
「結局読み方はロンなんかい。」

#小説 #短編

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