新釈・ぶんぶく茶釜


「うちの大学の学祭って行ったことある?」

昔むかし、とある大学に寺山ショウという名前の男がおりました。
「まだ行ったことないんですよ。去年は自分たちの学祭で模擬店出してたから忙しくて。それに、違う大学の学祭って、知り合いがいないと行きにくくないですか?」
彼は、サークルの友人に誘われた合コンで、一人の女性と出会いました。
「本当? 全然、俺でよければいつでも案内するよ。」
名前は鎌田マミ。白いブラウスに膝下丈・グレーチェックのジャンパースカート。髪はセミロングを緩く巻いており、いわゆる清楚系女子大生といった出で立ちです。
「本当ですか? A大の学祭っていつでしたっけ?」
「んー、まだ大分先なんだよね。」
正直なところ、寺山は彼女と恋仲になろうなどという下心は抱いていませんでした。ですが、「折角合コンに来たのだから」という意地と、「めったに知り合えないタイプの人だし」というもったいない精神から、最終的には連絡先を交換するにいたったのでした。

さて、それからというもの、寺山とマミはこまめに連絡をとり、ときに食事に行ったり映画に行ったりと、親しく交際するようになりました。
「お互いに確認し合った訳ではないが、これは付き合っているのではないか」
最初は下心のなかった寺山も、次第にそう思うようになっていったのです。

そんなある日、寺山はバイトの面接のために、学生街からは少し離れたオフィス街にいました。
用事を済ませ、昼食でも取ろうかと適当にウロウロしていると、交差点の向かいのカラオケ屋から、マミが出てくるのが遠目に見えました。
突然の休講か何かで、一人カラオケでもして時間を潰していたのか、などと考えましたが、どうやらそうではありません。なぜなら、後ろから続いて出てきた、どれほど若く見積もっても40代後半と見られる男と、いかにも仲よさげに話していたからです。
(父親・・・ではないよな)
年齢こそ親子のような二人でしたが、寺山には遠目ながらも、マミが男に対してどうやら媚態をふりまいているらしい、というのが感じられたようです。二人はカラオケ屋を出ると、そのまま手を振って別れて行きました。
今マミと一緒にカラオケから出てきた男性は誰なのでしょう。そして、マミの本性はどんな人物なのでしょう。気になった寺山は彼女の後を少しつけてみることにしました。

カラオケ屋で男と別れたマミが次に向かったのは、オシャレな喫茶店でした。本格的なアフタヌーンティーが楽しめる少し高級なお店であり、寺山のような貧乏男子大学生には無縁のお店です。そこで鎌田はなんと、また別の、50代前後と見られる男と落ち合い、二人で店の中へ入っていきました。

そのあと、喫茶店の男と別れたマミは、とっぷり日が暮れたあと大学の食堂へと戻って行きました。そして、今度は寺山よりも少し年上、大学院生と思われる男と落ち合い、その男が住んでいると思われるマンションの部屋へと入って行きました。
一部始終を目撃し、マミの本性を知ってしまった寺山は、呆然としてしまいました。

>そういえばこの前合コンにいた古道ってやつ覚えてる?

>そいつがマミちゃんと会いたいって言ってるんだけど、どうかな?

寺山はマミの正体が怖くなったので、自分はかかわるのをやめ、古道に"乗り換えて"もらおうと画策するようになりました。
古道は自他共に認める「遊び人」で、マミとももしかしたらその点で気が合うのだろうと、寺山は考えたのです。

マミは連絡を受け取ると、寺山がわざわざ別の男を自分に紹介するのは妙だとは思いつつも、そこまで寺山に執着するつもりもないので、古道と二人で会うことに決めました。
早速マミは古道に連絡します。

>古道くん久しぶり。
 今度一緒に映画でもどうかなあ?

そして二人のデートの日。映画を観終えた二人は、近くの喫茶店で過ごしています。
古道はコーヒーをすすると、唐突にこんなことを話し始めました。
「そういえば、この前連絡来たとき? アイコン見て思い出したんだけどさ。君、聡と付き合ってたマミって子と同一人物だよね? 合コンのときは店の照明も暗かったし、あんまり顔はっきり見えなくて全然気づかなかったけど、よくよく思い出してみたら、あのときボードゲームのサークルに入ってるって言ってたしさ。聡と同じサークルのことだよね? しかも、別れたときに聡から『あの女、サークルの男大概は食ってるらしい。あとパパ活とかもやってるらしい。とんだビッチだった』みたいなこと言ってたからさ。全然印象違うしまさかとは思ってたけど。たまたま聡のスマホの画面がチラッと見えたときにさ、目に入ったアイコンがそんな感じのだったなーって。」

「いや、そんで。こっからは俺の推測でしかないわけだけどさ。ショウ、あいつ、君の本性をどっかで気づいたんじゃないかな? 君他の男と街歩いてるところあいつに見られなかった? いや、記憶にないんならいいんだけどさ。そんで自分がかかわるの嫌になって、俺に紹介してきた…みたいな。だって、君みたいな可愛い子、わざわざ別の男に紹介するようなことするかな?」

「あ、言っとくけど別に。君の悪評をみんなにバラして、君の大学生活をめちゃくちゃにしてやろうなんて思ってるわけじゃないよ。そこは勘違いしないで。俺も"遊び人"みたいなイメージつけられて困ってるわけよ。なんか周りからの評判あんまよくなくて。だからさ、俺と君が、"表向き付き合ってる"ってことにしたいんだよね。そしたら、古道のやつも遊び人じゃなくなったか、って周りの評判もあがるだろうし。可愛い彼女みんなに自慢できるし。」

大体こんな感じのことを古道は言いました。
すべてを聞き終わると、マミはこう尋ねました。
「そうしたら私のこと、みんなに言わない?」
古道は応えます。
「もちろん」

それからというもの、古道とマミは"仮面カップル"として大学生活を送ることになりました。さて、今日はA大学の学祭当日。二人は堂々と手をつなぎながら学祭をめぐっています。
「古道のやつ、彼女できてから本当悪い噂聞かなくなったよな」
「なんか彼女にめっちゃ一途、って感じらしいよ」
「彼女もめちゃくちゃ可愛いよな」
「ほんとに。古道も顔いいから、ただただ美男美女カップルって感じ」
「ねー。眼福だよ」

こうして古道とマミは、誰もが羨むカップルを演じることで、華やかで幸せな大学生活を送りましたとさ。

おしまい。

#小説 #短編 #童話改作

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