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現代ならではの短編恋愛小説「いつもの朝に彩を」

目の前で微笑んでいる君を守りたいと思った。
世間にどう思われようがずっと一緒にいたい。
望んだことはただそれだけだったのに。


1
北条あおいはいつものように朝7時半に起きた。
まだ眠たい目を擦り、部屋を出てリビングへ向かう。
リビングへ向かうとパンと目玉焼きとサラダが置いてあった。いつも通りの朝。


大学に入学した時は、新たな出会いや新たな発見に胸を膨らませていたが実際、2年も通うとそんな大学生活もだれてくる。

「あおい。あんたももう二十歳なんだから!そんな親に甘えてないでさっさとご飯食べて出かけなさい」
朝から親の甲高い声と説教を聞くのがあおいにとって苦痛でしかなかった。

母の北条よしえはそろそろ五十代を迎える。
そこそこプライドが高く、家柄なども気にし、何かしら世間の目を気にしている性格。その為だらしないあおいにいつもきつくあっている。

「いってきまーす」
ご飯も食べ終わり、朝の支度を終え、あおいは家を出ようとした時、玄関先でよしえに呼び止められた。
「ちょっとあんた!そんな格好で出かけるの?大学生なんだからもうちょっとおしゃれしていきなさいよ!」
確かにあおいの格好はジーパンにTシャツと言う大学生にとったら少し地味な格好だが、あおいは今時のファッションなんて興味がなかった。最近は韓流系のファッションがトレンドらしいがいまいちそれの格好良さがあおいにはわからないし、やってみようとも思わなかった。
それに大学に行くだけだからそこまで服にこだわりを持っていく必要性もあおいには感じられない。
「良いんだよ!こんくらいで!大学に行くだけなんだし。服のことまでいちいち文句言ってこないで!」
あおいはそう言い残し、何か言いたそうな母親を無視して家を出た。

家から駅まで歩き、そこから電車に乗って、バスへ乗る。これが大学までの道のり。毎日同じ時刻の電車に乗って毎日同じような顔ぶれの人たちが電車に乗っている。「もしこれが漫画の世界で、運命的に出会った誰かが話しかけてくれるならな。。。」と毎日あおいは思っている。

電車に乗りながら、あおいは自分のスマートフォンを確認すると、大学のLINEグループに何件かLINEが入っていた。
『今日の小テストの勉強した?』
『いや、 してない』
『だよなwww あおいも勿論やってなよな?』
いつも大学で連んでる仲の良い二人からのLINEだった。あおいの行っている大学は決して頭が良いとは言えない大学で、毎日こんなような会話の連続。

『いやー、昨日はそのまま寝落ちしちゃってやってないよ 。流石にまずい。。。』
LINEで言われたように勿論あおいもやってない
『だよなwww まぁなんとかなるっしょw』
いつもそう
「なんとかなるっしょ」
こうしてあおいの一日は始まる。

大学の教室に着くとさっきまでLINEをしていた二人がいた。

センターに分かれた髪型で如何にも「最近の大学生」って感じのお調子者のタツヤとちょっと大人しめで眼鏡をかけ、頭が良さそうな見た目のカイト。二人とは大学一年の時、偶々授業が同じでそこで仲良くなった。詳しいことはあおいも忘れた。

タツヤは、「ここだよ!ここ!」とあおいの分の席も取ってくれていた。
遅刻ギリギリ。あおいはいつも授業が始まる時間に教室へ入っていく。
タツヤが取ってくれていた席に座り、三人並んで授業を受ける。
「お前いつも遅刻ギリギリだな」
タツヤがおちょくるようにあおいに言ってきた。
「良いんだよ!そんなの!間に合えば関係ない」
あおいは笑って答えたもののこの遅刻癖を直したいといつも思っていた。
しかし、中々自分の中のルーティンは変えられない。

これが現実だ。

午前中の授業も終わり、三人で仲良く大学の食堂でご飯を食べていた。
タツヤは唐揚げ丼、カイトはコンビニおにぎり、そしてあおいは素うどん。
毎日昼食のメニューを変えるほどあおい達にはお金がなかった。
いつものように食堂でご飯を食べているとカイトが手を止めた。
「あっ、あれ」
あおいもカイトが指差した方に目を向けるとそこには一際目立つ女子学生の姿があった。
滝沢れいな。
この大学で最も可愛いと言われている女子学生だ。大きな目と掻き上げた前髪。ウェーブのかかっている茶髪を際立出せるような綺麗なメイク。身長も男子にとって理想的。
「あっタツヤ!」
れいなは食堂を歩いているとこちらに気が付き手を振りながら歩み寄ってきた。

そう、そしてタツヤの彼女でもある。

タツヤは整った顔立ちから大学では結構モテていた。なので、人気のある二人が付き合ったと言って文句を言うやつなんていなかった。
「おぉれいなか」
あおい達とは違って学生のマドンナを目の前にしても唐揚げ丼から目を離さないタツヤは流石彼氏だ。
タツヤとれいな。二人がイチャついているのを横目にカイトとあおいは再びご飯を食べ始めた。

あおいもれいなのような恋人が欲しいと心底思っていた。

「あんた本当に良いよね。あんなに可愛い彼女がいて」
二人が話終え、れいながタツヤの元を離れて行った後、不貞腐れたようにあおいが言った。
「いやでも色々大変だよ。お前らも作れば良いじゃん、恋人」
「作れるもんならとっくに作ってるわ!」
冗談めかしに言ったもののタツヤは元々イケメンと言うこともあって我々のモテなさを知らないんだとあおいは内心思っていた。
「あっでもカイトもそろそろ彼女出来そうなんだっけ?」
「!?」
あおいにとってそれは初耳だった。
「まぁまだよくわからないけど、何回か二人で出掛けて良い感じよ」
少し恥ずかしがりながらカイトが言った。
「え、待って知らないんだけど。だれ?」
我々は彼女が出来ない同士仲良く行こうとカイトに対して勝手に思っていたことで動揺を隠しきれずにあおいは聞いた。
「あぁー言ってなかったっけ?バイトの先輩らしいよ。写真見せてもらったけどめちゃ可愛いの!」
大学二年にもなり、未だ良い出会いがないあおいにとって「カイトに彼女ができそう」と言う事実は衝撃的だった。

あおいは二人と話しているうちになんだか二人に置いていかれた気分になっていった。

そんな話をしているうちに昼食の時間は終わっていった。

午後の授業もこれっと言った出来事がなく、気がつけばあっという間に一日が過ぎていた。

6時半頃、あおいは家へ帰宅した。
帰宅するとよしえは晩ご飯を作っていた。
あおいはご飯ができるまでリビングでスマホを見ながらご飯を待つ。

いつもの生活を繰り返す。

これが大学生の実態だ。


夜ご飯を食べている時、父親のタカフミがあおいに声をかけてきた。

タカフミは、大手会社の銀行員で堅物な人間。普段は無口であまり笑わないしそもそも感情を表に出さない。なので、あおいは何を考えているかわからない父親に対して少し苦手意識を持っていた。
そんな父親から話しかけられ、あおいは内心ドキッとしていた。
「最近調子はどうなんだ?」
ご飯から目を離さずあおいに聞いてきた。
「いや、別に、特にこれって言うことはないよ」
だからあおいも素っ気なく答えた。

家族関係は悪くはないけど、あおいが口うるさい母親や無表情な父親に対して苦手意識を持っていることもあってなんだか微妙な関係になっている。

あおいはさっさとご飯を食べ終え、逃げるように風呂に入り、寝るまでまたスマホをいじる。

大学生になってこんな毎日を過ごしていたら気がつけば大学二年生になっていた。

あおいはつまらない日常に花を咲かせたかった。

2
ある日、北条あおいはいつもの三人で久しぶりに大学の近くで飲んでいた。
一学期のテスト期間などもあり中々集まれなかった反動もあり、あおいは結構酔っ払っていた。
蒸し暑い夏の夜。
みんなと別れて最寄り駅を降りて改札を出ようとした。
「やめてください!」
ふと女性が強く拒絶するような声が聞こえてきた。
あおいは酔っ払った頭で声の主の方を見てみると、小柄な女性がスーツ姿のおじさんに絡まれていた。
いわゆるナンパだ。
おじさんは拒絶する女性に無理に距離を詰めていた。
そんな男女のやり取りを改札から続々と出てくる人たちは横目に見ながら目の前を通り過ぎていった。
みんな面倒事に絡まれたくない。
あおいもいつもなら周りの人間と同じように目の前を通り過ぎようとした。
しかし、この日は酔っ払って気が強くなっていることもあり、スーツ姿の男性に話しかけにいった。
「その子嫌がっているじゃないですか?」
見た目は冷静そうに声をかけにいったがなんだかんだで内心はびびっていた。
「あぁ?なんだお前?お前も一緒に行きたいのか?」
挑発気味に酒臭い男はあおいに言ってきてあおいは少し怖気づいた。気がつくと、さっきの女性はあおいの腕にしがみついていた。そこであおいは引き下がれずそのまま強気で男へ言い返した。
「は?何言ってんの?お前そんな歳にもなって若い子をナンパとかまじ笑えるんですけど」
男はその言葉に激怒し、あおい達へ大声で怒鳴り散らしてきた。
あおいも腕の中の女性もその態度が怖かったが、しばらくすると男性の怒号に気がついた駅員がこちらへ走ってきた。
男性はそこで我に返り逃げて行った。

あおいはほっとした気持ちでいっぱいだった。
あおいの右腕が痛いことに気がついた。見るとナンパされていた女性があおいの右腕をぎっしり掴んでいた。その子の大きな目は涙目ですぐにでも泣き出してしまいそうな勢いだ。そんな女性をあおいが見ていると、女性はあおいに気がつきハッとした表情とともにあおいの腕を離した。少しまだ腕の痛みと温もりが抜けないがあおいはその子を見てそれらを忘れてた。
その子はテレビから出てきたアイドルのような顔立ちでなにより可愛いと言うのが第一印象だった。これは運命なのか。
「助けていただき、ありがとうございました」
女性はペコリと頭を下げて、急ぎ足であおいから離れて行った。
そう簡単には物事うまくいかないか。
あおいはそう思いながら、あおいも駅から離れて行った。
その日、家に帰っていつもの二人に『今日めちゃ可愛い子に会ったわ、まるで天使みたいだった』とLINEを送った。
その時にはもうあおいはその子の顔を忘れていたけど。


数日後、家へ帰ろうと駅の改札を出ようとしていた時、ある一人の女性があおいのことをずっと見ていた。あおいは不審がって早足に女性の前を通り過ぎようとした。
「あの、この前の人ですよね?」
「。。。」
急にその女性が声をかけてきた。あおいはどの人だったのかいまいち思い出せないでいると、女性は頬を赤くして焦り始めていた。
「あ、すみません!人違いでした」
そう女性は言い残しその場を去ろうとした時、あおいはこの女性が誰だか思い出した。
そう例の女性。この前ナンパされていた女性。
思い出した途端、あおいは彼女を呼び止めた。
「あ!この前のナンパされていた人ですよね!」
女性は耳を赤くして振り返った。
そんな彼女の姿が愛おしく思えた。

「この前は助けていただきありがとうございました。あの時は急いでいたのでお礼がちゃんと出来なかったので、お礼をしにきました。またこの駅にいたら会えるかなと思って待っていました。急に話しかけてすみません。」
早口に言う彼女。目の前にいる彼女を改めて見ても可愛いと思えた。あの時の認識は間違っていない。
「いや、そんな全然大したことないじゃないですよ。あの時お酒を飲んでいてもうどうにでもなれーって感じで。」
彼女と話せることが嬉しいくて恥ずかしくて。自分が今ひどいニヤケ顔をしているのだろう。あおいの頭は真っ白だった。
しかし、あおいの言葉に彼女は笑ってくれた。それがとても嬉しかった。
「あの、是非この前のお礼がしたいので少し時間ありますか?」
彼女からの提案にあおいはぶんぶんと縦に頭を振った。

彼女と近くのファミレスに行って色々話した。
彼女は白雪すず。
あおいの一つ下の大学一年生。名前と顔がよく似合う女の子だ。
あおいの家の近くにある大学に通っているらしい。その為よくあの駅を使っている。
すずは天然なのか初対面のあおいに色々な情報を教えてくれる。
今の大学についてや、趣味について。
目の前で大きな目と小さな口をよく動かしながら話す、すずの表情は面白かった。
いつまでのこんな時間が続けばいいのに。
あおいはそう感じていた。

話しているうちに気がついたことだがあおいとすずは初対面であったがよく話があった。趣味の映画鑑賞のことや散歩が好きなこと。
あおいはこうしてもう一度出会えて、趣味の合う可愛い女の子に対して運命を感じざる終えなかった。話は尽きることなく気がつけば3時間は経っていた。
あおいはそろそろ帰ろうかとすずに提案した時、すずから「連絡先交換しませんか?」と提案してきた。もちろん喜んで交換をした。
すずはあおいがトイレに立っている間にお会計を済ませていて、なんだかあおいがみっともない形になってしまった。

すずと別れ、家に帰るとすずから連絡が来ていた。
『今日はありがとうございました。とても楽しかったです。』
あおいは少しドキドキしながら
『いえいえこちらこそありがとうございました。また是非お話ししたいです』
と返信をして、すぐスマホから離れた。送ってしまった感と彼女の返事が少し怖かった。
しかし返信はすぐにきて
『えぇ!嬉しいです。私もまた会いたいです』
その一言であおいはニヤけた。

いつも同じことの繰り返しの毎日が段々と彩り始めていった。

3
「お前、最近嬉しそうだな」
学校の食堂でタツヤが最近のあおいの様子を見て行ってきた。
北条あおいは最近、楽しい。
理由はただ一つ白雪すずとの関係だ。
すずとはあれ以降度々連絡を取り合う仲にまで進展した。近いうちに遊ぼうと計画立てているがお互い今は学校などで忙しくて会えていない。
「楽しいよ!」
あおいは笑顔で答えた。
「あ、例の天使?」
カイトは鋭い。

すずと話した後、嬉しくてすぐにタツヤとカイトに連絡をした。二人は「すげーそんなことあるんだ」と驚いた様子だった。あおいも同じことを思っていた。でも何度携帯を見返しても、すずの連絡先がある。これは現実。そう噛み締めていた。

「そうそう、この前会った子!すごい可愛いくて良い子だった。今でも連絡取ってる」
「おぉいいね!」
二人はあおいの恋愛沙汰にすごく喜んでくれている。その反応があおいをもっと嬉しい気持ちにさせている。
「んで、二人で出かけたの?」
女慣れしているタツヤがニヤニヤしている。
「いやーそれがまだなんだよね。あっちも今忙しいらしくて。でも絶対また会おうって約束しているんだ。それでさ、二人にお願いなんだけど、今度服選んで欲しい!」
あおいの提案に二人は驚いたようにお互いに顔を見合わせた。しかし、笑顔でその提案を引き受けてくれた。
「あおいがそんなこと言うなんて珍しいね」
普段大人しそうにしているカイトが最近はやけにテンションが高い。
カイトも最近例のバイトの先輩と付き合えたらしい。そのため、カイトからすごく惚気話を聞かされている。あおいも負けていられない。
「お前もついにおしゃれに目覚めたのか」
タツヤがおちょくるようにあおいを見ている。
「なんだよ!悪いかよ!せっかく運命的な出会いをしたんだ。気合い入るだろ!」
タツヤがおちょくりたくなる気持ちもわかる。あおいは最近まで全然自分の見た目を気にすることはなかった。しかし、すずと会ってからトイレに行くたびに鏡見るくらい自分の見た目を気にし始めている。

そんな風に話していると滝沢れいながこちらへ近づいてきた。れいなはいつもタツヤに気がつくとどことなく近づいてくる。それだけタツヤに夢中だ。
「何話してるの?」
あおい達が盛り上がっていたせいか今日は珍しくれいながあおい達に話しかけてきた。
「いや、最近あおいが恋してるって言うからさ。それの話題よ」
「そっか」
れいなはこの話題に興味があるのかないのかわからないくらい素っ気なく答えた。
「そんで、今度こいつの服を三人で買いに行こうって話をしててさ」
タツヤがれいなにそう言った時、れいなは大きな目を見開き、驚いた顔をして、普段あまり話さないあおいの肩を掴んだ。
「あおいさん!正直私は今のあなたに対して魅力を感じない」
この一言はあおいにとってショックだったが次の一言にあおいは驚きを隠せなかった。
「だから、私があなたをプロデュースする。あなたは素材は良いと思うの。ずっと前からそう思ってた。だから私も一緒に行きたい!」
突然のことにあおいは少し思考が追いついてこなかったが、れいなの本気の目を見て、「よろしくお願いします」と提案を引き受けた。
こうしてあおいとれいな、タツヤとカイトでショッピングをすることになった。

あおいはすずと出会って良いことが続いている。
そう感じていた。

その夜、あおいはテンション高めですずに連絡した。
『今日良いことがあったんだ』
『えぇどんなこと?』
『あまり詳しいことは言えないけど、普段あまり話さない子から一緒に出かけようって』
『えっ?』
『ん?』
あおいの返信を最後にすずとの会話が途切れてしまった。あおいは何かまずいことをしたのか心配するとすずからしばらくして返信が返ってきた。
『それは、女の子?』
すずが何で返信してこなかったのか大体想像がついた。あおいはすずに嫉妬してもらいたいとちょっと思った。
『まぁ、うん』
また返信が途切れた。
『二人?』
今度はあおいが返信を途切れさせた。
ちょっと意地悪しすぎたかな。
『いや、四人くらい、男子もいるよ』
『なんだ、良かった』
今度はすぐに返信が返ってきた。
会ってから毎日のように連絡を取り合っていて、段々と二人の距離が縮まっているのをあおいは感じていた。
だからこそ少し意地悪をしてみたかった。
あおいはニヤニヤしながら携帯を見ていると急に電話が鳴り出した。
すずからだった。
急な電話であおいはドキドキしながら電話に出た。
「バカァ」
そう一言呟きすずは電話を切った。

その後、あおいの心臓は鳴り止まなかった。

4
セミが鳴り止まない八月。
いよいよ本格的に夏休みが始まった。

ショッピングを約束した日。
北条あおいと滝沢れいなはタツヤとカイトが来る少し前に集まり、カフェで話していた。
あれからあおいとれいなは距離が縮まった。
れいなはあおいに話しかけてみたかったが、中々勇気が出なくて話しかけられなかったと言っていた。
だから二人が来る前にあおいとご飯を食べたいと提案したのはれいなからだった。
今日のれいなは、白いTシャツに少しダボっとしたGパンのシンプルな格好だった。しかし、彼女のスタイルの良さが相まってお洒落に見える。あおいが同じ格好したら地味な格好になってしまう。顔が良いって良いな。あおいはれいなを見ながら、つくづく思っていた。
あおいは彼女に対して、クールでいつも上から目線で物事を見てそう。そんなイメージを持っていたが、いざこうやって二人で話してみると、彼女は結構お茶目でよく話し、笑う子という印象へ変わっていった。

「滝沢さんってやっぱスタイル良いよね。今日の格好とかすごく似合ってるもん」
彼女の格好に対して、シンプルな感想を言った。
「れいなって呼んで。私もあおいって呼ぶから。そんで、あおいも格好次第ではすごく良くなると思うよ」
「本当に?」
れいなは、思ってる以上に話しやすい。これも彼女への印象に新たに加えておこう。

あおいは、れいなにそう言われて嬉しかった。彼女がそう思っていたなんて想像もしていなかったから。
「ところでさ、例の彼女はどんな子なの?」
れいなが目を輝かせながら尋ねてきた。れいなはこう言った話が好きなんだろう。この時のれいなは子どもっぽく見えた。
「凄く可愛いよ。背も小さくて、目がクリクリしてて、口も小さい。まるでアイドル。いや、天から舞い降りた天使って感じかな」
「ははっ」
れいなは声をあげて笑っていた。
「凄く彼女が好きなのね。良い感じなの?」
その質問に対して、あおいはこの前の出来事を話した。
れいなは、目を細めてにこやかに聞いていた。

二人で話していると、タツヤから連絡があってカイトとタツヤと合流した。
その後はみんなで色んな洋服店を回った。
みんなとのショッピングは楽しかった。
全てが初めてだらけだった。
カッコ良い系からちょっと可愛い系まで。
みんながこれ着て、あれ着てと言うので、あおいは言われるがまま全部着て、気に入ったやつを何着か買った。
店員や他のお客さんが時々こちらを見ていたがみんなはその目を気にすることなく、色々服を持ってきた。
服に加えて、ヘアジェルやワックス、腕のアクセサリーなども買った。
「ピアスも開けてみれば?」と最近ピアスを開けて、彼女とお揃いのピアスをつけているカイトに言われたが、ピアスを開けるのは少し怖かったからピアスは遠慮した。

「今日買った服を着ていけば、とりあえず服には困らないよ。」みんなが口を揃えてそう言ってくれた。あおいは三人に対して感謝の気持ちでいっぱいだった。

大きな荷物を持ちながら、少しスキップをし、あおいは家に着いた。
家に着き、部屋で今日の服を見ていると、北条よしえがあおいの部屋に入ってきた。
「あら、今日服を買いに行ったのね」
いきなり部屋に入ってきたよしえはなんだか不服そうに今日の服を見ていた。
「あんた、こんな服買ってきて。そんな服よりこれを着なさい」
よしえも今日あおいのために服を買ってきてくれていた。
しかし、あおいはよしえの買ってきた服を見たが、シンプルに好みじゃなかった。
それにせっかくみんなが選んでくれた思い出のある服なのにさっきの言い方が腹立つ。
「何その言い方?」
あおいは苛立ちを隠せずによしえに言った。
「何も意味はありません。」
よしえは何も悪気のなさそうに対抗してきた。
「うざいから、さっさと出ていって」
「何よ、それが親に対しての言葉ですか?」
「うるさい!出ていって!」
あおいは強引によしえを部屋の外へ出した。
よしえは何か言い返そうとしていたが、何も言わせず部屋から出した。そしてあおいは扉の前で座り込み両手で顔を隠すように静かに泣いた。大学生にもなって親と喧嘩して泣くのはみっともないと思っていたが、泣かざる終えなかった。
それだけ今日の思い出を踏み躙られたことが許せなかった。

皮肉にもあおいが顔を上げた時、よしえが買ってきた服が目についた。

5
『明日楽しみだね』
白雪すずから連絡きていた。
暑さが続く八月中旬。
いよいよ明日はすずと出かける。
北条あおいも明日に向けて気合いが入っている。
明日は、すずがずっと見たいって言ってた映画を見て、それからご飯を食べて帰る。それだけなのに心臓が鳴り止むことを知らない。
この前みんなと買った洋服の中から特に気に入った服を明日は着ていこう。明日のデートの妄想をしていると笑いが止まらなかった。

色々準備をしていると、あおいは急にお腹が空いてきた。時間を見ると22時ちょっと過ぎ。寝れば問題ないのだが、興奮して寝れるわけがない。コンビニでも行って軽く何かを買ってこようと全身ジャージ姿になって家を出ようとした。

玄関まで行くと、偶々よしえに会った。
この前の買い物以来、よしえとはまともに話せていない。
「あんた、こんな時間にそんな格好でどこ行くの?」
「ちょっとコンビニ行くだけだよ。なんか文句ある?」
一瞬無視して出て行こうと思ったが、あおいは何となく罪悪感を感じて話してしまった。
「そんな格好で?あんたもうちょっと違う服とかなかったの?近所の人からどんな目で見られるかわからないのよ」
また服の話。もういい加減にしてくれ。
あおいはやっぱ無視して家を出た。

6
次の日の朝。
あおいはいつもより早く起きた。
時刻は6時半。
待ち合わせ時間まであと6時間以上もある。
ソワソワしてる心を鎮めようと少し散歩に出た。
あおいは近くの公園まで行くとラジオ体操をしているおじさんおばさんがいた。
朝から元気に鳴いているセミ。健康のために体を動かしている近所の人。
あおいはそんな人たちを見ながらベンチに座った。
ラジオ体操を見ていると一人のおばさんが話しかけてきた。
「おはようございます」
優しい声で声をかけられた。
「あ、おはようございます」
急に声をかけられたことでぶっきらぼうに答えてしまった。
「若い子が朝から公園に来るなんて、えらいねえ」
「いや、そんなことないですよ」
ちょっとしたことでも朝から褒められると気分も良くなる。
「えらいわよ、うちの孫もあなたと同じくらいの年齢なんだけど、昼まで起きないわよ」
まぁ、大学生あるあるですね。
「そ、そんなんですね」
いつもの休日のあおいを言われているようでなんと答えていいかわからなかった。
「あら、あなたよく見たら北条さんの、、、」
あおいの顔をよく見ておばさんは思い出したように言ってきた。
「あ、どもー」
あおいはおばさんが誰なのかいまいち思い出せなかった。
おばさんと話終え、家へ帰ろうとした時携帯を見ると、滝沢れいなから連絡が入っていた。
『今日は頑張ってね』
そのメッセージとともにキャラクターがグッジョブしているスタンプも送ってきていた。
れいなには感謝しかなかった。
『ありがとー、頑張るよ』
そうメッセージを送ってあおいは公園から出て帰った。

7
待ち合わせの映画館の前。
北条あおいは楽しみと不安で立っていた。
家を出る時、よしえに会わなくて、ラッキーと思いながら家を出た。今日のあおいの格好を見たらきっとよしえは目の色を変えて怒ってくるだろう。
あおいは今日、長ズボンにTシャツ、紺のジャケットと言うシンプルな格好だが、この前買ったアクセサリーや滝沢れいなに教えてもらった髪型のセットなどもしてカッコ良く決まっていた。
待ち合わせ時間より少し早めに着いて、ウロウロしていた。気持ちが落ち着かない。
すると、白雪すずから連絡があった。
『ごめん、もうすぐで着く』
胸が高鳴った。
もうすぐで来る。
そう考えただけで恥ずかしさで今すぐ帰りたくなった。
携帯と周りを交互に見ながら、立っていると遠くの方で見覚えのある顔が近づいてきた。
すずだ。
デニムサロペットスカートに白のTシャツ。ハーフアップの髪型と言う彼女に似合う格好だった。
「お待たせ」
暑いせいかすずの顔が少し赤くなっている。
「今日の映画楽しみだね」
ワクワクしている彼女の姿も愛おしかった。
「時間ないし、行こっか」
あおいは、高鳴ってる内心を押さえてさりげなくすずの手を引っ張った。
すずは何も言わず、あおいの手を握ったまま後ろをついて来ていた。
すずがどんな顔をしているかを見ている余裕はあおいにはなかった。
でも、自分の顔は耳まで真っ赤になっていることは知っていた。

ずっと見たかった映画のは確かだ。
それをたまたますずも観たいって言ったから一緒に観に行こうってなって一緒に観にきた。
しかし、映画の内容が全く頭に入ってこない。
あおいは左にいる天使の姿に気を取られて映画に集中出来なかった。
彼女は場面場面で様々な表情を見せながら映画を見ていた。
そんな彼女に夢中で映画を見ていられなかった。
後日タツヤとかと一緒にくればいいやとあおいは開き直っていた。

「映画面白かったね」
映画館の近くにあるちょっと雰囲気のあるレストラン。二人で食べている時、すずが満面の笑みで言ってきた。
この笑顔を守りたい。
「うん、面白かったね」
だからあおいは嘘をついた。
「特にさ、主人公が、、、」
こっからは全く話についていけず、ただ話を合わせて相槌を打つようにした。言われるがまま相槌を打っていたらすずが不思議そうな顔でこっちを見てきた。
「あんまり面白くなかった?」
「いいや、そんなことないよ!」
そろそろ話を合わせるのにキツくなってきた時すずが切り出してきたから焦っていた。
あおいはこれ以上彼女に惨めな思いをさせてはいけないと思い、正直に答えた。
「ごめん、本当はあんまり見てなかった」
すずは少し悲しそうな顔になったのがあおいでもわかった。
「すずのことが気になってて、ずっとすずと出かけたいって思ってたから、映画の内容入ってこなかった」
すずは顔を俯けてしまった。
「ごめん、本当に」
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。幻滅された。そう思った。
「そんなこと言わないでよ、もっと上手い嘘をついてよ。恥ずかしいじゃん」
顔を上げたすずは顔を赤くしていた。
「あおいが見てないことなんて少し気がついてた。だから少し意地悪しようと思ってたのにカウンターくらっちゃったよ」
彼女があおいを見つめてきて、あおいはニヤけてしまった。ただ、ただ嬉しかった。

二人歩く帰り道。
夜はもう更けているのに、街はまだ明るかった。
レストランから出て、駅に向かうわけでもなく二人並んで他愛のない話をしながらぶらぶら歩いていた。
目的地もなく。ただ歩いていた。
まだ帰りたくない。ずっとこの時間が続けばいいのに。
そんな思いからあおいはすずと街中を歩いていた。きっとすずも同じ気持ちだろう。
しばらく歩いていると、小さな公園を見つけた。
そこで、すずは子どものようにはしゃぎ
「ねねぇ!ブランコ」
と言ってブランコの方に走っていった。
あおいも置いていかれないようにすずの隣のブランコに乗った。
「私、子どもの時からブランコ好きだったんだよね」
そう言いながらあおいはブランコをギコギコ漕いでいた。
もうここしかない。あおいは思った。
「すぅ、すず!」
思ってた以上の声が出てしまい、すずも驚いた表情でブランコを止めた。
「どうしたの?」
すずの声はいつも以上に甘さを感じた。
「あのさ、初めて駅で会って最初はすぐこの関係も終わるだろうって思ってた。でも段々とすずに惹かれてこの関係を終わらせたくないって思った。だからさ、すず。付き合って欲しい」
心臓が飛び出そうだった。口を押さえてないと心臓が出てきそうなほど、胸がドクンドクンとなっていた。
すずは一瞬目を見開き驚いていたが、その目を細め笑みを浮かべて
「こちらこそよろしくお願いします」
と言った。

そして、二人。何も言葉をかわすことなく人気のない公園で抱き合った。

8
あおいとすずが付き合ったことに最初はみんなびっくりしていた。
でも、みんなおめでとうってお祝いしてくれた。
退屈だった大学生活もすずと付き合ったことで、楽しく感じられた。
今まで、遅刻ギリギリに登校していたあおいは今では10分前に教室に入れるくらいだ。
学校が終われば、すずと会って話したり、ご飯食べたりする。

無色だった毎日が、すずと出会ったことで彩を感じるようになっていった。

9
ある日、あおいは思い切ってすずを家に呼ぶことにした。部屋も汚く、あまり呼びたくなかったけど、やっと部屋も片付け人を呼べるようになっていた。

いつものように、学校終わりにあおいの最寄り駅に待ち合わせて二人は家へ向かった。
途中でコンビニに寄ってお菓子やジュースを買いながら和気あいあいとあおいの家に向かっていた。
「あおい、ちゃんと部屋片付けたの?」
おちょくるようにすずが言った。
「もちろん!大丈夫だよ!ちゃんと片付けた」
「そっか」
そう言いながら、すずはあおいの腕に絡み付いた。

家に着き玄関を開けた。
玄関を開けると、よしえがリビングから顔を出した。
いつも怖い顔をしているよしえはすずが来てたことによって、穏やかな顔になった。
「あらお友達?」
いつものよしえでは考えられないほど優しい声で問いかけた。
あおいは無視をして部屋へ行こうとしたが、「それは良くないよ」とすずが言って、すずはよしえに向かって挨拶をした。
「はじめまして。あおいさんとお付き合いさせていただいてます。白雪すずです。これつまらない物ですが、どうぞ食べてください」
あおいと会った時からずっと手に持っていたお菓子を差し出した。
すると、よしえは目くじらを立てながらこちらに歩んできて、すずが買ってきてくれたお菓子をはたき落とし、あおいに向かって思いっきりビンタをした。


「あんた!女の子でしょ!」

10
北条あおいは女である。でも白雪すずに恋をして付き合ったのは紛れもない事実。よしえが何に対して怒っているのかあおいには理解できなかった。好きな人と付き合って家に呼んだ。これのどこが悪いと言うのだ。

「あんた、最近機嫌が良いから恋人ができたことは何となくわかっていました。でもいざ蓋を開けてみれば、何が付き合ってるですか。女の子同士で付き合うなんてありえません。女の子はね普通、男の子と付き合うの。わかる?だから、こんな交際なんて認めません」

よしえは玄関先であおいに向かって怒鳴り散らかした。
あおいは女と最初から知っていてもすずを好きになった。ただそれだけなのに。
あおいは、気がつけば目の前が見えなくなっていた。涙が止まらなかった。
あおいは逃げるように家を出ていった。

11
家に一人取り残されたすず。すずは何も言わずよしえに一礼し、あおいの後を追った。
すずはあおいを探し回った。
さっき行ったコンビニやあおいの家の近くにあった公園。どこに行ってもあおいの姿を見つけられなかった。連絡しても繋がらない。
しばらく探し回った後、すずは最後に駅へ向かった。しかし駅のどこを見渡してもあおいの姿は見えなかった。もう遠くへ行ったのか。そう思いながら、改札へ入った。改札を抜けてホームに立つとホームにあるベンチにあおいの姿が見えた。すずは急いであおいのいる方へ走っていった。
すずがあおいの元へたどり着きあおいの姿を確認した。あおいは、項垂れるように頭を抱え込んでベンチに座っていた。
すずは静かにあおいの隣に座った。

12
「あおい?」
すずの声がした。でも顔をあげられない。まずすずにどんな顔をしていいかあおいにはわからなかった。
そもそも何が悪かったのか。
タツヤやカイト、れいな。
周りの人がそうであるようにただ好きな人と付き合っただけ。
それだけなのに。どうして。
あおいは思い悩んでいると、すずは静かに語り出した。

「あおい、このまま二人でどこか遠くへ行こっか?」
あおいは妙な提案をしてきた。
「あおい、あのね私別に女の子が好きってわけでもないんだよ。初恋の相手は男の子だったし。でもね、あの日ナンパされている私を助けてくれたあおいを私は好きになったの。私も自分の気持ちに最初驚いた。でも、ね、私はあおいが好き。男の子とか女の子とか関係なく。あおいが好き。だからさ、認められないなら二人でどこかへ行こうよ。このまま電車に乗って。誰にも何も言われないところへ」
丁度その時電車が来た。すずは立ち上がってあおいの目の前に立った。あおいは顔を上げるとすずは優しく微笑みながらあおいに手を差し伸ばした。
「あおい、行こ?」
あおいは、すずの手を握った。
二人が乗った電車は、駅を後にした。


エピローグ
「あおい起きなさい!」
眩しい朝、あおいを呼ぶ声であおいは目覚めた。
7時半いつもの朝。
今日は会社説明会。
あおいは気がつけば、大学四年生になっていた。
「もういつまで寝てるの?」
あおいを起こそうと一人の女性が部屋に入ってきた。
「すずぅ、もう少しだけ」
「だめ、遅刻するよ」

あれからあおいは家に帰っていない。父親のタカフミが気を遣って一人暮らしをするための部屋を借りてくれた。タカフミが部屋を借りている間、あおいはすずの家に泊まっていた。すずの両親は最初は驚いたもののあおいを受け入れた。

一方北条家と言うと。
あの後あおいの携帯にタカフミから電話がかかってきた。あおいはあまり気が進まなかったが、タカフミからと言うこともあり、これが最後と言うことでその電話に出た。
タカフミはよしえからなんとなく事情を聞いていた。
「俺にとって可愛い娘だ。娘が誰を好きになろうと構わない。それを応援するのが俺の役目だ。しかし、お母さんは違うそうだ。お母さんはまだ理解できないって言うことも知っておいて欲しい」
タカフミは怒りもせず、いつもの声でと淡々と話していた。それから色々今後について話し最後に「その子を大切にしなさい」と言って電話を切った。

あおいが起き上がり、ご飯を食べて着替えはじめた。今日はスーツ。部屋着を脱ぎ、下着姿でスーツを探していた。すずが用意してくれたスーツに着替え始めた。スーツは丁度ぴったしでばっしりきまった。
そして、最後にあおいはネクタイを締めて部屋を後にした。

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