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【感想?レビュー?】IMMORTALITY 狭間を結ぶ禁断のゲーム

こんにちは、なるぼぼです。

12月初頭、「なんかセールだしゲームしたい」と思ったのと、「Milk inside a bag of milk inside a bag of milk」をプレイしたことが相まって、癖の強いインディーゲームをやろうと思い立ちました。
そこで白羽の矢が立ったのが「IMMORTALITY」
IMMORTALITYはSteam、Xbox、Netflixで遊べるアドベンチャーゲームです。
最初は半信半疑で遊んでいたのですが、クリア後には完全に神ゲーになっていたので、Noteに書いていこうと思います。
出来る限りネタバレは避けます。
よろしくお願いいたします。

0.「Her Story」の苦い思い出

さて、本作の話をする前に、製作者であるSam Barlow氏の作った前々作「Her Story」を通じて、僕が感じたことをお話しようと思います。

正直、僕はHer Storyの時点でSamのセンスに惹かれていました。
一人の女の独白を通じて事件を追う。
Her Storyは、女の独白からキーワードを絞り出し、それをゲーム内の検索エンジンに入れることで別の動画を探り当て、事件の真相を追うというアドベンチャーゲームです。
こんなにセンスのあるゲームがあるのかと、発表当時は度肝を抜かれました。
しかし、実際プレイして見ると、致命的な欠陥があることに気づかされたのです。

それは、キーワードを検索するうえで「答え」となるワードが存在しているということです。
そして、そのワードを比較的最初で見つけてしまった場合、結論が確定して話の面白さが急激に下がってしまうのです。
僕はそのワードにぶち当たりました。
すると、起承転結の結が早々に分かってしまうことで、ある程度起承転結の承や転が予測できてしまい、一気にゲームの中身がなくなってしまいました。

だからこそ、僕はこのゲームを微妙だと思ったのです。
なぜなら外れくじを引くリスクがあるから。
そういう意味合いで、僕はIMMORTALITYにも不安半分、期待半分で臨むことにしました。
結果は見事に裏切られたわけですが。
次からは、そんなIMMORTALITYがHer Storyからどう変化したか、そして何を伝えようとしたのかを分析していきます。

1.ノベルゲームへの挑戦、そして破壊

今までいくつかノベルゲームの話を僕のNoteでもしてきましたが、本作も大きなくくりで見ればノベルゲームです。
しかし、本作はそうしたノベルゲームとは決定的に違う部分があります。
まずは、IMMORTALITYの独自性を話していきましょう。

IMMORTALITYのゲーム内容は、業界に彗星のごとく現れ、すぐに消えてしまった謎の女優、マリッサ・マルセルの映画とメイキングを見ていくというものです。
彼女は3本の映画に出演しましたが、ことごとく作品は非公開となっています。
なぜ彼女は業界を去ったのか、なぜ作品は公開されなかったのか。
こうした謎を追って、プレイヤーは散らばった映画とメイキング映像を探し出し、謎の真相に迫っていく…。
こういったあらすじです。

さて、本作の決定的な違いは、映画とメイキング映像が「散らばっている」と言う点。
本来ならこうした散らばりはノベルゲーではありえません。
なぜなら、ノベルゲームや読み物は、必ず起承転結を用意するからです。
「街  ―運命の交差点―」の記事でも書きましたが、起承転結というものはノベルゲーにとって当たり前の存在なんです。
街は、起承転結の飽きやすい承の部分にTIPやZAPを入れ、ゲームの味付けを加えることに成功しています。

その一方で、本作は映像が散らばっているので、ストーリーの流れをはじめから理解できないことになります。
今見ている映像が起承転結のうちどこなのか、プレイヤーは最初は理解できません。
つまり、本作は起承転結がぐちゃぐちゃに破壊されているのです。
こうしたシステムは、もはやノベルゲーとして、読み物として破綻しており、一見すると理解不能なもののようにも思えます。

しかし、そうした破壊された起承転結は、プレイヤーに「探索の面白さ」を提供しました。
散らばったストーリーを自分の頭で並べ整理していくことで、本作はプレイヤーに物語を伝えようとします。
手探りでビデオを探し出し、「こことここは繋がっているんだ」と理解することで、自分で起承転結を結び付けていきます。
これは膨大なマップから適切なものを選び取って結び付けているのと同じなので、パズルに似た面白さがあります。
それでいて、「どうしてマリッサは映画に出なくなったのか」「マリッサの出演作品はなぜ公開されなかったのか」という大枠の問いが設定されているので、プレイヤーはこの問いの答えを探すためにも、作品を躍起になって遊んでいくのです。

このように、本作はコンテンツのストーリーの地盤を破壊し、プレイヤーに補完させることで、ゲーム性を演出しています。
本来あり得ないようなことをやっているわけですから、プレイヤーはその探索性にのめり込み、ハマっていきます。
本作はサウンドノベルに近いと書きましたが、ノベルのようにストーリーを見ながら、作品の中で「探索」をする、アドベンチャー的側面も持ち合わせている。
僕は過去に、街もゲーム性が高くサウンドノベルの革新的な視点だと述べましたが、IMMORTALITYはこうした革新を、全く別の切り口からやってのけました。
これが本作の独自性であり、魅力だと思います。

2.かき消された「文字」

さて、ここまで本作の独自性である、起承転結の破壊をお伝えしてきました。
しかし、実はこれ、「Her Story」でも同じことが起きているんです。
Her Storyは言葉を通じてビデオを探ることで、ばらばらになっていたストーリーがまとまっていき、話の全貌が見えていくというものでした。
これは構造上はIMMORTALITYと同じです。
同じ方法でゲームが進行するのならば、Her Storyのように序盤で核心に迫るワードを発見してしまい、その後のストーリー補完に対して、飽きがすぐに来るでしょう。

しかし、IMMORTALITYは全く別の切り口から、Her Storyで感じた僕のガッカリ感をかき消してくれました。

それが、「文字を使わない」ことです。

IMMORTALITYは、フィルムの中にあるものを直接クリックすることで、同じものが映っている別のムービーにジャンプすることができます。
例えば、ムービー中の機材に触れれば同じものか、似ているものが映っている別のムービーに、俳優に触れれば同じ俳優の別のシーンにジャンプします。
このようなジャンプには、直接触れることで文字を使わずにシーン切り替えを行うという、探索における変化があります。

こうした「ものを直接選択する」システムが採用されたことで、Her Storyの致命的なミスは修正されました。
真相に近づくワードというものが、IMMORTALITYには存在しないのです。

本作では真相に近づく鍵が単語ではなく、ゲーム内の中にある何か、として映像で表現されるようになりました。
それが何か、という問いは、プレイ中すぐにわかるようなものではありません。
まぁ事件だからこれだよな、みたいなものが、ゲーム中の真相に大抵結びつかないのです。
そこにはありきたりなワードで正解にたどり着けるような、雑な導線が一切ありません。
そういう意味で、このゲームはHer Storyで感じた不安を払しょくし、謎を追う面白さを提供してくれました。

3.「映画」を取り上げる意味

さて、本作では実写を採用し、「映画」というテーマからゲームに入り込んでいます。
ここには、コンテンツ間の面白さを活かした、実写ならではの面白さが介在いしています。
次はそんな映画の話。

そもそも、実写映像を直接採用するゲームというのは、昔からちょこちょこありました。
国内では「街」「428-閉鎖された渋谷で」、海外だと「Quantum Break」「Late Shift」辺りが挙げられます。
ただ、こうしたゲームは事件性や写実性を高めるために実写映像を用いていることが多く、実写を用いて映画的にものを表現することに終止していたように感じます。

しかし、本作はあえて、そうした映画ライクな作品を押しのけて、「映画」というテーマからゲームを作り出しました。
こうした映画をモチーフにする実写ゲームというのは、言ってしまえば「ほぼタブー」です。
ゲームをマルチメディアとして映画化するならいさ知らず、ゲームが映画をテーマに映画みたいなゲームを作るって、映画に対する挑戦以外の何物でもありません。
こうしたゲームが出てくるのは、普通ありえないのです。

しかし、本作はソフトウェアの中に映画がバラバラに入っていることで、ゲームが映画を支配しているような構図になっています。
ゲームをプレイする過程で、ゲームをしながら映画を見ているという点に、逆転した映画を扱うゲームの構図が見えます。
ゲームを扱う映画は数多くあり、それらはゲームを巧みに使って視聴者の心をつかみに来ますが、本作はその逆です。
しかも、その映画そのもののクオリティも非常に高い。
プレイヤーがゲームを通じて謎を解くだけでなく、ゲームの中にある映画の面白さに次第に惹かれていきます。

さらに、本作の映画を扱うメリットとして、「映画の裏側を見れる」と言う点があります。
本作は、あくまでバラバラになったフィルムの塊を見ていくだけなので、中にはリハーサルや台本読み程度のムービーがあります。
そこには映画本番のようなセットはなく、プレイヤーが映画に没入一幕ではないか、と感じます。
しかし、敢えてそうしたリハーサルの一幕を入れることで、役者である彼らの、役に入り込まないときの素の姿を見ることができます。
「トイ・ストーリー」のエンディングに入っている、ギャグみたいな展開のミステイクと似たようなものです。

僕はこの演出が非常に気に入りました。
というのも、役者の緊張がほぐれ、落ち着いた姿というのは、普段の映画から抜け出した、エクストラコンテンツのようなものであるからです。
これらは映画という媒体では決して見ることができません。

テレビドラマでもミステイクがバラエティ側でしか出ないように、ミステイク的な展開やメイキングの段階というものは、映画という作品とは切り離されて表現されるものです。
だからこそ、そうしたものが敢えて随所に導入されることで、プレイヤーは映画の外側にある、役者の存在を認知して楽しむことができます。
そして、その人が演技に何を考えているのか、といった部分にまで触れていくことで、ゲーム内部にある映画の面白さを、余すことなく楽しめるのが本作の魅力と言えるでしょう。

4.映画に隠された、「入れ子」

さて、ここまでゲーム的に映画を楽しむ面白さや、映画というものをゲームに入れるタブーについて話してきました。
しかし、このゲームの真の位置づけはその程度には収まりません。
ここで、このゲームの中にある、「複数の入れ子構造」を紹介します。

このゲームの目的は、「なぜか出演作が公開されることなく、業界から姿を消したマリッサ」のフィルムを分析することです。
あくまでゲームはマリッサの映像を見よう!と、価値ある映画を見せるような主張をしますが、プレイヤーは暗に「マリッサのフィルムには謎がある」と気づきます。
カルト的な人気を誇る女優であったとしても、作品そのものが存在している以上は、マリッサが出るフィルムは一個ぐらい世に出てもおかしくはありません。
前書きにおいても理由付けがないので、僕は「マリッサの謎を追いかけていくゲームなんだな」と最初から理解することができました。

さて、この理解でゲームを進めて行くと、ムービーの最中で時々不穏な音が流れるシーンが出てきます。
ここで巻き戻しボタンを使うことで、プレイヤーはムービーの中にいる存在、「The One」を知覚することができます。
The Oneは映画のあらゆるところで登場し、プレイヤーに語り掛けてきます。

…そう、語り掛けてくる対象が明らかに「プレイヤーに対して」なのです。
映画の最中にもかかわらず、彼女は明らかにこちらを知覚しており、メタ的な目線からこちらに語り掛けてきます。
基本は彼女の独白になるのでわかりにくいですが、あるシーンでムービーの中にいない人に誘いをかけてくるため、そこで「明らかにプレイヤーに話しかけてきている」とわかります。
そして、彼女の語りや、彼女の仲間との会話を通じて、プレイヤーは3本の映画に渡ってつづられた、「IMMORTALITYの真実」を知ることになります。
そして、このIMMORTALITYの真実は、映画の内容とニュアンスは近いものがありますが、ストーリーの内容としては全く違うものです。
映画の裏でどのようなことがあったのか、真実がシリアスかつホラーな語り口で描かれます。

ここにあるのは、全く違った入れ子構造です。
元々、映画と映画の外側であるメイキングを楽しむことで、プレイヤーは映画の面白さを、外側から知覚していました。
しかし、そのプレイヤーに、映画という殻を突き破ってThe Oneが話しかけてくるのです。
彼女の狂気とも相まって、プレイヤーはとにかく狼狽します。
今までは干渉するだけの立場だったのに、突如それを飛び出して、The Oneは話しかけてくるのです。
突如自分のところに話が飛んでくるというのはメタ演出の定番ではありますが、映画という「明らかに鑑賞するもの」を抜け出して話しかけてくるというのは、背筋が凍り付くほどに恐ろしいものです。
ここには、内側にいる映画の登場人物と、外側にいる自分、そして内側と外側を行き来するThe Oneという、いびつな入れ子構造があります。

加えて、本作には「ストーリーの入れ子構造」も存在しています。
The Oneが物語に介入することで、切り離された映画とプレイヤーの世界は、ある種結合してしまいました。
そして、そこを結ぶThe Oneのストーリーは、映画の中の話にも影響を与えています。
宗教倫理の中で原罪を嘆く「アンブロシオ」では、過激なお色気シーンやグロシーンがこれでもかと詰め込まれています。
ここには、The Oneが狙った「演出」が組み込まれており、彼女の狂気が節々に表れています。
「ミンジ―」「Two of Everything」でも彼女の欲望が作品に溢れ、映画の雰囲気の変貌を通じて、彼女の心象の変化を理解することができます。
こうしたストーリーの連関というものも、本作の特徴と言えるでしょう。

こちら側に入ってくるThe Oneは恐怖の象徴でありながらも、狂気や切なさなど、プレイヤーに様々な感情を与える存在です。
これ以上は流石にネタバレになるのでやめておきますが、彼女のストーリーの中にある「IMMORTALITY」の真意に気づいたとき、このゲームのもやは少しずつ晴れていくでしょう。

あと、完全に余談かつネタバレになりますが、The Oneの「Candy says」は感動しました。
あの歌とThe Oneの歌い方が、プレイヤーに突き刺さるのが映画の魅力なんでしょうね。
おそらく音源ありきでの演技でしょうが、あの歌であれだけの感情がプレイヤーに伝わるようになっているのは、本当にすごいです。
未プレイの方は何を言っているかわからないと思いますが、まぁそういうことで。

5.「Her Story」を超えて

さて、最後に「Her Story」との違いを確認しながら、本作への思いをぶちまけようと思います。

正直「Her Story」は、微妙でありながらも核心的で、面白い試みだと思っていました。
ただ、本作は「Her Story」を良くしたうえで、「映画のタブー」を突き破り、映画でさえもゲーム的エンターテインメントに落とし込みました。
こんなに革新的なゲームは本当に見たことがありません。
本作は、僕の中で「街」と並ぶぐらい衝撃的で、最高に好きなゲームです。

僕は、「街」の頃からずっと「ノベルゲームの遊び」というものを求めてきました。
「街」にある遊び心は、ただ文章を読ませ選択肢を選ばせるだけではなく、プレイヤーに運命を操作する面白さを提供したり、謎解きのようにストーリーを書き換えていく楽しさを与えたりすることでした。
僕は今まで順当なノベルゲームを遊んできたからこそ、それがあまりにもゲーム的で、かつ面白くできていて、本当に感動しました。
IMMORTALITYは、それと並ぶぐらいの傑作です。
本作は、ムービーの操作やThe Oneの真実を追う謎解きに、僕の求めるノベルゲームの至上命題、「遊び」があります。
その時点で、インディーノベルゲームの最高傑作は間違いなくこれです。
断言します。 最高。

あと、書き忘れていたのですが、このゲームは、映画におけるキャスティングや演技という側面をゲーマーが知ることで、映画を別視点から楽しめるという、趣味の拡張性があるとも感じました。
特に、マリッサ役のマノン・ゲージの演技はとてつもないです。
映画中の3役(Two of Everythingでは2役担当しているので正確には4役)では、映画ごとに雰囲気が劇的に変化し、プレイヤーの没入度を一気に高めてくれます。
「アンブロシオ」では”うぶ”だった入りたての新人女優が、収録が進むにつれ魔性の女である役に入り込み、徐々に妖艶さを増していくのが印象的です。
「ミンジ―」ではずっと妖艶な女性の役を演じ、男を惑わせ続ける女として、そして狂気をどことなく孕んだ女として、プレイヤーと男性主人公のカイルを魅了し続けます。
「Two of Everything」では一転して、シリアスシーンや逃亡劇など、緊迫した表情を向けることが多くなりました。
その中でも緊迫感を崩すことなく、迫真の演技でプレイヤーをくぎ付けにする彼女の演技には惹かれること間違いなしです。

僕は、こうした演技に注目できると言う点でも、本作は良いゲームだったと感じています。
僕は普段、ほとんど映画を見ません。
アニメも見ず、大体ゲームと動画ぐらいを見るかやる、ぐらいの生活です。
そんな映画に興味のない人が、ゲーム性を求めて本作を遊んでいました。
結果、ゲームだけでなく、映画に興味を持ち、映画の外にある演技の面白さも知ることができました。
キャストなんて気にしてなかったのに、「IMMORTALITY」を遊んだことで気になって興味を持つようになったのです。

これは、ゲームの中にある、「キャストの入れ子構造」が肝になっています。
ゲーム中の演者は、「映画中の役作り+女優というキャラづくり」というキャストの入れ子構造を持っています。
「映画の中のキャラクター」「ゲーム内の演者というキャラクター」「現実の演者」という入れ子構造ですね。
ここに気づくと、「ゲームの中では見れなかったマリッサ役の人は、普段どういうことを言っているんだろう…」と考えるようになります。
そう、演者に注目するようになるんですね。
演者への興味を湧かせてくれたという意味でも、本作は自分にとっていいゲームだったと感じています。

6.終わりに

いかがでしたでしょうか。

超大ボリュームになってしまいました。
本作はファミ通やIGNの方でガチガチなレビューが書かれており、流石にその方たちに比べると多少見劣りするかとは思いますが、あまりにも面白すぎて誰かに伝えたい!と思ったのと、どうしても思いを形に残したい!と思ったので、記事にまとめました。
気楽に読んでもらえればと思います。

最後に謝辞にはなりますが、僕はItaru Otomaru氏の記事を読んで、このゲームを始めたという経緯があります。
Otomaru氏にはこの場を借りてお礼申し上げます。
素敵な記事をありがとうございます。

次回記事は相変わらず未定です。
続きをお楽しみに。それでは~。

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