お腹が減る話

エミシ教授は「要約は短ければ短いほどいい」とおっしゃいました。
二人死ぬ話、栞が燃えた話、戦争が終わらない話、そんな風に世界のたくさんのお話を短く刈り揃えていると不意に私の抱いているぬいぐるみがぐうとお腹を鳴らしたのです。瞬間、教室の空気が凍化してみんな氷像のように固まってしまいました。ゲームソフトをたくさん持っている友達の家のクーラーの部屋の冷やし方を思い出した私は、口をパクパクしながら必死で心の中から救難信号を照射し、一瞬後にはクマソ姫が教室の窓を突き破っていました。クマソ姫は顔を醜くゆがめ火炎を放射すると、パキパキと言う音がして氷像が溶けていくのです。氷が消えていくのと反対に私の抱いていたぬいぐるみは炎に包まれどんどんと巨大化していきます。天井が破れました。今日は絶好のピクニック日和です。
「ふっふっふ」エミシ教授はクマソ姫に向かってひやうと矢を放ちました。姫は火炎を放射して矢を焼き落とします。戦いは30年ほど続きましたが、結局私は公務員の男性と結婚して子供を国立大学に入学させて公務員にするのか、と思うと、エミシ教授の立派な髯やクマソ姫の痘痕だらけの皮膚を懐かしく思うのです。皺まみれで欠陥が浮き出た腕で税関職員の孫を抱きしめる時、ぐうとお腹が鳴る音がしました。「名前を付ける前に死んでよかったね」と言われた気がしました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?