国語の朗読会にて
自分の見てきた風景を何かしら残してみたくなりました。
なぜかは分かりません。
今見ている世界についてもう少し知りたくなったからなのかもしれないし、誰かに伝えたくなったからなのかもしれません。
はたまた誰かに聴いてもらいたいという子どもじみた理由なのかもしれません。
我ながら、わざわざ公の場で言うこともないだろうにと思います。後から振り返ってみたら顔から火が出るようなことなんだ、と分かり切ってもいるんです。でも言わずにいられない自分がいるので、きっとどうかしているんだろうなと思っています。
そんなこんなで、とりあえず書き進めてみることにします。
今回は苦い思い出です。
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小学校の国語の授業で、クラス内でいくつかの班に分かれて教科書の朗読を競い合う授業でのことです。
競い合うと言っても、各班で朗読を披露し、みんなそれぞれ良かったと思う班に手を挙げて讃えあうような授業だったかと思います。何年生だったかは覚えていないのですが、多分3〜4年生なんじゃないかなと思います。
班には5〜6人の男女がいました。その中に1人、Z君がいました。
Z君は近所に住む子で、同じクラスながらあまり接点がありませんでした。休み時間などに一緒にしゃべってみても話があまり噛み合わず、また言葉が少し荒い子だったので、僕は少し敬遠していました。乱暴をするような子ではありませんでしたが、周りからはあまりいい噂を聞かない子でした。勉強が苦手なんだろうな、というイメージはありました。
僕はZ君と一緒の班になったことが憂鬱でした。みんなで楽しく、そして上手な発表をして他の班よりも良い点を取っりたかったからです。
朗読の練習には1週間ほどの期間が与えられたと思います。
初めての練習の際、僕らは班のみんなで机を合わせ、教科書を順に読んでみました。
みんなちょっとした緊張感を持ちながら、時々言いとちったりしつつも読み進めている中、Z君はなぜか一向に読もうとしませんでした。
僕はZ君にどうしたのか聞いてみました。するとZ君は重い腰を上げるかのようにようやく読み出したのですが、彼はひらがなの部分しか読もうとしません。彼は漢字が全く読めなかったのです。そして漢字を読めないので、送りがなかどうかの区別もつかず、不自然なひらがな読みをしていました。
僕は呆気にとられながら、うちの班がいい点を取れなさそうだという状況にがっかりしていました。周りの班が楽しそうに大きな声で練習しているのが聞こえてきます。結局、初日はどうにもできずに終わりました。イライラも募っています。
しかし、その後僕は良い点を取ることをなぜか割とすんなり諦められました。気がつけば、どうやったらZ君が読むことができるようになるかを考えていました。みんなで読み分ける範囲を決めた後、Z君には一番漢字の少ないパートを読んでもらうことにし、僕は積極的に読み方とその意味を彼に説明しながら、班の練習時間の大半を彼の練習に充てました。
Z君は少しずつですが読めるようになり、意味も理解できるようになっていきます。1つ読めるようになる度に班のみんなで喜び、1つ意味が分かる度にみんなでそうそう!とうなずき合いました。Z君本人にも少しずつ自信がついてきているのが伝わってきます。班のみんなも少しずつ教え始めました。僕も教えることがどんどん楽しくなっていきます。各班の様子をウロウロしながら伺っている先生も何やら嬉しそうです。
そしてこの時、僕にはヨコシマな気持ちが生まれ始めました。
そして朗読会の日。
Z君を始めとする僕らはみんな、途中でつっかえることもなく、無事読み切ることができました。
クラスからは「お〜っ」と意外さが込められた声が上がりました。Z君のことをよく知る子たちの反応でした。班のみんなは「やったね!」と湧き立ちました。Z君は先生からも褒められ、充実した表情をしていたのがとても印象的でした。
班としての成績は特段いいわけではありませんでしたが、僕は充実感に溢れていました。
先生も嬉しそうな顔をしていたのを覚えています。
翌日以降、国語の授業は普段通りに戻りました。
教科書も先の方へと進んでいきます。
するとZ君は練習していない範囲だったので、またつまづいてしまいました。
この時、僕は一瞬の間にものすごく悩んだのを覚えています。
結局、僕は困っているZ君のことを見て見ぬフリをしました。
そして、なんとなく察しがついていましたが、Z君は誰かに教えを乞うわけでもなく、分からないまま授業をやり過ごしてしまいました。それができるのなら、彼はとっくに漢字を読めたはずなのです。
また先生は、案の定、その授業の最後の方で遠回しに遠回しに朗読会の練習のことに触れてきました。クラスの誰がそのことに気づいたか分かりませんが、僕は1人心を少しえぐられるのを感じつつ、やはり知らんぷりを通しました。先生もそれ以上は何も言わなかったと記憶しているのですが、ひょっとしたら僕の心がそれを拒絶して覚えていないだけなのかもしれません。
そして僕は朗読会以前にも増して、Z君と距離を取るようになってしまいました。
Z君はその後も国語の授業で当てられる度に答えることができませんでした。
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