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お弁当とデートと自分の気持ち

テレワークをしていると昼ごはんをチャチャっと作って食べることが多いんですが、昨日はたまたま食べるものがあまりなかったのでどうしようかと考えていたら、妻から「美味しいお弁当屋さんがあるから一緒に買いに行こうよ」と言われ、久しぶりに妻と2人で出かけてきました。

外で買う弁当は味が結構濃いものが多いので基本的にあまり好きではないのですが、どうやらそこは作り置きしてあるおかずやお惣菜を自分で折りに詰めることができるお弁当屋さんで、妻曰く美味しいし結構繁盛してるとのこと。ああそうなの、程度の弁当への感想をもとに家を出ることにしました。

実はここに至る時点で、すでに妻が言い訳めいて私を誘っているのがほんのり伝わって来ていました。ちょっと楽しそうなのを敢えて知らんぷりしているのがなんとなく分かります。ここ数日の流れを汲んでみてもきっと間違いない。
そして私もなんとなくソワソワしているんです。
2人とも明らかには口には出さないものの、「店が混む前に行っといた方がいいよね」とか「ついでに娘の受験の送り迎えで通る予定の裏道をもう一回下見しときたいし」などともっともらしい口実をしきりにつけています。そんなこんなで普段より1時間早く昼休みを取り始め、プチデートが始まりました。早めた1時間はサボる気満々で。

お弁当屋さんはこじんまりしたお店でした。
店内の両脇に大量に並べられた大皿にはそれぞれおかずや惣菜が並んでいます。全部で30種類以上はあったでしょうか。その中から自分で好きなものを選んでいきます。

これがなかなかすんなり決まりません。
並んでいたのは想像していたものではなく、どちらかというと和風のご家庭の味的なものたちばかり。どれもこれもものすごく美味しそうなんです。色合いも綺麗。

気になって妻を見やると、次から次へと拾い上げぎゅうぎゅうに詰め込んでいるではないですか。一方の私は目移りするばかり。

そうこうしているうちに妻はとっくに詰め終わっていて、ずっと私を待っているのですが、迷う私を何やら面白そうに眺めています。
普段なら眉間に皺を寄せながら急かされそうなもんですが、この時ばかりは何やらいつもと勝手が違います。それを見て私も「ごめん、もうちょっと待って」と抑えきれないワクワクをニヤニヤしながら楽しみつつ、店内をウロウロと迷い続けました。

ウンウンと唸りつつ迷った挙句、最終的に小松菜の胡麻和え、ワカサギの南蛮漬け、鷄店のシソはさみ揚げ、ナスのおひたし、春雨のお惣菜、などをつまみ上げていきました。

店を後にし車に乗り込むと、日向に駐めておいた車のシートはポカポカに温まっていて、腰を下ろした途端に温もりが背後から包んできます。そんな中、珍しく妻の運転する車で他愛もないことをしゃべって帰ってきました。

妻はせっかく外に出たからと言って私を降ろしたその足で買い物に出かけました。私には午後の仕事の予定があったので、帰宅して直ぐにお弁当を頂きました。

1人でお茶を淹れて折りを開き、思わず手を合わせてから頬張ります。胡麻和えがほっぺたと心に沁みます。南蛮漬けのワカサギからジュワッと出てくる味に目尻を下げられ、シャキシャキ玉ねぎに心が躍ります。

後から妻に聞いたのですが、そのお店ではちゃんとカツオや昆布から出汁をとって調理されているんだそうです。いろいろといい塩梅です。

こんな楽しい食事はいつ以来だったでしょうか。プラスチックの折りに入ったお弁当でこんな気持ちになれるとは思いもしませんでした。暖かい日差し差し込むリビングで1人、浸りながら食べました。
そして、なんで1人で食べてるの?と思わざるを得ませんでした。

ワクワク、ドキドキ、ソワソワ、ニヤニヤ、悶々、ポカポカ、ほのぼの、ジュワジュワ、シャキシャキ、そしてモヤモヤとザワザワとゾワゾワ。
自分の中から出てくる一つひとつの感情を自分で客観的に味わいながら小一時間のデートとその余韻を満喫しました。まるで中学生のデートみたいだな、なんて思いながら。

ただ、1日経った今もモヤモヤ、ザワザワ、ゾワゾワだけは引きずってしまっています。困ったことに仕事に集中できません。
ほんとに中学生じゃないのかって感じですが、しょうがないので期限間近のタスクたちをほっぽり出し、心に付き合ってやることにしました。急がば回れ。
こうして仕事中だけど書き残し、妻には「今度は一緒に食べようね」とメッセージを送って。

ちょうど書き終え、妻からもいいねサインが返ってきたところで、ようやく落ち着いてきました。そろそろ現実世界に戻り、会議に参加しようと思います。

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