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Favorite Music (Now&Then) 【12】BLUEGRASS MUSIC HISTORY 5

 2回にわたって代表的な4組のグループを紹介しましたが、他にも多様化する70年代ブルーグラスミュージックシーンの中で、忘れられないアーティストについて、もう少し話をしていきたいと思います。


4.ブルーグラス新時代の70年代・・・その3


 以前にも少し触れましたが70年代は、第1世代もまだまだ元気で、ビル・モンローやラルフ・スタンレー&ザ・クリンチ・マウンテン・ボーイズも来日し、トラディッショナルブルーグラスの神髄ともいうべき熟練のステージを見せてくれました。フラット&スクラッグスは、残念ながら60年代終わりに解散してしまいますが、レスター・フラットは、自らのバンドを結成し、ビル・モンローとも和解しオーセンティックなブルーグラスに回帰して行きます。一方のアール・スクラッグスの方は、息子たちと一緒に「アール・スクラッグス・レヴュー」を結成し、ニッティ・グリッティ・ダート・バンドとも共演する等ニューグラスに果敢に挑戦していきました。

 他にも、オズボーン・ブラザースやジム&ジェッシーも来日し、脂の乗り切った演奏で楽しませてくれました。特にオズボーンは、もともとエレキ・ベースやスネアを使用し、カントリーヒット曲をブルーグラスアレンジする等、新しい試みが上手く70年代ニューグラス時代にも古さを感じさせないグループでしたね。

 こうした中で、第1世代と若手ブルーグラスミュージシャンのコラボレーションが企画されます。内容は、ビル・モンローとピーター・ローワン、ビル・キース、リチャード・グリーン(この3人は、ビル・モンロー&ヒズ・ブルーグラスボーイズに在籍していました)、デヴィッド・グリスマン、そしてクラレンス・ホワイトという豪華メンバーでしたが、アクシデントが起こります。当日ビル・モンローが、事故に巻き込まれTV収録に間に合わない事態が生じてしまいました。そこで苦肉の策で、先ほどの若手ミュージシャンだけでのジャムセッションが行われたのですが、その素晴らしさが評判となりレコーディング(映像も残っていてDVDになっています)にまで発展しました。このアルバムが「ミュール・スキナー」ですね。

 ミュールスキナーを紹介したら、もう1枚「オールド&イン・ザ・ウェイ」にも触れておきたいと思います。これは、ミュールスキナーの成功に刺激されたのか、西海岸ロックの顔役とも言える「ジェリー・ガルシア」(ご存知グレートフル・デッドのリーダーで、同時にカントリーバンドのニューライダース・オブ・ザ・パープルセイジでも活躍)を中心としてセッションアルバムを作成します。若かりし頃に一緒にブルーグラスに入れあげていてミュールスキナーでも活躍したデヴィッド・グリスマンとピーター・ローワンに加え、最高のフィドラーの一人である、ヴァッサー・クレメンツも加わり、ジェリー本人がバンジョーを担当したセッションアルバム「オールド&イン・ザ・ウェイ」が完成し、これまた評判になりました。

 このように、ロックやジャズ等を取り込み、多様化する70年代ブルーグラスは、最早ブルーグラスという範疇を超越したアコースティック音楽に発展していきます。最も代表的なのは、デヴィッド・グリスマンが提唱した「ドーグ・ミュージック」だと思います。説明するのは、なかなか難しいのですが初期のドーグの楽器編成としては、ブルーグラス・セットからバンジョーを抜いてマンドリン2台にし、ジャズやフュージョン要素を取り入れ、スウィング感を前面に出した音楽とでも言いましょうか・・・。

 傑作として良く紹介される「ホット・ドーグ」というアルバムには、フィドル(最早、フィドルじゃなくてバイオリンと言うべきかとも思いますが)に、ステファン・グラッペリ(かの有名なギタリストである、ジャンゴ・ラインハルトの相棒)をゲストとして招いていて、1930年代に一世を風靡した「フランス・ホット・クラブ五重奏団」・・・所謂「ジプシー・スウィング」を彷彿とさせる演奏を聴かせてくれています。

 もう一つ付け加えておくと、このドーグミュージックには、前回紹介したJDクロウ&ニューサウスを脱退した「トニー・ライス」が参加し、超絶テクニックによるギタープレイを披露しており、ドーグ誕生に少なからず貢献していると思っています。その後、トニー・ライスも独自のジャズ・フュージョンブルーグラス??アルバムを発表し時代を牽引していきます。

 長くなりましたが、最後にその他の傑作や話題となったアルバム(個人的趣味も含め)とアーティスト等を紹介してこの時代を締めさせていただこうと思います。

 まず、サム・ブッシュとアラン・マンディのインスルメンタル共演アルバム「サム・アンド・アラン」で若き2人の1969年に共演した「プリチャーズ・アルマナック」の続編とも言うべきものですが、脂の乗り切った二人にガゼットからローランド・ホワイトやデイヴ・ファーガソン、ニューグラスからは、カーティス・バーチ等が参加し、なかなかの傑作だと思います。因みにサム・ブッシュもアラン・マンディも傑作ソロアルバムを数枚リリースしています。

 グループでは、ニューサウスに入る前のキース・ウイットリーとジミー・グッドローの「ニュー・トラディッション」、「カントリー・ストア」、ニューグラスに入る前のベン・フラックが在籍していた「スペクトラム」、珍しくニューヨークからは、鬼才バンジョープレイヤーのトニー・トリシカが在籍していた「カントリー・クッキング」、正統派トラッドの「ホット・ライズ」・・・等々。


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アール・スクラッグスが、息子たちと結成したニューグラスバンド

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ビル・モンローが、事故で間に合わず。災い転じて名盤誕生

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クラレンス・ホワイト全盛期の貴重なライヴ映像

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ジェリー・ガルシアの味わい深いバンジョーとヴァッサーのフィドルが凄い

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デヴィッド・グリスマンのドーグサウンドが確立した名盤

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ステファン・グラッペリ参加の2曲が圧巻

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まだブルーグラスのトニー・ライスのソロアルバム、個人的には1番好き

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80年代に入り、ジャズ・フュージョンに挑戦したトニー・ライスユニットの代表作

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ニューグラスとガゼットが手を組んだ、夢の1枚。個人的にも大好きなインストアルバム

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サム・ブッシュの代表的ソロアルバム、とにかくカッコいい

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アラン・マンディ初のソロアルバム。ディア・オール・デキシー最高

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鬼才バンジョープレイヤー、トニー・トリシカ参加の名盤


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