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アメリカン・ミュージック・ヒストリー第6章(1950年代全般・・・その4)


(5)1950年代のイギリス大衆音楽事情    

 1960年代のビートルズ登場以来、イギリスとアメリカはライバルのような関係になっていきますが、それ以前のイギリスの音楽事情はどうだったのか興味があるところです。やはりアメリカによる1956年前後、映画「暴力教室と主題歌のロック・アラウンド・ザ・クロック」やエルヴィス、ロカビリー、ロックン・ロールの大爆発の影響は絶大で、イギリスで同時期(1956年)に大ヒットしたロニー・ドネガン(ジョン・レノンの最初のアイドル)の「ロック・アイランド・ライン」を皮切りとして若者たちを中心にスキッフル(ジャグバンドに近い楽器編成)ブームとなり1957年ジョン・レノンが、ビートルズの前身ともいえるスキッフルバンド「クオリーメン」を結成したのは前にも触れましたね。そして1958年には、イギリス版エルヴィスと呼ばれたクルフ・リチャードとシャドウズがイギリス産最初のロックン・ロール・スターとなっていきました。


 
*ロックン・ロール誕生前のイギリス大衆音楽

 ロックン・ロール誕生前のイギリス大衆音楽。アメリカ音楽史を語るにはアメリカの歴史を避けてはとおれませんが、クラッシック音楽以外のイギリス音楽(クラッシック音楽もあまり高評価ではありませんが)に触れるにあたって、少しだけ歴史を紐解くことにしたいと思います。

 イギリスの歴史は、イングランド、スコットランド、アイルランド(現在では北アイルランドのみですが)、ウェールズの歴史ということになります。その昔ケルト系民族がグレートブリテン島を支配していましたが、ローマ帝国時代になるとグレートブリテン島南部はローマ人が上層部として君臨支配し、その後、力が衰えるとゲルマン人のアングロ・サクソン系諸族が侵入し、現在のイングランド(アングロ・サクソン部族のアングル人に由来する)が形成されていったようです。他のアイルランド、スコットランド、ウェールズは、この時点では、ゲルマン民族に支配されることなくケルト系民族が継続支配していましたが、長い歴史の中でイングランドとの間でさまざまな政治的、宗教的、民族抗争があったことは周知のとおりです。

 詳しい歴史は兎も角として、重要なことは、ケルト系民族(特にこのガイドブックの最初に触れたスコッチ・アイリッシュの人たち)の音楽文化がアメリカに移民した人たちによって引継がれアメリカ音楽の基になっていったということです。こうしてみると、ゲルマン系であるイングランドは、植民支配と産業革命とスポーツ分野で世界に冠する地位を確立しましたが、伝統音楽に関しては一部のブリティッシュ・フォークやバラッド(物語歌)しか思い浮かびません。


 こうした歴史を頭に入れながら、話しをもどしてイギリスにおけるロックン・ロール以前に流行した大衆音楽となると、やはりアメリカ産のジャズということになると思います。そうした中、重要人物としてあげられるのが1950年代に活躍したケン・コリアとクリス・バーバーです。1953年にケン・コリアがジャズバンドを結成する際にクリス・バーバーが協力し、バンジョーも弾きこなす若きヴォーカリストのロニー・ドネガンを迎え入れ「ケン・コリアズ ジャズメン」を立ち上げ、1954年にケン・コリアがバンドを離れると、すぐにニューオリンズ・スタイルの「クリス・バーバー・バンド」を再編成します。クリス・バーバーは、ドネガンと共にスキッフルを創始し「ロック・アイランド・ライン」の大ヒットやクラリネットの名手モンティ・サンシャイン等と共にシドニー・ベシェの「小さな花」をカバーし大ヒットを生みだす等イギリスを代表するバンドになっていきました。

 更にバーバーの類稀な音楽的才能は、ディキシー・ランド・ジャズのみならず、スィング、ラグタイム、R&Bまで多岐にわたりルイ・ジョーダンやドクター・ジョンと共演したり、50年代後半から60年代初期にかけてマディ・ウォーターズ、ビッグ・ビル・ブルンジーらと英国ツアーを敢行し、その煽りを受けた若き日のアレクシス・コーナー、ジョン・メイオール、エリック・クラプトン、フリートウッド・マックのピーター・グリーン、ローリング・ストーンズのメンバー達にも多大な影響を与え、ブリティッシュ・ブルース・インヴェイジョンを導くことにもなったようです。



*イギリスの伝統音楽(ブリティッシュ・フォーク)

 1950年代イギリスではBBC(イギリス国営放送)でA・L・ロイドとイワン・マッコールがイングランドやアイルランドの伝承歌を収集して紹介する「ブリティッシュ・フォークリヴァイバル運動」が起こります。そうした運動に影響を受けたリヴァイヴァリストのシャーリー・コリンズ等が、パブ等でイギリス伝統の無伴奏シンギングでトラッド・フォークを歌うようになりましたが、そうした中でギターの弾き語りスタイル(スキッフルブーム)は、革新的で反発もあったものの徐々に認知され1964年伝統のシャーリー・コリンズとギター弾き語りのデイヴィ・グレアムとの歴史的共演を果たします。これを契機にブリティッシュ・フォーク・ロックのペンタングル(バート・ヤンシュ、ジョン・レンボーン)やフェアポート・コンヴェンション(サンディ・デニー)等に繋がっていったようです。


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ロニードネガンをゲストにジャズとスキッフルの共演

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スキッフルブームの立役者

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ブリテッシュフォークの重鎮

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ブリティッシュフォークの名盤、シャーリー・コリンズとギターのデイヴィ・グレアム

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ギタリストのバート・ヤンシュとジョン・レンボーンが有名

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サンディ・デニー在籍の名盤

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ブリティッシュ・ブルースの父

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イギリスのエルヴィスと言ってもアイドル要素が強いですね

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イギリスのベンチャーズとも言えるかな

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