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海上牧雲記〜Part7

パパに連れられ皇宮の長い長い道をゆく
徳の顔は怪訝なようす
パパはどうするつもりなのか
全然想像もつかなくてーーー。

陛下がおみえになる寝殿の庭の玄関口
スライドして開閉する格子戸が和風
牧雲記では瑞朝の様式は異世界を表すために異国である日本のデザインや文物がたくさん採用されている。今なら検閲にアウトを食らうだろう
大金をかけ製作したものを全てオールアップしてから当局に委ねるのだ
許可が下りてこそ放映できる
下りなければ制作側は大変な負債を抱えることになる
はたまた向こうの国は自分勝手な俳優も多いため
彼らが何か大罪を犯せばもれなくその出演作も俳優と共に永久追放だ

陛下は皇后をモデルに絵を描いている
このパパ皇帝の趣味を皇子である笙殿下も受け継いでいる
笙殿下によってカムバックした陛下は皇后の息子合戈殿下を皇位簒奪未遂の罪で幽閉し
皇后に対しても毎日笙殿下ママのふりをさせ虐めているのだった

20年ぶりに再会する因縁の兄弟
欒パパは陛下に太子の座を奪われ遠方に流刑の如く追放され
見張り役を無理矢理妻に娶らされた
陛下は欒パパのせいで最愛の笙殿下のママを手元から離さなくてはならなくなり
結果皇后に殺されたばかり
周囲の目を慮りずっと冷遇していた笙殿下を
愛情いっぱいに可愛がることに決めたのだ

パパは世間話のついでに家族パーティをしよう、と陛下を誘う
クーデターが失敗したため第二ラウンドを発動させたのだ

皇子さまがたを揃えた賑やかな家族パーティをーーー鄴王は"自分の家族"として徳の謁見を願い出る

厳しい表情で腹を決めるパパ
パパが着ているコートにも
徳が締めている帯にも蛇のように絡まるスリムな龍が刺繍されている
これは宛州牧雲氏の家紋。

上機嫌で徳を召す陛下。
欒パパが娶らされたのは穆如大将軍の妹だが
陛下もご自分の妹を大将軍の正妻として嫁がせている。
それほど穆如家と牧雲家は有史の昔から強い絆で結ばれている間柄なのだ
全幅の信頼を寄せている大将軍の妹屏とは
陛下は勿論幼少期からよく知っている幼馴染。
それが徳のママだ。

陛下は若くして宛州商会の会長にまでなったとか
聡明なところは父親譲りだな、とお褒めに。
徳は卒なく謙ってみせる

陛下もパパも徳のことをすぐ"口が達者だ"とか"賢い"とか
あまり褒められた気がしないのはなぜだろうか

上機嫌な陛下にパパは
"実はこの聡明な息子は今回その才を悪巧みの方へ発揮しまして
陛下
あの伝國御璽はこやつが造らせたのです!"

寝耳に水の訴えに
陛下と徳は驚く

あまりのことに"わけがわからず"
思わず真意を聞くために声を上げた徳に対してパパは厳しい態度で
"とんでもない大罪を犯した"息子を嗜める

"あの御璽は河洛族が造ったと言うではないか
ということはそなたの商会が一枚噛んでいるのだろう、説明せよ"
ーーー

"何のことか"
当初わけが分からなかった徳だが
"パパが自身にかけられた嫌疑を自分に被せているのだ。自分を生贄にし自身が助かるために"
という意図を理解する。

皇帝の御前で嘘を言えば嘘と見做された時点で死罪確定だ。
"身代わりに"連れてきたのだ。
パパが予め講じてきた策とはーーー

"いつもの"針の筵クイズ折檻とはわけが違う、
命に関わるこの場で
パパは徳を代わりに差し出したのだ。
真っ青になりながら
咄嗟の言い訳を作り出す徳

淀みなく巧みに言葉を紡ぎながらも
気が遠くなりそうな体を必死に保つ
頭が真っ白だ
自分の息子を生贄に?
生贄にしても平気だというのか、
父はいったいどうして?

徳は"御璽そのものを偽造しようとしたのではなく
河洛が勝手に自分たちの腕試しにイミテーションの制作に挑戦したものが盗まれ
本物と間違えられ今回のクーデターに使われてしまった"
とした徳の言い訳に
"使われたのは晟朝期の御璽で瑞朝のものではなかった"
と補足した。

先程の徳が作り出した言い訳はともかく
今回の嫌疑は自分でなく商会が行ったもので瑞朝の御璽ではないこと、息子が関わったかもしれないことは既に文書に書き認め提出済、と聞いた徳は戦慄する

"息子とはいえご容赦は無用、如何なるお裁きでもお受けいたします"ーーー

生贄に差し出された事実に震えていた徳に
陛下からの問いが追い討ちをかける
"誰に産ませた子か"ーーー

パパは2番目の息子だ、と。
ということは…

"屏が産んだ子だな"
徳は背筋に悪寒を覚えるほどのショックを感じる
これだ
パパはこれを狙っていたのだ
息子を身代わりに犯人に仕立て上げたとしても
陛下にとって妹同然の屏の子ならばきっと、と。

陛下の裁定は
商会の収入5年分の没収のみ。

クーデターの加担をしたことは陛下もご存知だ。
咄嗟の言い訳にまんまと騙されるような君主ではない。
今回は身内の、特に可愛がる者の息子故ということと、あまりにパパの策がびっくりでアッパレなものだったため皮肉で返したのだ

急に命に関わる窮地に立たされ震え上がったところへ
思いもかけぬ結末となり
その顛末を思い呆然とし
卒倒しそうなほどの精神的ショックに
額づきながら震える徳ーーー

窮地を脱し
脱力感にふらふらになりながらパパの後をついて歩く徳

怒ってるとかもうそういうレベルの話ではなく
通り越して感心さえしてしまう
自分が友達を作らないのは陥れられるのを避けるためーーーとは言っても作れるような環境にはいなかったが
この間笙殿下に寂しい、とこぼした、あれが本心だろう。作りたいが作れない。
弱みを見せたり自分と親しくしているせいでパパに利用されたりしたくないからだ。
パパのせいで孤独な人生だった。
パパのせいでこんなに努力し優秀であってもそれを評されることがない。
それなのにーーー

熟考の末だ、そうパパは言うが嘘ばっかり。
徳には分かっている。

パパには敵わない、心底そう思った。
普通の親ならば息子の窮地に身を擲ってでも庇い命乞いをするものだ。
パパのやったことはその真逆
そこまで卑劣で冷酷な選択ができるなら他に策などいくらでもあったものを

そうなのだ。
これは身を守るための最良の策などではなく、徳に向けられた最高の釘差しだったのだ。
自分から遠く離れているのをいいことに
墨先生に秘術を習い親子の情まで交わしパパに対抗せんという力を欲した徳に
冷や水を浴びせるための。

しかし徳も言いたい。
四年前のあの日
いずれパパを助けるためにここで商いを学び、力をつけよと言われたから必死に血の滲むような努力をした。
今回もどれだけ心を尽くし砕き、さまざまな手間と時間をかけて準備したかわからない。

なぜそれに対しての労いがないのです。
私のやること成すこと、なぜ全て踏み躙り無碍にするのです?
生まれた時からーーー、同じ仕打ちを受け続けています。
私の能力が劣るから?
そう思えばこそ人の何倍も努力しました
私の愛嬌が足りぬから?
そう思えばこそ真心を尽くし続けてきました
しかし今まで一度として
父上からお褒めの言葉に与ったことはありません

私には分かっていますーーー、

それは穆如の母が産んだ子だから
自分の能力と努力ではどうにもできない理由

これからもこの先も
自分は貴方の愛を受けることはできないのだと
諦めて生きるしかないのか

"お前は強い
強者は褒め言葉など必要としない"
そう説明したパパの言葉に被せるように
徳は喚いた
またそんなことを言って私を弄ぼうと!
自分は利用されるだけの駒だ
その悲しさがわかりますかーーー⁉︎

その夜
客桟が使役する闘奴に怒りに任せ鞭を振るう徳
闘奴が呪詛の言葉を吐いても
あまりの哀しみに手加減なしに人間サンドバッグにして憂さを晴らす

ふざけやがって
ふざけやがってーーー
ただそれだけだ
自分はこんなに才覚に恵まれてる
自分はこんなに優れている
更にスキルを上げねば評価されぬのか
それともその出自のせいで
何をしても無駄なのかーーー⁉︎
信じて苦しみながらも前向きに努力した四年の全ては
これ見よがしに無茶苦茶にされ
自分を虐げる材料にされたのみ
この虚しさを如何にせんーーー

得られぬ愛、得られた愛

どんなに鞭を潰し闘奴を嬲っても
得られぬものは得られないまま
疲れ果て
心底傷ついた体を引きずって客桟の廊下をゆく

廊下を曲がったところで待っていたのは
蘭鈺児だった

何の用だこんな夜更けにーーー、
徳がすれ違おうとするのを蘭鈺児が引き止めた

気の進まない徳を有無を言わさず引きずってゆく
二人は2歳違いで蘭鈺児の方がお姉さん
なぜか蘭鈺児の気迫に圧され気味な徳だった
蘭鈺児は彼女の部屋へ案内する

あ、なんだそういうこと
このささくれだった気持ちをカラダで慰めてくれようと、ならば

いただきます!とばかりに襲いかかった徳をここでも諌める
いけません!とまで言われ笑
ち、なんだよーーー

もはや未平斉で見せていた猫の化けの皮はとっくに取り払われ
情緒不安定なさまを曝け出している徳

蘭鈺児が頬に飛び散った血痕を拭い去る
頬に飛んだ血はこうして拭けば消えるが 
徳が負った心の傷は深くずたずたで
今も血が流れ続けている

一緒に準備をしながら
徳がパパの好きなものを列挙するあいだ
どんなに心を尽くし
どんなに楽しみにしていたか
蘭鈺児は知っている
あんなに幸せそうに自分を労ってくれていた徳の受けた仕打ちの酷さに
蘭鈺児は心を痛めて徳に寄り添う

何か甘いものを、と立ち上がる蘭鈺児
しかし徳は甘いものの悪影響をつらつらと列挙してゆく
"甘いものは絶っているのだ
なぜならば心が脆弱になるからだ"

パパは徳を"強い人間"だと言った
強いものか、幼い頃からどれだけ傷ついたか!
傷つけられる度にパパに対する憎悪は募るばかり、それでも愛を求めてしまう自分が哀れで堪え難い
甘いものや果物は心を弱くする
強くなくては
強くならなくては
あの父を倒すために超えるために!

徳は傍らに戻ってきた蘭鈺児の腕を掴み
凄んでみせる
"私は酷い男だ"
弱いものを護るどころか蔑み
虐めたくなる

それは自分を見ているようで我慢ならないから
お前を傷つけたくない
だから
こんな風に優しくするな
健気な様子を見せないでくれーーー

蘭鈺児はそうやって悪ぶってはいても
徳の本質は優しいということを分かっている
鄴王が天啓に来ると報せが来てから
どんなに徳が張り切って準備をしてきたかも
尽くしても裏切られるやるせなさも分かりすぎるほど分かる

血を流し悲しむ貴方の心を慰めたいの
お母上がくれなかった愛情
お父上から貰えない愛情を
私なら与えることができる
甘いものを拒まず
一口どうぞ召し上がれ
私がお慰めいたしますーーー

受け取ってみた
甘あいりんごのコンポート🍎🍎🍎
甘あい恋が二人のあいだに生まれるかと
思ったら、、、

大間違い

徳はやおら振り上げると
中庭に皿ごと投げ捨てる
廊下に器がかーんと当たり
スプーンがちゃりーんと落ちる
酷い仕打ち
しかし張暁晨ファンなら慣れっこだ

"ばかにするな"
凄んでみせるも
そんなカラ威張りなど真の愛の前では逆効果で

めげずに生のりんごを今度は剥き出した蘭鈺児に
弑虐心を刺激され

"お前は芯から奴隷根性が抜けない奴婢だ"
と言葉で嬲る

蘭鈺児はりんごを差し出しながら微笑する
"虐げられたいとか
主従だからとか
そうではないのです
真の愛の話です
若様
貴方に出会った頃は分からなかった
笙殿下をお慕いていると思っていた
でもここで
貴方と
ほんとうの貴方と共に過ごして
同じ目標に向かって共に働いて
分かったのです

貴方に愛を捧げたい
私の全てを擲っても構わないほど
貴方を愛しく思います
貴方をその深い哀しみの淵から救いたい
愛を知らず
愛を求めるなら私が
私が貴方を愛します
貴方に愛をーーー

"女人の心を掴む術なら任せろ"
ーーー豪語したそれとはまた違う展開
ガチの愛に果たして免疫はあったのだろうか
面食らい動揺し
"ーーー私は悪人なのに"
などと溢す

"若様です。若様を愛しています"
貴方でなければならないと
貴方だけを愛しているとーーー
それが分かったのです
貴方を支え
貴方の哀しみを一緒に背負いたい
そしてできるなら無くして差し上げたい…"
"やめろ。
私がなぜ笙殿下の元からお前を連れてきてからというもの
手元に置くだけで放っておくと?
興味が失せたからだ

"そんなに虐げられたくば
厨房にでもずっと奴婢としていたらいい"

どうしたらよいか分からず
徳はその場から逃げ出す

まだ胸打つ動悸
自称女誑しは恋愛経験0
さあどうするーーー⁉︎





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