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海上牧雲記〜Part14

47話 人殺しの算段

或る晩。
香木を削っている息子の背後から、欒パパが静かに問う。

なぬ⁉︎

シカシこのイケズな父親に生まれた瞬間から鍛えられた息子は物騒な質問にも拘らずヘーキな顔で削りかすを吹き

誰かに依頼すれば?
などと返す
外でもない
返り血を浴びずに誰を殺すつもりかというのは
ぴーしゃや笙殿下のことだ
皇太子、ひいては皇帝暗殺の算段なのだ
不穏すぎる

"誰か"にネタをやらず自身で殺らねばならないとしたら?"

条件が変わっても
"ならこうしては?"
とすぐに代替案が出てくるむすこ

香木を入れた炉に炭を加えながら
徳は語り出す
徳が紡ぐ陰謀とは…

炉に熱が生まれる
陰謀が香る土壌が準備される

手を汚さないためには誰かにやらせればいい
しかし父上ほどの地位であれば
それすらも必要ありません
状況を作り出すだけ

"土壌"さえあれば
後は火を点けるのみーーー

ぴーしゃを殺すなら
その息子を利用して臣下のみなさまを焚きつける

充分に熱が渡ったところへ香木を加え
蓋をする
これでーーー

思い通りの香りが薫る
焚きつければ自ずと人は動き
欲望のままに父上の殺したい者は排除されるでしょうーーー笙殿下でも穆如槊でもぴーしゃでもーーー

パパは徳に策を訊いているが
策がないのではなく
常に息子の能力をテストしているのだ

"谷から呼び寄せて二年
だいぶ進歩を遂げたな"

珍しく褒められてぽかんとしてしまい
次いで嬉しそう
嬉しついでにちょっと得意げにPR

先程合わせたこの香は如何です?

"野心の香りがプンプンする"

かまをかけられ笑ってごまかす
こんな胡散臭い芝居は魏大勳には向かない
もっと幇間のように
またまたあ、父上ったら!
なんて笑ってお酌をするだろう
超お調子者でピーカンな世子になったろう

そのてん張暁晨ならば
どこかその闇の向こうに
悲しみがうつる
張暁晨の苦悩の表現の根源は悲しみだ
自身がつねに己の心とすがたに向き合い自答する
演技しているこの瞬間もきっと

野心か…ワシのためにワシの野心を煽ってくれたのだな
良い子だ

恭しく礼をとる徳に
人殺しの話題は本題に
瀚州を焚き付け穆如を葬り
臣下を焚き付け気持ち悪い太子を亡き者にし
ぴーしゃを孤立させん

まずは穆如槊(徳の母方の伯父)からだ
任せたぞ

《牧雲記》の拘りは台詞、俳優の演技と共にこういった演出にも及ぶ
ここのシーンは
早く笙殿下のお姿を、早く愛しの寒江と語凝のラブシーンを、早く和葉の動向を見たい方々には邪魔な上に無駄に尺を取るものとして嫌われた
"要らないだろ"と
この"要る⁉︎"という腹黒親子の怪しげな密談の場面も
台詞の状況を表すかのように
徳は茶を淹れるのではなく香を焚いている

香木を削り炭を入れ
香木を投入し蓋をし
パパの所へ持ってゆくまで

せりふを話し演技しながら
暁晨は的確なタイミングでそれらを行う

そこまでの配慮と思慮が施され
それに痺れて見るのが《牧雲記》だ
ストーリーばかりにとらわれ早送りで見て
"つまんなかった、あの親子の会話がいつも意味不明で長いわ退屈だわ、カットしてその分寒江のラブシーンに割いてほしかった"
などと言われるのが悲しかったが
牧雲記の状況を作り出しているのはいつもこの親子なのだ

第48話 なりませんぴーしゃー!その2

秩序いのち、伝統と家名を重んじすぎる穆如槊は寒山兄さまらの献策を全て却下。
凡ゆる策を最終回まで却下しまくり、そして瑞朝はめちゃめちゃになってしまう老害の権化。

その崇高なる精神とぴーしゃとの友情の絆は美しすぎるほどだが、臣下らの思惑と息子笙殿下のやりたいこと、ぴーしゃ自身の過去からの後悔による今更生まれた拘りなど、あらゆることが瑞朝の崩壊に繋がってしまった。
笙殿下が生まれたとたんに受けたお告げは正しかったのである。

負けまくりの穆如槊から兵権を奪いたい薛大人、瑞朝を純粋に守りたい孤松大人などから穆如槊の撤退と笙殿下の殺害を請われるぴーしゃ。
徳に怒鳴られたことでヤル気になり、朝堂を訪れた笙殿下に補佐を許す。

父上、褒めて下さいますよね?

朝堂で秘術を躊躇いもなく使いまくった笙殿下を見てしまった薛大人はカンゼンにビビってしまい

パパから見返りに貰った"宛州のゆめのような隠居リゾート"の土地証文を返しにきた

もうちょっと若かったらいろいろたたかうのですが、何ぶんもーこんな老いぼれタヌキなもので、とすっとぼける薛大人。

このめちゃくちゃ上手なスットボケじじいを演じてみえる徐成遠さんは
またもや『花と将軍』の葉昭のおじいちゃんを演じてみえる

息子たちが全員戦場で犠牲になってしまい
ショックのあまりお頭を病んでしまったというお可哀想なおじいちゃんだが
いつもチキンを手に持っており一度戦えばあっというまにのしてしまう

もしや病はうそで、装っているだけなのでは、と勘ぐってしまう
同じ時期に撮影したとはオドロキの変身ぶり
薛或のときもその達者ぶりはとてもすてきで

その口はベラベラと調子の良いことを垂れ流す
なので

だんっ!!
アイヤー!!痛ったーい!!

パパはご自分よりもあの妖怪の方が怖い薛大人にハラを立て
笙殿下をコロス機会を失ったとめちゃくちゃ怒っていた

うおおう
この痛がる芝居もうますぎる

パパが手を懐紙でふきふきしている間
震える手で刺さった刃をじぶんで抜く薛大人
お気の毒に…

スッカリ恐ろしさに縮み上がった薛大人
お言葉に甘えまして頂戴いたします
末代までの家宝にいたしますと追従三昧
やあどうした薛或そんなに血を流して

そこへがらりと戸が開き
オソロシイ父親のオソロシイむすこが

ヘーキな顔をしてタクシーが参りました、どうぞ!

ありがとうございました
またのお越しをお待ち申し上げております
恐しい親子が経営する恐怖のやかた
九州客桟は恐ろしいところ
この親子と関わったのがじごくの一丁目の始まり

瀚州の部族たちを統べるために
まずは索達猛を取り込まねばならない
尊大で欲深な彼に痛手を負わせるために

寒山兄さまも思いついていた塩で困らせる作戦

そのそもそもの値段をこの弱冠20歳の宛州会会長が操る

大局をも揺るがす状況を作り出し
朝廷の官吏らを動かし
皇帝をも窮地に至らしめる
最早そんな力を自在に操れるようにーーー

徳は二年間
パパのそばで大業の手伝いをしてきた
それももうすぐ仕上げにはいる
そろそろーーー
このとき
ついそう思ってしまった

パパは徳の気持ちをよく分かっている
だからこのときのわかりやすいおねだりを
徳がどれほどの勇気と期待とでやっと口にしたかもご存知だ
だからこそーーー

健気な徳
欲しいのはただそれだけなのだ
九州の半分の富を手にしているというのにーーー
ひとことでいい
"徳儿よ よくやった
さすがはワシの自慢のむすこだ"
そうーーー

パパの笑顔に吸い込まれるように近づく徳
しかしその刹那

徳のからだを襲ったのは
優しい言葉でなく
頬の痛みときつい叱責の声だった

一瞬何が起こったかわからなかったかのように茫然自失

脳裏にその叱責した言葉が染み込むや
耳を疑う

言葉の意味を理解する
その表情ーーー!
戦慄が疾る
自分が尋ねたこと
話した内容
全てーーー

パパの笑顔が肯定を表す
何度未平斎を訪れたかわからない
その全てを
父は把握していた

この二年
この二年ーーー!

恐らく谷に居た4年間も
抜かりなくパパはあらゆる場所に間諜を潜ませていた
自分の行動も言動も全て筒抜けだったのだ
自分を欺き
かげで野心を育て自身でその成長ぶりに満悦している息子の慢心を叩き潰さねばならん
忘れたか
二年前にも忠告したろうに?

それが何を意味するか
そう
全てはむだに終わった
今までに積み上げた努力
今までに願った夢
信頼を勝ち取り愛してもらうために準備し尽くした全てーーー

愚かなーーー!
分かってみれば当然のこと
父が迂闊にも未平斎に何も置かないなど考えられない
それが父だ
大業のためならどんな労も惜しまず
適えるために何でもする
その犠牲者が自分であることを
忘れたことなどなかったというのに!!

もう後のまつりだ
自分は生まれてから積み上げてきた信頼を
全て失ったのだ
もしか父を凌ぐことすら出来るようになったのでは?とまで思っていたが
掌の中で転がっていただけだったのだ
何と滑稽なーーー
取り返しのつかない過ちを犯した自分に笑い声さえ漏らしてしまう
あまりのしでかしに
溢れる涙を掌でひといきに拭い
漏れる嗚咽を無理矢理飲み下し
自嘲を消し去り唇を噛み締め覚悟を決める
この一連の芝居の凄さ
漲るリアリティ
張暁晨だけが演じ得る

そして諦めたかのように絞り出す
"私にどうしろと言うのですか"

それは先日と同じ命令だった
牧雲笙
牧雲笙
ただ一人同じ魂を持ち心を通わせることが適った友ーーー

もうただ従うだけの姿勢は取らない
徳が荒げた声は
夜食を届けようと部屋の前に来た蘭鈺児にも聞こえた
はっとして体を竦ませ話しを窺う

太子を殺せなどという大罪を息子にさせる
本気なので⁉︎

本気も本気
ワシが出鱈目でこのような大役をそちに任せると思うのか?
殺ってこい

お考え直しを
殺してしまえば取り返しがつきません
生かしておけば使い途も
父上は殊更笙殿下を亡き者にしようとなさる

あの不気味で頑なな態度
皇帝である父親の言うことにさえ反抗を示している
殺すが吉だ
これはそちにも言えるのだぞ
反抗するようならそちとてーーー
絶頂聡明なそちなら分かるな?

その野心を育もうならどんな手段も講じて踏み潰す
伝国御璽のさい皇帝の目の前で責を負わせたのがいい例だ
容赦なく
従うことだけを要求する

"殺すのはいつでもいいが
合戈が解放されるまでにだ"ーーー
合戈と聞いて徳は過剰に反応する
蘭鈺児は期限を聞いて焦る

なぜ合戈殿下を?
なぜ拘られるのです、この私を
殿下ほど気にかけて下さったことが?
牧雲合戈!あのような暗愚な者を!
全ては南枯皇后ーーー愛した女人の関心を引くためにーーー

私が母上が愛されないのは父上が
あの女を愛しているせいーーー
私にその片棒を担がせようというのですか
目の前のこの私よりも母上よりも
あの親子のためにかけがえのない友を殺せというのですか…!

もうその突っ込んだ話を聞いていたくないパパは最後の切り札を
もしそちがやらぬと言うならばそちは殺して
兄に
もしくは弟にやらせてもよいのだ
(徳には腹違いの兄と弟がいる)

"あの庶子らに出張らせるくらいなら"
徳の譲れぬ一線を知っているパパ

いつぞや
父上は笙殿下の秘術が危険だからと私を宴には行かせませんでした
あれは
あれはーーー

そちを大切に思っているとも
そちを買っているからこそ行かせるのだ
私を謀ったように
誰ぞを操るのはそちとて
負けてはおらぬ

いつか言うておったな
"自らの手を血で汚さず殺すなら
焚き付けるのが1番の策だ"と
お手並拝見としよう

自分は
何のために生まれ
何のために生きているのか
欲しいと願ったものは
もう手に入れることはできぬ
どこまでも
惨めに駒として便利に使われるだけの生
笙殿下とのあまりの違い
この父の息子に生まれた自分はーーー

暁晨はこのシーンについてこうコメントしている。
"僕はこの牧雲記でのシーンをよく覚えています。
僕にとって最もリアルな感覚を齎したシーンでした。全ての感情と変化がリアルで、全ての目はただ見ているものだけでなく、全てのデザインはドアに張り出されていてーーー、

ぶたれた直後、現実世界への扉が全部閉じ、心の中に極度の荒々しさは無限に拡がる静寂の空気に包まれて、この世にはただ二人だけが存在していました。

このシーンは非常に僕にとって意味ある芝居でした。
現場で、千源さんが僕に、僕の顔が腫れないようにセリフの順序を整理するよう言いました。
実は僕は撮影にかなり不安がありました。テスト前に、"実際に殴って(殴られて)みようか、と話していたのですが、千源さんがテストが始まるや本当に殴ってきたのですごく驚いたんです。

本番はどうだったかーーー"パンッと音がした刹那、(例の感覚の)ドアが閉まりました。
"うん、いいぞ!この感覚だ、この感覚を覚えよう"ーーーそれほど佳い体験でした。
今ではその感覚は時々にしか味わえていません。
プランを練ることはできても、あの時のように、視線も聴覚も、なかなか集中できない、なぜだか。

些細な拘りや、余計な考えや判断に翻弄されたり、独りよがりだったり、かと言って独善的にはなれなかったり、作品世界、そのシーンに集中できない。どんな風に演じるべきか、周りに気を取られて分からなくなる時があって。
しかし幸いなことに、僕には演じるにあたって真摯な想いと、直向きな強い信念があります。

いい加減な気持ちで臨まないこと、疲れたのを理由にさぼらないこと、悲しい時は笑うことはやめることーーーそうです、俳優は自分の役と真剣に向き合わなければいけませんが、刺激に頼ろうと感覚をシャットアウトするのではなく、自在に心理をコントロールできる方法を会得しなければなりません。

経験を積んでゆけば、心を開き、世界に入りこむ
術も容易にできるようになるはずです。
僕はインスピレーションと野心を持った良い俳優だと自負しているので、キャラクターの心を表現するために、更に真摯に、更に楽しみながら取り組みたいと思っています。
また、未来に向けて自分自身に必要なことや良い演技に通ずることは努力を惜しまず精進してゆくつもりです"

おねがい、愛していると言って

戸のかげの聞き耳に気づくパパ
蘭鈺児は慌てて逃げる

緊迫した顔で徳に無言で殺せ、と命じるパパ
皇帝殺し、太子殺しの密談を聞かれたのだ
生かしておくことはできない

誰であろうと殺さねばならない
まだ涙が滲んだままの徳は立ち上がる
もう自分の所存など何になるだろう
相手が誰であれ殺さねばならないのだーーー

部屋から出て逃げる気配を追う徳
パパのスイートから蘭鈺児の部屋までは渡り廊下を大きく周りこんだ対棟の更に対棟。

1番角部屋が蘭鈺児の部屋だが彼女はなぜか隣のナンコユーリにとっ捕まり几帳の裏に隠された
彼女の目的はーーー

ユーリを助けたのは徳だ
いらいこのホテルの一室を与え匿っている
この女も殺さねばならない案件だった
パパに叱責を受けてまで生かしてやってるというのに
またやらかしやがって
恩、て言葉をしらないのか?

殺しにきたの?別に構わないわ
だけど死ぬのはいやなの
この国で最高の女になるまでは
だから見逃して頂戴ーーー

あからさまな"誘惑"に対して
徳はフイとその頬の手を離れる

相手の意のままになるつもりがないとき
暁晨はよく体も視線も離し
あさっての方向を見て話す
この独特の芝居は舞台時代に身につけたものだろうか
(体全体を客席に向けるやり方)
けれど他の役者ではあまり見ない

口では
"もちろん、タイプで自分のものにしたかったから連れ帰った"
と告げる
それを聞いた蘭鈺児がショックを受ける

暁晨の目の前にいるのは演技派の女優万茜
この直後に《麗王別姫》で女将軍独孤靖瑶を、そして《三国機密》では暁晨の親友馬天宇と共演し、皇后伏寿を演じた。

暁晨とは、翌年また《脱身》(暁晨は主役ではない)で共演している。

実はこれはすごいこと
馬天宇には普通でも
暁晨が移籍前にいた世界の相手役はいつも同じだった
孫燿琦か梁晶晶だ
作品は違えど
持ち回りで同じメンバーでいつも過ごしていた
"仲間"たちだ

《隋唐英雄5》
《隋唐英雄3》
《隋唐英雄》
孫燿琦。あまりにも共演作が多いため、恋人説が絶えなかった。しかし暁晨にはこのころ一般人の恋人がいた。
《盗墓筆記》左が孫燿琦
《神医安道全》

梁晶晶。彼女はいつメンたちに手作りのマフラーを編みプレゼントした。

暁晨はプライベートでも、大事にそのマフラーを何年も使っている。
素朴なマフラーは一眼で手編みとわかる。
恋人同士ではないが、暁晨にとっていつも一緒の仲間なのだ。そして、この"いつも変わらぬ"仲間たちとその環境が、このころの彼の悩みでもあった。

《神医安道全》

いったいいつまで、このレベルの作品たちから抜け出し、もっと質が高い、一流大学出身者がひしめく作品に出られる役者になれるのか。
《海上牧雲記》は、まさに暁晨にとって脱出をはかる梯子だったのだ。

そして今目の前にいるのは
いつメンの仲間たちではなく、一流の女優である万茜なのだ。
夢のようだった、と彼は語る。

"誘惑"を跳ね退けた徳
これ以上籠絡されてなるかと踵を返したとき
ユーリが窓の障子を閉める

閉める前の窓を暁晨が残している
こういうものに"風情"を見出すのも暁晨だ
今までの仕事場では見たこともない
大好きな日本の茶室のようなーーー

この誘惑シーンのものではないが、別のシーンの香盤表を、玉豊役の林鵬氏が持っていて、私は仰天した。
てっきり扮装が同じシーンを同じ日に撮っているかと思い込んでいたが、これを見ると、この日のユーリ役の万茜は最終カットから始まり衣装もメイクも変えながら、朝7時半に楽屋入りし、現場へ9時半に赴き、そこから夜のシーンまでも撮っている。
これほど連続してこれほどのシーンを一日で撮影しているとは!
つまり同じセットならば劇中日時や昼夜、衣装が異なろうと、一気に撮影したと思って間違いがない。
朝堂や土砂降りのシーンが幾つかあるが、それらも同日に撮られたものだろう。
俳優もスタッフも、大変なしごとだ。
全てに於いて、並外れた集中力と技術が必要とされるだろう。

ゆっくりとユーリは近づきながら衣を落とすーーー

もろ肌脱いで
命請い
私が美人でタイプだったから助けたんでしょう?
抱いていいのよ
ご遠慮なく…
ほら、だんだん好き、って気持ちになってきたでしょ
几帳のかげの蘭鈺儿に聞こえよがしに

ユーリの作戦どおりすっかり気を削がれた徳
←けれどシッカリムネは見ている

自称女誑しのくせに純粋な徳
顔を逸らす
遠慮しているときの張暁晨のジェスチャー
憐れな境遇の弱い女だと思って助けたのに
こんな狡い女だったとはーーー

すまないが
私に心を捧げていない者を抱く趣味はない

更なるお誘いは断った
蘭鈺儿はホッとする
けれどタイプであることは認めた

結局見逃す徳
涙目で几帳から出てくる蘭鈺儿

"分かった?貴女なんか彼にとって単なるどの女とも同じよ"
"違うわ"
ユーリを断った
それはやたらめったら女に手を出すわけではないってこと

ユーリの目的は
揶揄いたかった
蘭鈺儿を虐めたかった
恩を売りたかった
自己顕示したかったーーー
万茜だとイメージし辛いがユーリの中身は最低最悪

ただ徳も
このやりかたに興が乗らなかっただけで
よくある"愛する女は独りだけ"
ではない
そこも気に入っている

お願い、私を好きになって

中国ドラマには珍しく、牧雲記は畳に布団を"敷く"。おなじみの寝台がない。ぜひ徳が眠るシーンを見たかった

今夜彼が部屋に来たらーーー

ユーリは意地悪でそう言ったのだ
憂さ晴らしなら先程ユーリに誘惑されたとき抱けばよかった
彼は撥ねつけたもの
"愛した者の愛なら受けよう"
そう言っていたものーーー

果たして徳はやってきた
いつもと違い遠慮がちな風情で
今夜彼は辛いはず
またもや父に酷い精神的拷問を受けたーーー

目の前のこの人を慰めるのはユーリでない
自分こそこの人を癒せる女でありたい
誰にも渡したくない
愛しているからーーー

蘭鈺儿は思い切って駆け寄り
抱きつき
口吻ける
想いよ届けーーー

唇が離れたが
刹那徳は狂おしく彼女を掻き抱き
その想いを貪るように享受しにゆく

ユーリを拒絶した徳
蘭鈺儿の誘いには応えた
無償の愛を捧げてくれるのは彼女だけ
自分を愛してくれる者がいる
今は愛を享受したい

愛したら愛してくれる
愛され
愛する
愛なしでは辛すぎる
彼女ならーーー

ここのキス・シーンは牧雲記中最も濃厚なキス
やっと素直になった徳に私もハンカチで目元を拭ったものだった

しかも二人はそのまま次の段階にまで突入!
この"事後"のしっとりした風情の若様をご覧下さい
後悔にどっぷり浸かって
いかに激しくつい暴走してしまったか手に取るようです!

徳は蘭鈺児にすまない
衣を整えてもらいながら
うつむき加減でその横顔を見つめる
"勢いで抱いてしまった"
負い目からの気遣いのことば
"また明日来よう"ーーー

蘭鈺儿が仕掛ける番
"立ち聞きしていたのは私です"
いつもは否定しているのに
このときは"賭け"の芝居

徳はやっと立ち聞きしていたのが蘭鈺儿だったのだとわかる
どうりでーーー
ならば
先程抱かれたのは
たしかに自分に愛されるもの
その立場になってからのおねだり

けれども
蘭鈺儿は笙殿下を助けるために徳と関係を持ったのではない
"手に入れれば興味が失せる"と
常日頃から徳が言っていたのを蘭鈺儿は知っていたため
敢えてこういう態度を取ったのだ

愛について貪欲なくせに臆病で優しい
そんな徳の愛を手に入れるために

私のこと
好きですかーーー
貴方を愛して
貴方の悲しみを受け止めて
癒やし慰め消してあげる
貴方が欲しい愛を私がーーー

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