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青蛙王子

記念すべき暁晨の初ドラマ。
制作は芸能界に入るきっかけとなったオーディション番組《加油!好男儿》のスポンサー、菜卡。

この全国を対象にした番組で8位に終わった暁晨だが、番組自体が予想に反して大変な反響となり、必然的に参加した主要選手たちはそれぞれ強烈な印象と人気を残すこととなり、当初の予想に反して例え途中で脱落したとしても、待ち構えていた業界関係者によってドラマや映画の出演チャンスを掴むことができた。

暁晨も例外でなく、抜きん出たルックス、人柄と性質、場の処し方などの立ち居振る舞いから"これは"と思われていた監督によって映画出演を果たした。

映画《追愛騒動員》

どの選手にとっても、たった2か月前には殆ど全員一般人だったわけで、文字通り夢のような毎日が始まったのだった。

番組ではその選手らの人気と熱狂ぶりの空気を読んで、脱落したとしても応援隊として、番組終了まで出番を用意したり、主要選手らを集めたコンサートを催したりした。

番組終了と共に13人の選手らがスポンサーでもあった上海で最大手の芸能プロダクションSMG(ShanghaiMediaGroup)と契約し、本格的な芸能活動を始めたのは2006年秋。

《青蛙王子》は、まだ番組の熱冷めやらぬ年明けに企画され、メガホンは王碩監督が執った。

主役は『好男儿』出身の中から選ばれた。
ひとつ屋根の下で、シングルマザーと共に暮らす仲の良い四兄弟のそれぞれの恋愛模様を描く。

長男 知凱

李家の長男、李知凱。
その名を見てわかるとおり、演じる鍾凱から一字が採られている。
三人も弟がいるうえ、父親が早くに他界したため、必然的に父親のような役割まで担うこととなった。

家計も主に担っている。
非常に真面目な常識人で、事あるごとに小言と苦言を呈する苦労人。ワーカーホリックで恋愛には奥手。
家長であるが故に生活も自ずと家庭重視となり、様々な犠牲を払っている。誰よりも家族を愛している。

母親でも容赦しない

とくとくと諭すようすは、頼り甲斐がある選手らの最年長のお兄さん、鍾凱にぴったり来る。
というよりも、キャラクター設定そのものが、演じる俳優そのものだ。

演じる鍾凱は、湖南省出身のモデルで、湖南モデル大会で優勝した経験がある。《加油!好男儿》では暁晨と同じ武漢地区からエントリーし、全国大会に出場権のある、五強(5,000人以上が参加し、決勝に残った5人)となった。

『好男儿』のユニフォーム
武漢五強

しかし、全国大会第一戦でまさかの脱落。全国大会はまずそれぞれの地区から集まった34人から15人まで一気に絞るものだったが、ルックス、歌、ダンス、人柄など、誰より抜きん出、他の選手の信頼も篤かったというのに、視聴者投票で落ちてしまったのだが、

晴天の霹靂に動揺し、号泣しているメンバー

武漢のメンバーが悲しみ、その後の試合も常に脱落した鍾凱の存在を忘れず健気に団結し戦う、その様子があまりにも感動的で、番組放映中人気を保った。

鍾凱、巫迪文、毛方圓、陳澤宇

番組終了後SMGと契約、『好男儿』出身の188㎝超えの選手で結成したユニット《GoGoClub》でデビュー。《青蛙王子》の主題歌も彼らが歌っている。

当時26歳だった鍾凱は現在も俳優として活躍中だが、この間の『好男儿』リユニオンの特番では両親の介護で実家に帰っているということだった。
まだ独身(43歳)。

次男 知文

次男李知文
演じるのは巫迪文。
売れないモデル。底抜けに明るく、良く言えばポジティブ、悪く言えば日和見主義なお調子者。
黙っていれば見惚れるハンサムなのに喋り出すと途端に隣のお兄ちゃんのようにスチャラカになってしまうのは中の巫迪文そのもの。

ちゃらんぽらんなようでも、一途な性格はやはり李家の男子、率直に物を言う。

その性格が、望んだ売れっ子になってから非常に禍いし、愛した様々なものとの別離に苦しむことになる。

巫迪文。広東省広州出身のモデル。『好男儿』では上海地区のチャンピオンとして全国大会へ。

全国大会では優勝候補の一人だったが、結果は4位に終わった。

まさに王子🌹

鍾凱と同じく、デビュー後は"GoGoClub"の一員として活動したのち、現在まで俳優を続けている。

三男 知晨

三男の知晨は内向的で無口で、かしましい李家にあって、一人静かにみんなの会話を聞いている。
誰より冷静に物事をとらえ、殊更荒立てようとしない。
普段顧られないからこそ、薇薇に愛情を向けられたとき、とても感激したはずだ。

細身な暁晨
四人の中で最もファッショナブルだったように思う。

特徴的なこのぱっつんの前髪
これは、『好男儿』の地区予選決勝時、番組のヘアスタイリストが考案したものを再度採用したのだろう。

演じる張暁晨はこの頃はまだ、常にアンニュイな雰囲気を纏い、俯きがちの長い睫毛を憂いに重くしばたかせて、周りの楽しそうにはしゃぐ様子を笑顔でただ見つめる、高貴な気風漂う、独特な存在だった。
『好男儿』では8位で脱落。

現在とは全然違う〜笑

四男 知暁

李家の末っ子。子どものころの病気がもとで
聴力を失う。
唇を見て言葉を理解でき、手話のできない相手には携帯のメール画面で伝える。
家業の花屋を手伝っている。
手先が器用で手芸が得意、指輪だって作ってしまう。
今作は知暁がそれぞれの兄たちに贈った指輪が重要なアイテムとなる。

演じる宋暁波は劇中と同じく、幼い頃受けた予防接種が元で聴覚を失っている。
巫迪文と同じ上海地区から『好男儿』全国大会に進み、"天使"と呼ばれた。最終的には亜軍(2位)に。
毎日が緊張と未経験なことの連続。番組序盤の頃の仲間との別れや、過酷な終盤放映期間中、誰もが精神的肉体的に疲弊しきっていたとき、暁波に癒され、手話で交流をはかることが癒しとなった。

"親友"を"結婚"としてしまい、バカウケの迪文

韓飛

ヒロインの元彼。
ヒロインはセレブのお嬢様だが、貧乏人の韓飛と恋仲に。それが元でこの物語が始まるわけだが、貧乏という設定は演じる呉建飛の出自にまつわる。

呉建飛は『好男儿』で杭州地区のチャンピオンとして全国大会に出場、最終的に第三位になった。
歌も芝居もいまいちだった彼が後半追い上げたのは、貧しい中で妹の学費のため、ありとあらゆる仕事をし、家を支援していた建飛の状況に同情と賞賛が集まったからだった。
当時流行りだしたばかりの韓国風の一重の切長の眼、さわやかなルックス。『好男儿』終了後も、歌手として暁晨以上に(一時的に)成功した。

記念すべき暁晨の初ドラマだ。
オープニング曲はこちらもまた『兄弟联』が歌う"烫"。

李家の4兄弟

上海のいつもの朝。
ママがどデカい招き猫を買ってくる。

食事を作るのは専ら知暁。

ダイニングで見咎めた長男知凱が朝っぱらからママにも容赦なく説教。
むだなものに散財して!と血圧を上げる大哥に静かな声が。
"8時まであと20分だよ"

声の主は三男の知晨。彼は物静かで、寡黙である。忙しない朝でも自分の緩慢なペースを乱さない。

そこへ伸びをしながら次男知文が降りてくる。
"また一晩中夜遊びか?"
"祝賀会だってば"ーーー
知文は売れないモデル。
"また同じ言い訳を。たまには違うことを言ってみたらどうだ?"
大哥がまた説教モードになっているのを尻目に
さっさと身支度を終えて知晨は出てゆく。
この様子を見ているだけでも、知晨が癒し要員だと伝わる。

魏斌、可愛い…❤️

知晨の職場は街のワイン専門店。同僚の小奕が手を振り挨拶。
小奕役は『好男儿』で暁晨と同じ武漢地区からエントリーし、最終全国大会5位という成績を残した魏斌。

ちなみに大哥鍾凱と暁晨も、同じ武漢地区からの出場。3人はチームメイトだったのだ。

李家に父親はいない。末っ子の知暁が生まれてからまもなく他界してしまったのだ。
女手ひとつ、ママが花屋を開いて四人もの息子たちを養ってきた。
しかし途中からは長男知凱が父親代わりだ。
今はサラリーマンとして一家の大黒柱を務めている。

基本女性よりも仕事いのち、ワーカホリックで職場では通っている。
ガッチゴチの堅物であり、鬼チーフでもあるため、モテるものの距離を置かれている。

そんな大哥に何とか出会いの場を、と、この日は知文がお膳立てをしてモデル仲間を集めたものの、女性たちは知文にまとわりつくばかり。時間の無駄だと席を立とうとしたとき、一人の女性が遅れて合流してきた。

知凱は女性に一目惚れ。かくして、カップルが成立した。
翌朝ママは大喜び。

賑やかに語らう兄と母のそばで、黙々と汁物を啜る知晨

大哥は昔大学時代に恋人がいたものの、遠距離恋愛になり、自然消滅していらい、誰とも付き合おうとはしなかったらしい
しかし
今では完全にラブラブモードだ。

"あの"知凱が鼻の下を伸ばしてデートの約束を職場でする様子を、同僚らはオドロキの眼差しで見る。

運命の指輪

ある日
手先が器用な知暁が知晨を部屋まで連れきたと思うと
一対の指輪を贈った
幸運を運んでくる魔法の指輪だと言って

一つは知晨兄さんに
もう一つは未来のお嫁さんに渡して、とーーー

知晨の夢は、本場フランスへ行ってソムリエの本格的な勉強をすること。けれどそんなお金は、とうてい今は作れそうにない。
"べつに中国に居ても、勉強はできるさ"
と、言い聞かせながら。

その夜、店を閉めようというとき、一人の女の子がへべれけな様子で店に勝手に入ってきた。
面倒だと思いながらも、淡々と相手をする知晨。

余計な言葉などはかけず、明らかに様子がまともでない相手の応対をする。言われたままに、奥のセラーから一本持って来る。

酔った視界に、知晨を愉しむような表情の薇薇。
薇薇役の李晟は、暁晨より2つ下だが2002年から歌手や女優業を始めた先輩だ。現在も活躍している。

現在は一児の母

後年、美しい所作で茶を煎じたり香を立てたり、そんな風流なあれこれを披露する暁晨だが、ここでもワインをグラスに注ぐまでのソムリエらしい手捌きを披露する。

ジッと知晨を見つめたままの薇薇。
そんな薇薇に一瞥もくれず、知晨はグラスにワインを注いだ

手渡した薇薇が指に怪我をしているのに気づき、一旦奥へ向かい絆創膏を取ってくる知晨。
優しく手を取り、手当てする。
そのさい、
"少しの間だけだから我慢して"
とだけ呟いた。

そのとき薇薇に過ったのは、昔の恋人、韓飛だった。

グラスを煽り暴飲する薇薇。
"もっとゆっくり飲まくちゃ。そんなじゃ味も何もあったものじゃない、せっかくのワインが台無しだ"
と知晨が諌めるも、聞く耳など持たない。

ついには手酌で飲み出した薇薇、
"もう閉店なんだ。君も家に帰ったら"
無理にお開きにしようと持ちかけた知晨に対する彼女の言葉は
"帰らない"
だった。

仕方なく彼女をおぶい、バス乗り場へと向かうも、薇薇は家はもっと先だの一点張り。
"寒いわ"
時期は真冬。
公園の噴水のそばを通りかかり、一旦そこの縁に彼女を下ろしたが、

酩酊している彼女がバランスを崩し、噴水の中に落ちてしまった。

真冬の噴水でずぶ濡れになり、知晨はどうするつもりだと薇薇に喚く。薇薇が言うまままっすぐ進み、あるホテルへ。

ずぶ濡れのままホテルのフロントへ行くと、すぐに部屋を充てられた。
何も聞かれず何も話していないのに、カードキーを渡されて首を傾げる知晨。
実は彼女はこのホテルのオーナーの娘なのだ。
従業員はすぐさま彼女の母親に連絡する。

女性従業員に薇薇の着替えを頼み、自分も濡れねずみのために、熱いシャワーを浴びる知晨(不必要なサービス😂💕💕💕)

こんな夜更けに…!
報せを受けた母親がすごい剣幕で駆けつけ、ドアを開けるやそこには裸の若い男!!
お決まりの展開。

薇薇の母親は実は知晨らのママと高校の同級生という設定で、知晨のことも知っていた。
だから遠慮なくその恥知らずな頬を叩く。
知晨にしてみれば、踏んだり蹴ったりな夜となった。

あまりな事件に、翌朝の知晨は心ここに在らずでボーっとしている。
ママや知文は相手が金持ちの令嬢であることから、知凱に続く逆玉の輿だと大盛り上がり。
薇薇はこってりと説教された後、ホテルに忘れられていた指輪が、かつて韓飛から贈られた約束の指輪と同じデザインであることに気づく。

仕事場に行ってから、指輪を忘れたことに気づいた知晨。
もう一度ホテルに戻ろうと店を出ると

常に俯き加減ぎみのこの憂いを帯びた表情が、この頃の暁晨のイメージスタイル。
荒い画面の動画しかない当時、正式なスチール写真は貴重な資料。

薇薇は指輪を返そうとはせず、
"なぜ貴方がこの指輪を持ってるの?
どこで買ったの、誰から貰ったの?"と矢継ぎ早に尋ねるが、知晨は"君には関係ない"と返しただけ。
"あら、ずいぶんね。貴方のせいで、ママにたくさん怒られたんだから。何かで償ってくれなきゃ"
"迷惑被ったのは僕の方だ。指輪を返してくれ"

''私の要求に応えてくれたら返してあげてもいいわ"
目の前の女子の身勝手なこと、昨夜のいざこざも思い出すだけで疲れる。
これ以上の厄介ごとはごめんだ、と思い、知晨は要求を拒否する。

"やめとく"
"はあ⁉︎ならこの指輪は要らないってことよね。棄てるわよ?それでもいいの?"
知晨はウンザリした気分でしかたなく条件とやらを訊く。

"明日午12時に、私とデートすること!なら指輪を返してあげるわ"
一方的にそう告げると、愉快そうに薇薇は戻っていった。
その姿を黙って追う知晨。
相手が目の前を去ってから、俯いたその視線を向ける、私がいつも暁晨流と呼ぶその独特のしぐさを、ここで既に見せている。
もちろんこの時は演技などまだど素人同然、この芝居は王碩監督の演出だろうか。
このやり方を、以降も暁晨が気に入って使い続けるようになったのだろうか。

翌日。渋々ながら現れた知晨。
静かーに無言で来るため、薇薇の反応が面白い。
あさっての方向を見て自分を見ないため、変な人、という印象を持つ。

薇薇の目的は、自分の見合い話をぶち壊すことだった。
知晨を使い、自分の恋人だと嘘をつく。
知晨に有無を言わせず、抱いた腕で牽制し、こともあろうに知晨を"貧乏人"だと。

"ママは彼が気に入らないからこんなお膳立てをしたのよ。
何をしたってむだよ、私の愛する人は彼だけなの"
心にもないことをベラベラまくし立てる薇薇に我慢ならず、知晨は憤る。

話がホテルのことに及び見合い相手は怒って帰り、薇薇の母親もカンカンに怒る。
薇薇はその様子に笑い転げていたかと思えば、次には万引きしていた男につっかかりと少しも大人しくしていない。知晨は面倒に巻き込まれてばかりの一日となった。

顔を万引き犯に殴られ、警察に駆けつけた父親と帰った薇薇を見送ってから、肝心の指輪を貰い忘れたことに気づき知晨は絶句する。
腐れ縁はまだ続くようだ。

知晨は家族が未だ金持ちの女の子と自分が付き合っていると喜んでいるが、それは誤解だと知暁に言う。
そして、貰った指輪をうっかり失くしてしまい、懸命に探したけれども見つからないとーーーつまりこのとき知晨はもう、薇薇には会わないと決め、指輪を取り戻すこともやめたのだ。

ところが運命は知晨を薇薇とは別れさせてくれない。
知暁は、自分が以前から紹介したいと思っていた、ボランティアの女の子に会ったら許してあげる、と言うのだ。

俯き暫し考えていた知晨。
大切な手作りの指輪を見放すのだ、知暁に申し訳ない。そこで、償う気持ちで快諾した。
"じゃ土曜日に仕事が引けたらお前のところへ行くよ"

土曜日。知暁の聾学校に薇薇がやってきた。
手話はお手のもの、そう、知暁が知晨に紹介するつもりだったボランティアの女の子とは、薇薇のことだったのだ。
みんなでお菓子を買いに行くことに。

前にいた男が、"何か言ってみやがれ"と揶揄ったため薇薇は怒り心頭!
"何てことを、謝りなさいよ!"
胸倉を掴むわ蹴りを入れるわ、激しいことこの上ない。
そこへ知晨が知暁に会うためやってきて間に入る。

"何で会う度君はケンカしてるんだ、謝るんだ"
彼女の無鉄砲さとナンセンスさを知っているため、頭から彼女を悪者と決めつけてしまったため、薇薇は更に怒る。
"彼がこの子たちをばかにしたのよ、なぜ私が謝らなきゃならないのよ⁉︎"
"先に手を上げたのはどうせ君だろ"
"あんたみたいなバカには(事情を)話したくないわ!"

店を飛び出して行ってしまった薇薇。彼女を目で追いながら、踵に体重をかけ、体を前後に揺らした暁晨独特のこのくせを、初めてのドラマでも見つけ私は喜んだ。

この立っているときによく見せる踵遊びに気づいたのは《海上牧雲記》のときだった。

《雪中悍刀行》でも、踵からつま先へと体重移動させるこの奇妙な動きを見せていた。暁晨は歩くさいも踵から着地させる。演じた洪洗象は、久しぶりに悪意をぎらぎらさせる曲者ではなく、知晨のような朴訥さを持って無口で可愛い役だった。

聾学校に戻ると、きれいな歌声が。教室を覗いてみると、薇薇が完璧な手話で歌を子どもたちに歌ってあげていた。
その様子から、子どもたちに優しい気持ちで寄り添う彼女の心が感じられ、知晨は一気に彼女に好感を抱く。

知暁に無理矢理二人きりにされ、気まずいながらも勇気を出して謝った知晨を、今度は薇薇が意外そうに見つめる。
"昼間は僕が勘違いして悪かった"

"何よ、一言謝っただけで許すと思う?"
彼女らしく生意気に返され、知晨はなら何が望みか聞くと、
"この間のワイン、おいしかったからまた飲みたいわ"と。
"また酒か…"
ため息混じりにそう知晨がこぼすと、
"今度は酔わないわよ"
無理矢理腕を取られて店へ。

初めて会った時と同じワインを開け
グラスに注ぐと待ちきれないように口をつけた薇薇に吹き出す知晨
"ワインを飲むのは男だけなんて決まりはないでしょ"
と居直る薇薇

"あの夜はママが私をお見合いさせるために部屋に監禁したの。窓から脱出してやったわ。
お酒が飲みたい気分だったのよ
まあいいじゃないの、お互い知らなかった者同士の出会いに乾杯しましょ"

"人を殴るのはいけない。今後は軽率な行動は慎むべきだと思う。君が例えいい子だろうと、台無しだ"
知晨はそう諭す。
"でも、私が何か騒動を起こしてても、その度あなたが助けてくれるんでしょ?"
人のいい物言いに、また知晨は苦笑する。
好きで助けてるわけじゃないーーーそんな今までの経緯を薇薇も承知していて

"ママがホテルのときあなたを殴ったんですってね。
ごめんなさい"
誠実に謝ってくれたことに、知晨はいいんだ、と首を振る。

一緒にワインを飲みながら、知晨はもう今までの面倒も、気にならなくなっていた。

酔いながらも、知晨は再び指輪を返してほしい、と言う。薇薇はまたも家に忘れてきた、と言う。
"あれは弟(知暁)が作って僕に着けさせていたものなんだ。曰く着けてれば魔法の力で運命の相手と出会い、結ばれるんだってーーー君は魔法を信じるかい?"

"わからないわ。でもあなたの指輪と同じものを持ってるの。
三年前に別れた彼に貰ったものよ。
あの時は自分が童話の中のお姫様になったような気分だったわ。
彼は韓飛というの。家が貧しかったから、自力で学費を貯め、大学に入ったわ。学内一の逸材だった。優しくて賢くて…
大学卒業のときにくれたの"

しかし韓飛を薇薇の母親は気に入らなかった
金のない男など野良犬と同じだと
二人は駆け落ちを計画したが
約束した電車は行ってしまい
どれだけそのまま待っても韓飛は現れなかった

韓飛は約束の日より前に
薇薇の母親から十万元を手切れ金として渡され
そのまま去っていたのである

"私は全ての気持ちを彼に捧げたっていうのに
たった十万元で跡形もなく消えてしまった
おとぎ話なんて嘘っぱちで
あなたの指輪にも魔法なんかないのよ"
泣きじゃくる彼女の涙を
知晨は無言で拭う
それだけで
彼女には寄り添ってくれる気持ちが伝わった
だからそのままーーー

翌朝
寄り添って眠る二人を母親たちが発見
憤慨する薇薇ママと狂喜する知晨ママ

"貴女の息子が娘を拐かしたのよ!"
"失礼な、貴女の娘が息子を誘惑したのよ"
息子よよくやった!とガッツポーズのママ

家へ戻り大哥の説教タイム。
"ソムリエが泥酔するなんて…反省しろ"
ママと知文は興味シンシン。
"どうだった⁉︎"
"デートは場所が大事なんだぞ!
"もー、放っといてってば!"
自室に逃げる知晨。
とにかく疲れた。彼女と会うと疲れがハンパない。

薇薇は自室で指輪を弄びながら
知晨のことばかり考えていた。

働いている知晨の元に、薇薇からメールが入る。
"指輪、いつ返したらいいかしら"

微笑みながら知晨が返した文面は
"いつでもいいよ"ーーー
なつかしいメールだけでのやりとり。
この頃(2006年)はまだガラケーだった。
写真機能もついたばかりで、画素も粗かったものだ。
中国仕様の画面が興味深い。
20年前ーーー時が移ろうのは早い。

さっそく張り切っておしゃれし、出かけようと思ったら監禁状態だった薇薇は窓から飛び降り、脚を骨折。
娘のあまりの無謀さに薇薇ママも観念し、娘の要望を満たそうと知晨を病院に呼んだ。

"無茶ばかりしてお母さんを心配させずに、ちゃんと話し合わなきゃだめだ。
お母さんは泣き腫らして、目を真っ赤にしてたんだよ"
たしなめる知晨の為人に、薇薇の両親はやっと好感を持ってくれたようだ。
"夜にまた様子を見にきます"
そう言う知晨に、忙しい両親は願ったりだ、と喜ぶ。

やっと薇薇は知晨に指輪を返す。
"まさかこれを持って窓から飛び降りたと?"
"大事なものなんでしょ"

律儀で一本気で無鉄砲で
やることなすこと無茶苦茶で
けれども憎みきれない明るい笑顔で…、

見つめ合ういい雰囲気を、ノックの音が止めた。
知暁が店の花束を持って見舞いに来た。
知晨は慌ててさっき洗ってきたばかりのタオルをまた洗いに行った

知暁から進展を聞かれた薇薇
"イイコトはたくさんあったけど、貴方が想像してるようなことは何もないわよ、でもちょっぴりだけ、いい雰囲気になったわ"
内緒話にまた知晨は照れて、タオルを洗いに。

もうすっかり薇薇は知晨のことが好きでたまらなくなり、何を言っても頼んでも、朴訥として言葉少なに、優しさで自分を包みこんでくれるその様子にも夢中になった。

なのにまた、知晨の無言でただ側で本を読んでるだけといった鈍感さに、勝手に腹を立てて外に飛び出す。
何も思わず、何も考えていないかのように
今もこうして、転ぶから、風邪を引くからなどと自分を心配して背中を差し出しおぶってくれたりして…
その背にしがみつきながら、
"ここ知ってるわ"
などと言う薇薇に知晨も呆れながら、
"よくそんなことが言えるな、あんなくそ寒い夜に酔っぱらって冷たい水の中に僕を落としたのは誰だよ"
と、責める。
"ーーー君は僕とよく似てる"

"似てる?どこがよ。
私はあなたみたいにダンマリを決めこんでクールに一日中振る舞わないし
あなたみたいに何でも知ってるような顔して意味深に澄ましたりしないし
あなたみたいに優しくて思いやりなんかないし
あなたみたいにバカじゃないわ"
何だかんだあなたはバカよ
バカ バカ バカ バカ!ーーー

知晨は思わず
捲し立てるその唇を塞いでいたーーー

薇薇も驚いたものの、すぐに嬉しくてその口吻けに応えた。

噴水が煌めくこの最高にロマンチックなキス・シーンは実は5回のNGの末OKが出たもの。
彼女には不自由してこなかった暁晨がキスが初体験だったとは到底思えないが、暁晨はこのシーンで照れまくり、外野のファンはうるさいし、どんどん冷えてきて夜は更けるしとカントクがカンカンになって、"プロになったんなら気合いと集中力を見せてみろ!"と喝を入れようやく成功したらしい。
張暁晨思い出の初々しいエピソードだ。

薇薇は無事退院。見送りに来たママと知暁と知晨
去り際に知暁に薇薇がVサインで告げたため、二人の恋愛成就がママに知られてしまった。

家ではみんなで興奮ぎみ。
何てたって、家族いち根暗で大人しい知晨が女の子をモノにしたのだ
知文は興味津々だ。
"普段は静かでおっとり屋さんのお前がまさかなあ!当然彼女がリードしたんだろ⁉︎"
大哥もテンション高め。
いつもはみんなを窘めるくせに…
"だって吉事だからな!"

"お前をソンケーしちゃうなあ、いざとなったら度胸があるんだよ。まさに柔よく剛を制す!"
知文哥の軽口は止まらない。
"いっぱい食べろよ、これからいっぱいエネルギーを費うんだからな"
何にエネルギーを費うのやら、知晨はもう何も口を挟まない。

そこへ電話が!
相手はもちろん薇薇。
"何の用?え?誕生日?じゃ明日ね"
大哥大興奮!
"おおー、彼女は積極的だな!こりゃ喜ばしい!"
大哥はオットリ静かな弟にピッタリの相手だと大喜び!

恋愛成就?!そうは問屋が卸さない

翌日、薇薇の誕生日。
朝からパパたちもうきうき、薇薇は嬉しさいっぱいで着るものを選んだりしている。
呼び鈴が鳴り、とうぜん知晨だとドアを開けたパパ、ところがーーー

何とーーー満面の笑みを湛えて佇んでいたのは
元カレ韓飛だった!
一家が戦慄して固まっているところへもう一回鳴り響くベル。
パパは顔を曇らせ、ドアを開ける。
何も知らない知晨が…

互いに目に飛び込んできた見知らぬ男、それぞれの手には同じデザインの指輪ーーー

一瞬にして招かれざる客となってしまった知晨

居間の時計の秒針までがハッキリと聞き取れるほどの静寂、まさにお通夜ーーー
耐えきれなくなったパパが明るく
"さ、スープでも飲んで"
と言った瞬間、薇薇が韓飛に噛み付いた。
"よく顔を出せたものだわ、三年よーーーあなた自分が何をして私を捨てたか分かってるの、出てってよ!!"
なぜ今更戻って来たのかーーー韓飛はこれには事情と誤解が、と言い訳を始める。
薇薇は聞く耳を持たず、出て行けの一点張り。

自分は場違いだーーーそう感じたのは韓飛ではなく知晨だった。
"みんなよく話し合うべきだ。僕はこの場に相応しくない、帰るよ。お誕生日おめでとう。これはプレゼントだ"
静かにそう言って渡された箱、開けてみるとあの魔法の指輪だった。
『魔法を信じる?指輪を嵌めた者どうし、運命で結ばれる…』
愛した子ができたら渡すよう知暁に言われたあの指輪。いわばこれはプロポーズなのだ。
薇薇は知晨を追いかける。

ズンズン歩いてゆく知晨を追いかけて引っ張って止める薇薇。
"怒らないで"
"ーーー怒ってなんかいないよ…君は過去のことをまず解決することだ"
いつものように冷静に静かにこぼす知晨。
"何回解決したって同じよ!"
そう言った薇薇に、知晨は感じたままを話す。
"でも君の中ではまだ彼へのこだわりが残ってるようにみえる"
だから踏ん切りをつけ、本当に解決するまでーー

持ってきた指輪を薇薇の指に嵌める知晨。
まるで予約をするかのように。
"君が好きだ…だから本当に彼のことを忘れてくれたらって願うよ"
僕のお嫁さんになってくれると信じてる。
知晨らしくそう微笑してーーー

一方、薇薇がいないことをいいことに、韓飛は徐に小切手を取り出してママに今の自分の立場を誇らしげに語る。
40万元!(800万円ほど)
これに更に毎年10万元ずつ送るというのだ。
韓飛は手切れ金の10万元を元手に起業し、今や気鋭のIT企業のオーナーになっていた。
過去の所業から良心の呵責にかられ、ママは謝り倒す。

"何を仰るのですお母様、あのときの僕は何も持っていない苦学生で、お母様がお嬢様の将来を心配するのは道理でした。
お母様が下さった金で僕は奮闘できたのです、変わってみせる、いつか認めて貰えるような立派な男となり、再びお嬢様に求婚するために!"

熱弁する韓飛に、パパがトーンを落として忠告を。
"でも済まないが、今薇薇は知晨くんと付き合ってるんだ"
ところが韓飛は全く動じない。
"さっき目の前で見ました。けれども僕は彼女を責めたりしません、己を責めるばかりです。
僕は彼女さえ幸せなら…彼女が心から彼を愛しているなら、それを祝福します…残念でなりませんが。だって僕たちはあれほど相思相愛だったのですから…それを忘れることは大変つらい"

韓飛は何度もママへの感謝しかありませんとか薇薇は何も悪くありませんとか何とか繰り返したため、ママはすっかり心を持ってゆかれ、いつしか知晨のような貧乏人よりも、韓飛とヨリを戻してもらいたいと心変わりしてしまった。
韓飛の作戦だ。
これを実際貧苦に喘ぎ、わずか15歳で家族を支えるためあらゆる仕事をし、妹を自分の代わりに高校に行かせ、学費を支払ってきた建飛が演じる。

その貧乏ゆえの体験が感動を喚び、彼は名門上海戯劇学院に席を置き、上海スターの出るドラマに出演し、歌えばチャート上位の売れっ子アイドルになってゆくのだ(このドラマの時点ではまだ上海戯劇学院にも通っていない。デビューのきっかけとなるオーディション番組『加油!好男儿』が終わった直後)。

避けては通れない李家の晩餐。
待ち構えていたママが詮索する。

"うまく行ったよ"
そう答えた知晨だったが、幼馴染を良く知るママは薇薇ママが快く迎えたことが信じられない様子だ。
大哥が窘める。"知晨が大丈夫だって言っているのに、母さんは不満なのか?"
知暁が指輪に気づいた。
"ああ、見つかったんだ。もう片方?もう片方は薇薇が持ってる"

ということはプロポーズ成功ということで、周りは大喜び。
"なんだア、何もなかったみたいなフリして、ちゃっかり指輪渡してんじゃん"
知文の明るさが、知晨には辛い。
渡したには渡したが…
自信はないのだった。

あの日の真実と三年の日々

"会ってよく話し合いなさい"
"君はよく話し合って、気持ちを整理するべきだ"
ーーーお互い薇薇ママと知晨に諭されて会うことにした韓飛と薇薇。
"彼が言うから来たの。言いたいことがあるならさっさと言って"
目も合わさず冷たくそう言い放った薇薇の横顔を見つめながら、韓飛は苦笑する。
"なら僕は彼に感謝すべきだな"
徐に立ち上がり、まさにこの場所で行われた"取引"を語って聞かせる。

手と手を取って共に幸せにいつまでも暮らそうーーーそんな夢だけ描いて駆け落ちをするつもりだった。
呼び出されここで会った薇薇ママは辛辣だった。

"僕はとても薇薇を愛しています、大切にし彼女を幸せにするために全力を尽くします!"
力説した韓飛にぴしゃりと薇薇ママは言い放った。
"あなたが与えられるのは貧困と辛苦だわ。
薇薇は贅沢に慣れてるの。あなたに薇薇との人生を送る機会は与えない。この十万元を持って2度と現れないで"

例えどこに逃げようと、金にものを言わせて必ず探し出し別れさせる。田舎の弟は上海の大学に受かったばかり、彼さえも利用して家族さえも巻き込んで幸せなどにはさせないーーー
十万元あれば一生家族は不自由なく暮らせるはず、受け取らねば弟に取らせるまでだ、そう追い詰め、薇薇ママは去っていった。

"ごめんなさい、私、貴方が大金を貰ったらそれさえあればいいと逃げたと誤解して恨んでたの…ママがそんな酷い仕打ちをしてたなんて…"
薇薇は罪悪感でいっぱい。さあここからですよ皆さん。
"薇薇。君は何も悪くないんだ。自分を責めないで。全ては過去のことさ。僕は君のママに強制された「酷い仕打ち」なんて水に流したし、今では君のママも「酷い扱いをして悪かった」と詫びてくれたし、僕を気に入ってくれたよ。

"君と僕は愛し合う2匹の魚。僕は君を世間の飛沫には晒したくない。君を守れるよう、君を幸せにできるように僕は海の水を浚ってでも努力し、誰にも後ろ指を指されたりしないような暮らしをさせてみせると誓ったんだ。
僕は君を愛していたし君と僕の絆を信じていた。
僕は君も僕と同じように僕を愛してくれてると信じていたから、何も言わずに去ったんだよ。
音信を断ったのも、全ては今のこの姿を見てもらうためだったんだ"

"あなたはこの三年どんな風に暮らしてたの?"
"そりゃあ辛かったさ。命がけで仕事に打ち込んでた。飲まず食わずで、眠ることもせず仕事をして…、疲れたら君の写真を見つめてた。
そうすると、疲れや苦しみは徐徐に、徐徐に消えてゆくんだ。
君に別の男ができる前に戻らないと、と思いながら"。

"…ごめんなさい、私…そうとは知らずに…"
"君のママから聞いてるよ。君にはもう新しい恋人がいるってね。
けど君たちはまだ知り合って間もないとも聞いた。
ね薇薇。僕のそばに戻ってほしいんだ。僕との愛、僕との絆の深さを思い出してみて。彼とどちらが強くて確かで長かったかを"

三年前の駆け落ちの時現れなかったことは韓飛でなく薇薇ママの差金。
飲まず食わず命懸けで働き、勝ち組に変身、最大の障壁、薇薇ママを味方につけた。
新しい彼氏ができたことも薇薇の落ち度ではない。
付き合ってきた時間は知晨より長いこと。
ここまで布石を打ってきた。さすが大学いちの秀才だ。

ーーー"僕が贈った指輪だね。まだ君は嵌めてくれてたんだ"
薇薇の指に嵌まった同じデザインの指輪。ややこしや。
"違うのよ、これは知晨がくれた方なの…ごめんなさい、まだ混乱して…気持ちの整理がつかないの"
混乱しながらもさすが薇薇。
『同じ指輪の謎』について詰問する。

"ね、韓飛。この指輪は知晨の弟さんの手作りなの。彼も私とは親しいの。同じ指輪だなんて、あなた、もしかしてこの指輪、どこからか奪ってきたの?"
ーーー韓飛は果たして、それには答えず
"彼と僕は不思議な縁があるようだ。
同じ指輪を嵌め、同じ女性を愛したんだから…"

大哥の決断

知凱は丁洁とのデートを重ねていた。
美人で洗練されている丁洁が花が好きと知り、嬉しくなって実家が花屋を営んでいると話す。
"結婚したら、好きなだけ店に行くといい。
母には君はもう会ってるんだ。でも僕には弟が知文のほかにまだ二人いてね"
丁洁は、四人兄弟と聞いて驚く。
"二弟はモデルをしてる。どことも契約できてないけど。三弟はソムリエで、街のセラーで働いてる。四弟は実家の花屋を手伝ってるんだ"
丁洁は知凱の家族に会いたいと思っていたと言ったので、その足で実家へ向かうことに。

店ではママが知凱のポスターを貼り直しているところだった。
店にいた知暁に椅子を持って来させたが、丁洁は初めて知暁が聾唖者だと知る。
"弟は幼い頃の病気で耳が聞こえないし話せない。でも弟は賢くて、唇を見たら君が何を話しているかを理解できるよ"
"そうなの…"
相槌をうちながら、丁洁は壁の知凱の写真に"売約済"と書かれてあることに気づく。
"また母さんはこんなことを…!"
ママは慌てて、
"だってあなたはもう逆玉に成功したんだもの、募集の電話が被ったら困るでしょ"
知凱は馬鹿げた写真を剥がさせようとするが、そこへ知文まで闖入し取っ組み合いに。
"…貴方の家っていつもあんなに賑やか(うるさい)なの?"
帰り道で知凱はみっともないことになったことを詫び、父を早くに亡くしたこと、自分が父の代わりを務めてきたことを話す。
''複雑なのね…"
丁洁の声は低い。

程なくして、今度は知凱が丁洁の母親と会うことに。
"結婚はいつになりそうなの?"
知凱は張り切って少しでも早く挙げられるよう頑張ります、と言うが
続いた母親の言葉に面食らう。
"今の会社は結婚したら辞めて、娘の父親の会社に来て頂戴。
住む家も気にしなくていいわ、どうぞここに住みなさい"

知凱は訝しみながらも、
"いえ、結婚後は今の実家に住むつもりです"
と遮ったが
"貴方の家は狭いじゃない"
と丁洁がさも論外、といった様子で同居を却下。
結婚後の生活のビジョンに、お互い齟齬があるらしい…

李家では降って湧いた入婿の話に急転直下。
理想の嫁はこの李家自体が気に入らないようだ。
知暁は勘から、反抗を示す。
"そんな話、ありえない。大哥、断りなよ"ーーー
ママは自分たちより知凱がお金持ちの女性と結婚する方が大事だと言い、知暁はフテ寝してしまう(部屋は知凱と知暁が一階で同室、知文と知晨が二階で同室。充分広いと思うが…)。

弟たちの気持ち、自分の気持ちーーー自分が守ってきた家族。
知凱は決心する

"この式場でいちばん腕のいいカメラマンなの"
結婚式場のパンフレットを嬉しそうに見せる丁洁に、知凱は厳かな気持ちで結婚指輪を贈る。
もちろん、知暁手作りのあの指輪だ。
"結婚指輪なのよ?こんなちゃちいの、つけられるわけないわ。パパが一流ブランドの指輪を用意してくれるから大丈夫よ"
悪いけど弟さんに返して、という丁洁の態度に、もう半分以上知凱はある覚悟をしていた。

"結婚は急がないでいい。今の実家で狭いのなら、僕がもう少し頑張って働いて、新しい家を買うよ。結婚はそれまで待とう"
"この間の私の母の話をまるで分かっていないのね"
丁洁はそもそも知凱の家族と同居するつもりはないと言う。なぜ私たちの、私たちだけの生活を、他の誰かに乱されないといけないのか。金なら充分彼らに渡せる。
あちらはあちら、私たちは私たち。煩わされたくない、と。
"母も弟たちもそれぞれ立派に働いてる。君から金を貰う必要はない。

さっきから私たち私たちと言ってるが、結婚するんだ。自分たちだけって訳には行かない。結婚というのは家同士でするものだろ。
僕の家族も君の家族だろう"
それを聞いて丁洁が言った言葉は、信じられないものだった。
"それが厭だって言ってるの。
貴方の家族は大勢すぎるし、みんなガチャガチャうるさいわ。二人の弟の職業は普通じゃないし
一番下の弟は身振り手振りでしかコミュニケーションが取れないし、貴方が言うようにみんな助けを必要としないなら、一緒に住まなくたっていいじゃないの。
貴方は今まで父親代わりに自分を犠牲にしてきたんでしょ。もう解放されてもいいんじゃないかしら"
ーーー

"ーーーつまり君は
僕に家族を放り出せと言いたいんだな"
"私はあんな人たちに自分の生活をかき乱されたくないの。耐えられないわ。
私を愛してるなら、私か、家族かなんて迷うことなんかないはずよ"

結局、知凱は丁洁と別れて帰ってきたのだった。
顛末を聞いたママは落胆のあまり激しく責める。
"相手方が私たちのことをどんなふうに思ってようと、構わないのに、何を拘って断ってしまったのよ⁉︎"
"俺だって男だ。自分の家族をあそこまで見下され、蔑ろにされて我慢がならなかった"

"お前がいなくてもみんなうまくやって行けるわよ。お前は小さい頃から身を粉にして家族の大黒柱として頑張ってきてくれたんだから、少しでも条件のいい娘さんと幸せになってほしいのよ"

"みんなが幸せでなくて俺が幸せだって思えるかい?
狭い家が厭だから
同居は厭だから別に暮らして
相手はみんなをばかにして蔑ろにして
金だけを毎月与えるだと?
家族と離れて幸せか?
みんな一緒にいられなくなって幸せか?
母さんはそれで幸せなのかよ?絶対だめだ!"

せっかくの縁談が壊れたのは自分を含む李家の特殊さにあると、ママは分かっていた。
自分の幸せよりも家族の幸せを考え、母親失格な自分も含め家族を大切に思ってくれている長男を愛しく思う。
"うちの長男はイケメンなのよ"
"誰にでも好かれる子なんだから"ーーー
荒れてカラオケで飲んだくれていたママは知凱に背負われながら酔ってそうわめく。

気まずい翌朝。
いつもの通り大哥のお小言を浴びせられ、知文は悪びれもせず煙たがり、知晨は口喧嘩に顔を顰め、体を屈めながら無言で食べている。

そこへ鳴る知晨の携帯。
"あら、薇薇から?"
ママに聞かれて、知晨は
"ううん、友達から"
と。知凱は好機を逃したが、知文はお金持ちと縁がありそうな仕事がら、知晨はお金持ちの令嬢と付き合っている。
期待をかけるママ。

喫茶店で知晨は韓飛と会っていた。
電話の主は、韓飛だったのだ。
"昨日僕は薇薇と会って、三年前からの酷い誤解をすっかり解いた。
薇薇は君に会いたいと言わなかったかい?"
"…いいや"
"誤解が解けたからには僕はすぐにでも彼女に僕の元へ戻ってほしいと思ってるんだ"
あからさまなやりくちに、知晨はことさら顔には出さずに、静かに問うた。
"…僕に釘をさしにきたのか"

"いや。挨拶代わりさ。(急に薇薇が自分の元に戻れば)君はショックだろうからね"
なんて陰険な野郎だ、と苦笑しながら、
"ありがとう"
礼で返す知晨。
"案の定君は冷静だ。他の奴なら、僕を殴ったろうな"
"ーーー君と少しばかり話しただけで、彼女の心が決まってしまうとは思わない。
殴るのは尚早ってものだ"
まだ勝負は決まっていない。

"…大したものだ。なら改めて戦線布告するよ"
誤解と腐れ縁から始まった恋。
彼女を想う気持ちが、これほど深まってからーーー
知晨は複雑な悲しみを、無言で噛み締める。

韓飛か?知晨か?
これからどうなる、ドキドキの恋⁉︎
李家4兄弟の恋模様、Part2につづく。





























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