返信用封筒は同封していない

 かわいいと思っている。私の周りの人、少なくとも顔と名前と声を知っている人はみなかわいい人である。年齢性別関係なく、二回り以上離れた上司でもかわいらしいし、一歳年下の後輩でもかわいい奴。かわいくない奴、と冗談めかして言われる人は、かわいくなくとも可愛げがあるのだ。私にとっては、両親兄弟も古くからの友人も大学時代の友達も職場の同期も、みなかわいいのである。
 私は自分の機嫌を自分で取ることができるくらいには自分というものを理解しているが、自分の外見も性格もかわいいと思ったことはないし、性格に至っては可愛げがあるとすら思えない。当社比顔の調子がいいなと思える日はあるし、服装や持ち物のセンスも浮かない程度に培っているという自負もある。だが、相手の発言に対してすぐ「でも」と言うし、相手の発言を要約しようとするし、ざっくりとした理解で分かったような相槌を打つし、記憶力がないのでこれまで学生時代に培った知識も今や閑古鳥が鳴くほど乏しい。街を歩いているだけで他人からどう見られているかぐるぐる考えているのに、静かな場所でボリューム調節を忘れて笑ってしまうこともしばしば。同行者の方が慌てることも稀ではない。頼ったりお願いをしたり甘えたりすることが苦手で、グループ活動から好きな人の前までも、一人で思考を完結させて相手が本当に考えていることを顧みず進んで一人で一喜一憂している。私は長続きしなかった友人関係がふたつみつある。尊敬できて大切で、一度は笑い合った仲で、私が嫌いになることはこれまでもこれからもない人。だけど不意にLINEの返信が途切れたと思っていたら、同窓会で明らかに避けた態度になっていてそれきりになったこともある。今でも思い出す度自分を戒めているが、戒めもただ感傷に浸って慰めているだけにすぎないのだろう。彼・彼女にとって私はもう思い出すきっかけも理由もなくなっているだろうし、私が都合よく切り取った記憶を慰めに使われるなんて、彼・彼女からすれば迷惑以外の何物でもないだろう。嫌いになることはないだなんて綺麗ごとを言って自分を正当化して、離れていった理由が分からないから全部私が悪かったと細かい原因を見ないで感傷材料にして、なんとも傲慢な人間ができているものである。そういう、嫌になる部分はたくさんあるし嫌な部分も分かっているけれど、動かずいるのだから結局直す気はないのだろう。ほら、こういうところが可愛げがない。
 中学生の頃読んだ漫画で、主人公が「地味で暗いから、人気者の君と仲がいいと思われると君に迷惑かと思って」と言うと「なんで私の株を気にするの、勝手に決めつけて納得しないで」と怒られているシーンがあったのだが、当時も、つい最近まで、怒られる理由がピンとこなかった。自分のことを好きだと言ってくれている周りの人の前で自分なんてと否定するのは、周りの人の気持ちを否定していることと同じで悲しまれるのだそうだ。理解はしたので普段自分の性格云々を会話に持ち出すことはないが、正直納得はできておらず遊んでくれる人には毎度、なぜこんな奴と一緒にいてくれるのだろうと不思議でたまらなくなる。私は、繊細な部分もあるけれど芯があって創造力があって行動力があっておしゃれで毎日頑張っている彼・彼女を知っていて、一緒にいたい、会いたい理由が明確にあるが、私自身に一緒にいたいと思える何かがあるとどうも思えないのだ。言葉にして伝えてくれる人がいて、励まされて自信を持てていることは紛れもない事実で、届けてくれた言葉は確実に私の心の支えになっている。心からの言葉であるという信頼ももちろんある。私だって、本心から言葉を伝えている。だけど、私の行動や言動はあくまで自己満足が根底にあるのだ。よく人に貢ぐのも、私が人にプレゼントを買うという行為が好きなだけであって、渡された相手がどう感じるかまで考えが至っていない。貰い物を負担に感じる人だって少なくないし、渡された物によっては持て余して迷惑な場合もあるだろう。私は同期女子に対してはすぐ好きだというし彼氏面をするのだが、私が言葉にしたいなと直感的に思ったからしただけだ。彼氏面して守らねばと思うほど彼女たちは弱い人間ではないし私よりずっと強かで思慮深くて丁寧な人だ。私の行動や言動を彼女たちが丁寧に受け取って、何か返さねばと考えてしまい負担となっていやしないかと、言った後で気付くのだ。学ばない奴。ただ、私の行動にきちんと言葉を重ねてくれる人が目の前にいることは事実で、誘ったら私と一緒にいるという選択肢を取ってスケジュールを開けてくれる人がいることも事実で、それを脳に教え込んでいこうと思う。何年かかるか分からないが。
 ここまできて言い訳じみているが、自分語りは得意でも好きでもない。だがどこかで寂しくて構ってほしくていじましく語ってしまう。矛盾こそ人間の醍醐味というところか。やれやれである。

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